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九井一



「え、ドンペリ初めて飲む!」
「飲みやすくて美味いよ」


私の誕生日の前夜祭として一くんがなんだかお高いレストランを予約してくれた。個室に案内されてフレンチのフルコースにドンペリまで出てきて驚いた。まだ付き合い始めて二週間しか経ってないのに……なんだか申し訳ないなぁ。


「美味しい……!」
「よかった」


産まれて初めて飲むドンペリはとても美味しかった。一般人でも違いがわかるくらい泡が細かくて、なんというかお上品な味だった。確かに飲みやすいけどガブガブ飲んでいいお酒ではないから少し遠慮してしまう。


「明日デズニー楽しみだなー!」


誕生日当日は私のリクエストでデズニーに行くことになっている。一くんとのデートは比較的落ち着いた場所が多かったから、乗り物で絶叫したり可愛いキャラクターと戯れたりすると思うと今からとても楽しみだ。


「もっと前もってわかってたら貸し切りにしたんだけどな」
「あはは、残念〜」
「……」


一くんってば、こんなジョークも言える人なんだなぁ。まだまだ知らないことばかりだ。
明日はどんな姿を見せてくれるんだろう。乗り物いっぱい乗りたいな。耳とか付けてくれるかな。一緒にめいっぱい、はしゃいでもらわなくちゃ。

















(ココ視点)


「この後さ……」
「ちょっと飲み足りないよね?あ、もちろん美味しかったんだけどオシャレすぎて!」


こんなはずじゃなかった。
名前が酒に強いことは知ってたけどまさかここまでとは。フレンチのフルコースを食べ終わるまでに名前はドンペリ1杯と、その後はオレがオススメしたワインを3杯飲み干した。どれも飲みやすいけど酔いやすいお酒なのに名前はピンピンしている。


「二軒目どうする?なんかからあげ食べたくなってきた!」


オレの予定では気持ち良く酔っ払って足取りが覚束ない名前の腰を支えて耳元で「ホテル予約してある」と囁くはずだった。
しかしどうだ、名前の足取りは覚束ないどころかいつも通りだし二軒目に行く気満々だ。


「確か西口にトリキが……」
「名前」


安い大衆居酒屋にオレを連れて行こうとする名前の腕を掴んで引き止めた。


「……ホテル、とってある」
「……!」


お互いに酔っ払ってないこの状態で誘うのはなかなか気恥ずかしいものがある。オレが下心ありきで今日の夜誘ったことはもうバレた。くそダセェんだけど。


「一くんのえっち」
「!」


全てを理解した名前はオレの掌を握り直して澄んだ瞳で見上げてきた。
えろいのはどっちだよ……心の中で文句を言って、次回はアルコールには期待せずストレートに誘おうと決めた。




( 2021.10 )

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