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03

「うー……」


原付に乗りながらヘルメットの中で唸ってみる。どうせ他の人には聞こえない。今の時間は5時40分。この調子で行けば50分にはトルファンに着くだろう。
今の今まで、ていうか今もまさに脈がいつもより速い。正直講義内容は何も頭に入ってこなかった。原因なんてわかってる。これから朋也に会うからだ。朋也に会ったらまず何て言おう?やっぱ「久しぶり」かなあ。
緊張して声上ずったりしないかな……顔とか赤くならないかな……ああ逃げたい。でも会いたい。


















「あははははっ!」


冒頭の私の乙女らしい葛藤はどこへやら。私は朋也を見た瞬間爆笑した。何故なら……


「何その髪の毛!」
「うっせーなァ!」


髪、超伸びてるんだもん!縛ってるんだもん!
朋也って坊主のイメージ強かったからなんか新鮮っていうか、もうネタにしか思えなくて……!


「あはは……久しぶりだね!」
「おー、久しぶり。」


でもそのおかげでさっきまでの緊張が嘘みたいにおさまって自然な笑顔を浮かべることができた。それにつられて朋也もニカって笑う。笑い方、変わらないなあ。


「俺、今美丞で野球部の監督やってんだ。」
「うん、知ってる。呂佳から聞いたよ。」


そういえば「話がある」って呼ばれてたんだっけ。
まあ……トルファンを選んだ時点で、期待しちゃいけないことはわかってたけど。相手はなんてったって朋也だし。


「そんでさ……名前、今忙しい?」
「ん?」
「授業とかバイトとか……」
「んー……何で?」
「平日の夕方とかできれば土日も……暇な時間ない?」


なんとなく、朋也の言いたいことがわかってきた。


「要するに?」
「美丞のマネジやってください!」


うん、どうせ野球関係のことだとは思ってた。


「マネジって……私大学生なんだけど。」
「部員50人ともなるといろいろ大変でさー。一応2人いるんだけどそいつらじゃまわらなくて。」
「……」
「それに女がいた方があいつらもやる気出るだろ。うち男子校だし。」
「サイテー。」
「ってのは冗談で。本当頼む!」


両手を顔の前で合わせて目を瞑る朋也。こう必死にお願いされたら揺らいでしまう。でも女子大生が男子校の野球部のマネジでしょ?大丈夫?それ犯罪くさくない?


「わ、私だってサークルやってるし……」
「来れる日だけでいい。」
「別に私じゃなくても……」
「名前じゃなきゃダメなんだ!」
「!?」


ちょ、大声でなんてことを言うんだ。そんな真剣に見つめられたら勘違いしちゃうでしょうが。ほら、周りの人も見てる。絶対勘違いされてる。本当、こいつって野球のことになると周りが見えなくなるんだから。それがわかってるのに、少しドキッてしちゃった私のバカ野郎。


「……わかった。」
「マジ!?」
「来れる日だけでいいんでしょ?」
「おう!ありがとう!」


結局私は昔からこいつに甘いんだ。





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