※モブ花屋店員視点 ※夢主出てこない 小さい頃からの夢だったお花屋さんで働くこと2年。勉強することはたくさんあるけど、私はこの仕事が大好きで誇りを持っている。誰かを想って花を選ぶお客さんのお手伝いができることは大きなやりがいだった。愛情と幸せに満ち溢れた空間……こんな職場なかなか無いんじゃないかと思う。 「いらっしゃいま、せ……」 そして今、この平和な空間に激震が走った。 原因は今入ってきたお客さん。身長は2メートルあるんじゃないかってくらい大きい。髪型は弁髪?というやつでこめかみには龍の刺青が入ってる。 「……」 「……」 恐らく同じことを思ってるであろうバイトのユリちゃんと無言で目を合わせる。 めちゃくちゃ怖いお兄さんがいらっしゃった……!! もしかして社会に反する勢力の方なんじゃないかと震える。 お兄さんは店内をうろうろとまわって、バラの売り場で立ち止まった。「プロポーズするなら!」と私が書いたポップを腰を曲げて真剣に読んでいる。 「まさか……」 「プロポーズ……ですかね……?」 ユリちゃんと小声で話す。どうやら純粋にお花を買いに来たお客さんのようでひとまず安心した。 「すんません」 「は、はい!」 こそこそ見ていたら呼ばれてしまった。先月入ったばかりのユリちゃんを行かせるわけにはいかず、私がお兄さんのもとへ小走りで向かった。超怖い。 「プロポーズっつーと、やっぱバラなんすかね」 「そ、そうですね、定番ではあります。渡す本数によって意味が違いまして……」 プロポーズだった! 隣に立つお兄さんはやっぱり大きくて2メートルは流石に言い過ぎたけど威圧感が半端なかった。そんな見た目も雰囲気も一般人とは思えないお兄さんは時々相槌を打ちながら私の説明を真剣に聞いてくれた。 「実際どうなんすか、嬉しいもんすか」 「嬉しいですよ!」 「108本も貰って困んないすか」 「ふふ、正直多くて困る方もいると思います。他には彼女さんのイメージに合わせた花束とか、誕生花で作る方もいますよ」 気付けばお兄さんに対する恐怖心はなくなっていた。見た目で勝手に怖い人だと思ってしまったけど、花を選ぶ表情はとても優しくて彼女さんのことが大好きなのがひしひしと伝わってきた。 「彼女さん何色が好きですか?」 「水色だな。オレは白が似合うと思う」 「それだったら……」 それならば、と私の方もエンジンがかかってきてオススメの組み合わせを花言葉と一緒に説明した。 お兄さんの希望に寄り添いつつ、最終的に彼女さんをイメージした白いバラとお兄さんをイメージしたピンクのバラを中心に、ブルースターなどの小花で囲う花束が出来上がった。 「うまくいくといいですね」 「はい」 「ポイントカード……あ、作ります……?」 「……じゃあ作ります」 「えっあ、はい」 会計作業中、つい流れで聞いてしまったポイントカードを作ると言われて二度見してしまった。男の人ってほとんど作らないのに珍しい。 「年に一回、多分来ると思うんで」 「!」 それはつまり、来年のこの日にも彼女さんへお花をプレゼントするということですか。何なんですかその男前宣言。 お兄さんは出来上がった花束を片手にとても素敵な笑顔を残して帰っていった。 「……やばくないですか!?」 「ね!?」 見事に胸を撃ち抜かれた私とユリちゃんはお兄さんが店を出た後大興奮だった。ファンになりそう。いや、なった。あんなに素敵なお兄さんのプロポーズが失敗するわけない。 来年のこの日を楽しみに、明日からまた頑張ろうと思った。 prev top next |