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灰谷蘭



「まだ飲んでるの?」
「夜はまだまだこれからだろー?」


お風呂から出たら蘭が2本目のワインを開けていた。
合鍵を持っている蘭は事前に連絡もなく気まぐれに私の家にやって来る。今日も仕事から帰ってきたら一人で晩酌を初めていた。もう慣れたから別にいいんだけど、蘭が買ってくる高そうなワインやシャンパンが私の一人暮らし用の冷蔵庫を圧迫してるのはちょっと嫌だ。


「名前も付き合えよ」
「やだよ、私お酒強くないもん」
「飲まなくていいから、ほら」


蘭はワイングラスを片手に自分が据わっているソファの隣をとんとん叩いた。このソファは蘭が勝手に買った物だ。元々私の部屋には1.5人用のソファベッドがあったのに、初めて家に来た時に「狭い」と文句を言って知らない間に買い替えられていて絶句した。ナチュラルを意識した私の部屋で革張りのソファは明らかに浮いている。冷蔵庫の件も文句を言ったら勝手に買い換えられそうで言えないのだ。


「んーいいにおい」
「蘭と同じだよ」


シャンプーやボディソープだって、よくCMで目にするものを薬局で買っていたのに、勝手によくわからない海外ブランドのいい匂いがするやつにすり替えられていた。今来ているパジャマも蘭からプレゼントされた物だし、カラーケースの一段は蘭のパジャマや下着で埋め尽くされている。
一人暮らしを初めて2年。最初の頃とは全然違う部屋になった。気付いたら1LDKのどこにいても常に蘭の存在を忘れることができなくなってしまった。


「私明日早いんだけど……」
「オレの方が大事だろぉ?」
「それとこれとは話が別」
「つれねェー」


はははと笑いながらも私を放す気はないようだ。
もちろん蘭のことは大好きだけどお互いいい歳だし、四六時中優先するような恋愛はしたくない。明日は大事な会議が朝から入ってるから日付が変わる前には寝たいのに。


「名前最近飲まなくなったよなぁ」
「だって……」


私も極端に弱いわけじゃないけど蘭に最後まで付き合える程でもない。最初の頃は2杯くらい晩酌に付き合っていたけれど最近は意識的に飲まないようにしている。何故なら、例え少量であってもアルコールは青城な思考回路を狂わせるからだ。一緒にお酒を飲んだ時、何度蘭に絆されて抱かれただろうか。


「んー?」
「蘭、近い」
「酔っ払ってるからなー」
「うそじゃん」
「マジだって」


このくらいの量で蘭が酔っ払うわけない。というか、私は多分蘭がわかりやすく酔っ払った姿を見たことがない。酔っ払ったなんて口では言うけど絶対ウソ。正常な思考回路を保ったうえで、わざと耳元に低く甘い声をぶつけてくるんだ。


「名前」
「ねえ、耳元で喋るのやめて」


私がこの声に弱いってことも、もちろんわかってる。


「ひとつ教えてやるよ」
「?」
「飲んでも飲まなくても関係ねーんだよ」
「! ら、蘭……!」


いつもの間延びした声から甘さが抜けたと思ったら、私はソファに押し倒されていた。指が、脚が、纏わりついて蘭の熱が伝わってくる。唇の熱まで押しつけられたら私の思考は簡単にとろけてしまった。蘭の言う通り、私がお酒を飲んでいても飲んでいなくても結果は変わらないみたいだ。


「だろ?」
「……人でなし」
「好きなくせに」


早く寝なきゃいけない私を共犯にするなんて本当に酷い人。
何でこんな危ない人を愛してしまったんだろう。後悔してるわけじゃないけど、深い口付けに応えながらどこか他人事のように思った。



( 2021.10 )

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