08
From:慎吾さん
Sub:Re;
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ちょーどいーじゃん
放課後まで待ってやるから
名字をモノにしてこい!
「……」
数分前、慎吾さんにヘルプメールを送って返ってきたのがこれだ。
いやいや話かみ合ってねーって。俺は助けてっつったのに何で放課後まで待たれるんだよ!しかもどんな助言だこれ!和さんなら助けに来てくれそうだけど、あいにく和さんは授業中に携帯いじるような人じゃない。
「慎吾さん何だって?」
「ほ、放課後まで来れないって。」
「そんな〜……」
他に授業中携帯見るような人は……山さん……はダメだ。絶対慎吾さんと似たようなこと言ってくるに違いない。利央は……寝てるな。多分。それにあいつ隠れて携帯いじるのとか下手そうだ。没収されるのがオチだな。
「……」
「……」
密室に2人きりなんて、そりゃ少しは期待した展開だけど実際にそうなるとどうすればいいかわからない。
「ま、まあ、たまにはサボってもバチは当たらないよ。」
「あ、ああ……」
よくない。サボるのがじゃなくて、1時間も名字と密室の中2人きりなのがよくない。
別に慎吾さんが言うようないやらしいことやろうなんてことはこれっぽっちも考えてないけど!ないけども、間違いなく意識はしてしまう。なんてったって俺名字のことが好きだから。
「体育楽しみにしてた?」
「いや、今日長距離だし休めてラッキー。」
「ふふ、そっか。」
「じゃ、アルバム進めよーぜ。」
「うん!」
慎吾さんには悪いけど俺はまだ名字に何かするつもりはない。意気地なしとでも何とでも罵ればいい。夏大が終わるまで我慢するって決めたんだ。
「そうだ、高瀬くんに見せたいものが……」
「え、何?」
名字は嬉しそうに笑いながら後ろの棚に一生懸命手を伸ばした。けど……なかなか届かないみたいだ。あーもういちいち可愛いの何なの。
「どれ?」
「あ、えーと……その、1番左の茶色い封筒……そうそれ!」
俺が後ろから手を伸ばすと、名字は恥ずかしそうに笑ってこっちを見た。やばい可愛い。
「見ていい?」
「うん!」
名字から目をそらすためにその茶色い封筒の中身を見ることにした。入っていたのは2枚の写真だった。
「……俺?」
そこに写っていたのは両方とも俺。片方はすごい不機嫌そうな顔をしてて、もう片方は寝てるとこだ。
「こっちは初めて野球部に来た私に高瀬くんが注意したときので、そっちはこの前の雨の日に寝てたときの。上手く撮れてるでしょ?」
「おお……。」
どうりでムスッとした表情してるわけだ。こんな顔で名字のこと見てたのかよ俺……感じ悪。
あの時のことはよく覚えている。名字の第一印象は最悪だったんだよな。無断で写真撮ってるミーハーな奴だと勘違いしたから。まあその後すぐいい奴だってわかったんだけど。
「こっちは別に隠し撮りっていうわけじゃなくて……いや、確かに無断で撮っちゃったんだけど……!」
うん、こっちはまったくもって覚えが無い。
雨の日に写真手伝った時……そういえば寝ちゃったんだよな。よかった、ヨダレは垂れてない。
19時過ぎに名字に起こされたときには雨はすっかり上がってて相合傘のチャンス逃したのがすごく悔しかったのを覚えている。
「なんか撮りたくなっちゃって。ごめんね。」
「別に、いいよ。」
なんか撮りたくなっちゃってって……そんな言葉にさえも俺は期待をしてしまう。
「その2枚すごく気に入ってるんだ。高瀬くんにあげる。」
「え……」
「あ、いらなかったら無理してもらわなくてもいいんだけど……」
「い、いる!……けど、もう1枚欲しい。」
「?」
「名字と一緒に撮りたい。」
「!」
勢いでとんでもないことを言ってしまった気がする。何どさくさに紛れてお願いしてんだよ。一緒に写真が撮りたいだなんて女々しい奴と思われただろうか。
「わ、私でよければ!」
俺の心配はよそに名字は快く承諾してくれた。
「俺が撮っていい?」
「うん。カメラ使う?」
「や、携帯がいい。」
携帯ならいつでも見れるし。何なら待ち受けにだってできる。恥ずかしくて多分しないけど。
「えーっと……じゃあ……」
「うん!」
名字の無邪気な笑顔を見てたらすげー緊張してた自分がアホらしく思えてきた。そう、別に写真撮るだけじゃないか。友達としておかしな行動ではない。堂々とすればいいんだ。
「はい、チーズ。」
この1枚でこの夏、頑張れる気がした。
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