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10

「ぶはっ、この利央超ウケる!これも入れよーぜ。」
「ええ〜!?何でそんな俺ばっかぁ!」
「なー名字これも入れていいー?」
「うん、いいよ!」
「名前さんー俺それ入れてほしくないぃー。」
「え?でもこの利央くん可愛いよ?」
「全然嬉しくない!」
「利央スネんなって。」
「………」


先日言った通り、名字が一人でやっていたアルバム製作のことを下級生に知らせてみんなで手伝うことになった。確かにそうしようって言い出したのは俺だし本当にそう思っている。でも少し……いや結構……後悔している自分もいるわけだ。
アルバム製作はクラスの縦割りごと日替わりで昼休み、写真部の部室に集まって作業することになった。今日は4組の番。俺と木村と高橋と長谷川と利央……そして名字の計6名が集合している。
部室っつっても運動部みたいに着替える必要がない文化部の部室は比較的狭い。椅子を出して10人座ればきついぐらいだ。名字は左端に座っていて、その隣が高橋で前が利央。そんで利央の隣に一人挟んで、俺は名字と一番遠い席。


「何で俺の写真変なのばっかなんだよぉ〜……」
「あはは、ごめんね。今度かっこいいところ撮るから。」
「ホント?」
「うん、本当。」


机にうなだれた利央の頭を撫でる名字。な、何だよそれ……!何ナチュラルに頭撫でられてんだよ利央のヤツ……!
いやいや落ち着け、落ち着くんだ俺。これはアレだ、猫とか犬とかを愛でる感覚だろ。うん、だって利央だし。だからムカついたり焦ったりする必要はないじゃんか。うん、だって利央だし。


「じゅーんーサーン。」
「……何だよ。」


さっきまで名字の前に座っていた利央がわざわざ俺の隣にやってきた。それもニヤニヤしながら。うざ。


「準サンさっきから顔怖いんだけど……席替わってあげよっか?」
「………」


こいつのドヤ顔、まじうぜェ。
イラっとしたから頬杖をついていた利央の右腕を殴っといた。「準サン酷いー」と喚く利央は無視して俺は席を立った。


「ちょっとトイレ行ってくる。」
「おー。」




















「はあ……。」


トイレに行くとは言ったけど尿意は全くないから外に出て頭を冷やす。利央が頭撫でられたぐらいで動揺するなんて本当ガキだ。あんなのどうってこと……いやでも普通頭とか撫でるもんか?
ダメだ、どうしてもいろいろ考えてしまう。ちょっと炭酸でも飲んで目ェ覚まそう。


「あっ。」
「!?」


自販機がある通りの角を曲がろうとしたところ、そこからひょこっと名字の顔が覗いてきた。名字にぶつかる寸前でなんとか止まって衝突は避けたものの、名字って認識した途端心臓がバクバクし出した。


「えっと……ジュース買いに来て……」
「あ……そーなんだ。」


なんとなく微妙な空気が漂う。こういう時慎吾さんや山さんだったらうまく口がまわるんだろうな。


「あと、高瀬くんどうしたのかなーって、ちょっと気になって。」
「え……?」
「さっきから元気なさそうだったから。もしかして調子悪い?」


心配そうに顔を覗き込んでくる名字にグッときてしまったのはまあしょうがないとして、そんなに表情に出してただろうか。一応ピッチャーとしてポーカーフェイスには自信があるんだけど。
それともそれだけ俺のことをよく見てくれてるってこと?なんて都合の良い方に考えてしまう。誰か俺を自惚れるなとどついてくれ。


「高瀬くん……?だったら保健室に行った方が……」
「へーき!ちょっとボーっとしてただけだから。」
「本当?じゃあ、そういう時は炭酸だね。これあげる!」
「え?」
「炭酸飲むと目、覚めない?」


それには俺も全く同意見だ。てか、実際飲もうと思ってたところだけど……


「でもそれ名字が買ったヤツだろ?」
「うん。でも高瀬くんにあげる。」
「いいよ、飲み物くらい自分で……」


ジュースごときを好きな人に奢らせるのは男として嫌だ。だから自分で買おうと思ってポケットを探ったところで気が付いた。財布、カバンの中だった。
ポケットに手をつっこんだまま名字の方を見たら、目が合って小さく笑われた。


「ふふ、遠慮しないで。実は私炭酸苦手なの。」
「え、じゃあ何で……」
「えっと……炭酸が抜けた炭酸が好きで……でも、どうせなら炭酸のまま高瀬くんに飲まれた方が炭酸としても幸せかなあと思って……」
「ぷっ」
「?」


今度は俺が笑わされた。名字みたいに小さく笑うのは無理だ。口押さえたけど遅かった。
だって何だよそれ。まず、炭酸が抜けた炭酸ってそれもう炭酸じゃねーじゃん。ただの甘ったるいジュースじゃん。後半の言い分も意味わかんねぇ。何で炭酸の気持ち考えてんだよ……やべ、ツボ入った……!


「高瀬くん?」
「ぷくく……っ、名字おもしれー!」
「え!?」
「あーもうムリ!腹いてェ!」
「な、何で!?」


それで本人は至って真面目なんだもんなあ。俺が笑う理由が本気でわからないらしく焦ってるのもおもしれェ。


「とりあえずもらっとくよ。ありがとな。」
「う、うん!」
「今度は俺が何か奢るから。」
「え、いいよ。」
「奢る!名字に拒否権なし!」
「……ありがとう。」


なんだか利央ごときにヤキモチ焼いてた自分がアホらしく思えてきた。他人と比べてあれこれ考えるのはやめよう。



















「名字ってホントかわいーよなー。」
「そーそー。あの笑顔がたまんねー!」
「……」


アルバム製作を終えて教室に向かう帰り道。同じクラスの木村と高橋が盛り上がってる。
さっきまでの爽やかな気分が一転、ものすごくイラっとする。何だよコイツらまで名字のことそういう目で見てんのかよ。


「……で、準太!」
「うおっ、何だよ。」
「さっき名字と2人で帰ってきたけど何かあったのか?」
「はあ?」


いきなり何かと思えば、ものすごくニヤニヤしてる2人。すげー期待するような顔で見てくる。


「進展したのか?え?」
「なっ……」
「あんな機嫌悪かったのにすげーデレデレして戻ってくんだもんなー。」
「は!?」


え……ちょ、待てよ俺そんなデレデレしてたつもりは……っつーか、コイツらまさか……


「何で、知って……」
「は?準太が名字に惚れてること?」
「ばッ!声落とせよ!!」
「ンなもん見てりゃわかるってー。」
「なー。」
「マウンドではポーカーフェイスなくせに、わかりやすすぎ。」
「相手が名字じゃなかったら本人にも気づかれてるって。」


……言葉が出ない。
バレてるのは慎吾さんとか山さんとか和さんとか……そこらへんの鋭い人達だけだと思ってたのに。


「な…な……」
「今更だな、準太。」
「頑張れよ。野球部はお前の味方だぜ!」


野球部のヤツら全員にバレてんの!?






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