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「あら!野球部のエースくんが私に何の用かしら!?素敵なタレ目ね!」
「……」
「だから言ったろ、会わない方がいいって……。」
名字が昨日言っていた写真部員の「梅ちゃん」は女だった。……凄まじい女だった。
「すげー強烈だった。」
「だろ。」
今日の昼休み、早速6組を訪ねてタケに「梅ちゃん」がどいつなのか聞いてみた。そしたらタケは顔を一気に青くして、何事かと思ったら後ろから女の声とカメラのシャッター音。
「梅ちゃん」が女であったことに安心する暇もなく、ものすごい勢いで写真を取られた。タケが顔を青くした理由がわかった。昼飯をしっかり食ったはずなのに午後の授業はすごくぐったりした。
「つーか何で急に梅林を見に来たんだよ?」
「え?あー……写真部って聞いて。」
「……ああ。」
そう言うと納得したように俺に温かい目を向けるタケ。やめてくれその目。
「そーいや名字は?」
「あれ、いねーな。」
ちなみに今は部活の休憩時間だ。
いつもならみんなにドリンク渡すか写真撮ってるかしてるのに。洗濯場の方にもいなかった。どこ行ったんだろ?
「名前ちゃんなら体育館に行ったよー。」
「体育館?何で?」
「ん〜……何か届けるって言ってたなあ。」
何か届けにって誰のところに?体育館……もしかしてバスケ部か?バスケ部には確か写真部と兼部してる「司」ってヤツがいるはずだ。もしかしてそいつのところに行ったんだろうか。
「そんな気になるなら行ってくりゃいーじゃん。」
「……すぐ戻ります!」
「おー、ホントに行った。」
後で絶対からかわれるんだとわかってはいてもここで行かなかったら絶対後悔する。「司」が名字とどういう関係なのか突き止めるチャンスだ。
「!?」
そして俺は見てしまった。
「わっ、司……!」
司ってヤツが名字を抱きしめてるところを。頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「ちょ、司、離して……」
「んー?」
ぐいぐいと相手の肩を押す名字。だけど名字の力じゃどうしても押し返せないみたいだ。司ってやつはそれに気づかないフリして更に体を密着させやがった。
これ、どう見ても名字嫌がってるよな……?
「おいっ何してんだよ!!」
「「!」」
そうとわかれば黙って見てるなんてことできなくて、俺はそいつから無理矢理名字を引き剥がした。思いっきりそいつを睨んでみたら……
「な……!?」
「何アンタ?私と名前の邪魔しないでよ。」
お……女……!?
そう、司って奴は女だった。理解するとともに勘違い野郎甚だしい自分の行動に羞恥心がこみあげてくる。
「高瀬くんどうしたの?ドリンク足りなかった?」
「あっ、いや、違くて……」
言えるわけねーだろ、名字と司ってヤツの関係が気になって追いかけてきたなんて。
「ふーん……名前、先に行ってなよ。高瀬は私に話があるみたい。」
「は!?」
「え……高瀬くん、司のこと知ってるの?」
「え、と……ま、まあ。」
「そうなんだ。あ、じゃあ私行くね。」
「うん、ありがとねー名前!」
咄嗟に口裏を合わせたけど、俺は司なんてヤツ今日初めて会った。話があるのはもちろん俺じゃなくてこいつの方だ。さっきの行動で俺の気持ちはおそらくバレただろう。逃げたい。でもここで逃げたら面倒なことになりそうだ。そんな俺の気持ちなんて知らずに、名字は野球部の方に戻って行ってしまった。
「アンタが噂の“高瀬くん”ねェ……。」
「噂?」
「別にー?で、名前のこと好きなんだ?」
「!」
「あれだけ露骨に嫉妬しといて『違う』なんて言えないよねー。」
「う……」
否定できなくなった俺は素直に頷いた。
すると俺を上から下まで、まるで品定めをするかのように見てくる司。いったい何だっていうんだ。
「…転校生にしても、何も私にまで嫉妬しなくていいのに。独占欲強いと嫌われるよ?」
「違っ、俺はてっきり男だと……」
「……は?」
「あ。」
しまった……!
「へー?ふーん……私を男だと思ったわけ。」
「あ、いや!顔見えなかったし……背ェ高かったし!」
「次は無いと思え、タレ目。」
「うす。」
頭鷲づかみにされながら凄まれたらもう逆らえない。
俺の頭に伝わる司の握力はハンパなかった。さすがバスケ部。
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