「ひっ」 目が覚めたらイヌピーくんの顔面が目の前にあってガン見されていた。私の口から出たのは小さな悲鳴に見せかけた魂だったかもしれない。それ程に衝撃的な映像だった。 「……おはよ」 「お、おはよう、ございます……」 「何で敬語なんだよ」 朝から整ってる顔面を見てこの人ヒゲとか生えるのかな、と明らかに今考えなくていいことを思った。違うそうじゃない。今考えなきゃいけないのはどうして彼が私の家にいて私の寝顔をガン見していたか、だ。 昨日は確かイヌピーくんと堅ちゃんと居酒屋で飲んでて、最近太ったって話したら「確かにふっくらしたな」ってイヌピーくんに言われて腹立って、そんなこと言うならダイエット付き合ってよ!って変な逆ギレをして、それで……?この後がよく思い出せない。イヌピーくんがここにいるってことは私の家に連れ込んだってことになる。重要なのはそこで何をしたかってことだ。 「あの、私、昨日……」 「うん、可愛かった」 「!?」 イヌピーくんから「可愛い」と言われるのはこれが初めてだった。しかも笑顔のオプション付きである。普段の私だったらアンコールを要求していたところだけどそんな心の余裕はなかった。イヌピーくんはいったい私のどんな姿を見て可愛いと思ったのか。記憶をなくす程酔っ払ってた私に可愛い振る舞いができたとは思えない。 そりゃイヌピーくんのことは大好きだけどそういうのじゃないじゃん……と優等生のファンみたいなことを思ってはいても、酔っ払ったイヌピーくんを眼前にした時手を出さずにいられるかはちょっと自信がなかった。いったいどんな方法でダイエットをしたって言うんだ。 「身体、痛いとこないか?」 「平気!全然!平気!!」 さらに追い討ちをかけられてわんぱく小僧かってくらい前のめりで答えた。平気とは言ったものの、よくよく考えてみたらお腹と腿が筋肉痛になっていた。ナニしたの。まじで。 「名前体力ねぇな」 「!?」 「オレならあと50回はできた」 「50回!?」 「そんな驚くことか?」 え、うそ、イヌピーくん、50回って、ひゃあ……。 この時の真実を私が知ったのは約1ヶ月後だった。 prev top next |