07
「ちょっと名前!!」
「な、何?」
「あんた高瀬くんと付き合ってんの!?」
「は……ええ!?」
やけにテンションが高いと思ったらいきなり何を言いますか。そんな、私なんかが高瀬くんと付き合えるわけないのに。
「だって呼んでるよ!?お弁当持ってるし!」
「え!?」
友人が指差した方を見ると確かにお弁当を片手に手を振る高瀬くんがいた。
「今どんくらいできてんの?」
玉子焼きを口に入れながら高瀬くんが言った。高瀬くんのお母さん玉子焼き上手だな。すごく綺麗。私のはいつも焦げ目がついちゃうんだよなぁ。
「……名字?」
「あっごめん、今は先輩全員分均等に進めてて……大体10分の1くらいかな。」
「10分の1……」
約束通り昼休みに手伝いに来てくれた高瀬くんは私の仕事の遅さに呆れている。不甲斐ない。
「あのさ……このこと、他の奴らには言ってないんだろ?」
「うん。なるべく秘密にしてびっくりさせたいから。」
「俺は言った方がいいと思うんだ。」
「!」
「名字一人に任せるのってやっぱ悪いし。」
高瀬くんは私にかかる負担を心配して言ってくれてるみたいだ。本当に優しい人だ。
「大丈夫だよ!私は好きでやってるんだし、みんなは毎日の練習で疲れてるんだから少しでも多く休まないと!」
「名字だって疲れてるだろ。」
「!」
「毎日、部員全員分の飲み物運んだりボール運んだり……洗濯だってしてんじゃん。疲れないわけねーだろ。」
高瀬くんは少しだけ口調を強めたけど怖いとは思わなかった。だって、その言葉は私を心配してくれてるからこその言葉だと思うから。それにほら、表情がとても優しくて安心する。
「俺達なら大丈夫だから。名字が思ってるほど弱くねーよ。」
「……」
「それに俺らの先輩だろ?俺たちが何もしないっておかしいじゃん。」
「……」
確かに、先輩達に何かしてあげたいって気持ちはみんなだって同じのはず。なのに部外者の私一人で突っ走ってしまっていたことが恥ずかしい。
「そうだよね……先輩たちと今まで一緒にいたのはみんななのに、いきなり私出しゃばっちゃって……」
「そうじゃなくて。」
「え……?」
今度は呆れた風に笑った。今日は高瀬くんのいろんな表情が見られるなぁ、なんて呑気に感心した。
「名字はもう俺たち野球部の仲間だよ。みんなそう思ってんぜ。」
「!」
高瀬くんの優しすぎる言葉に不覚にも泣きそうになった。泣き虫な女はめんどくさいって思われる。堪えなきゃ。
「くくっ」
「?」
「そこでそう考えるのが名字らしいよな。」
なんだかよくわからないけど高瀬くんは笑っている。高瀬くんが笑うと私も嬉しい。この爽やかな笑顔を独占できるなんて贅沢だなあ。
「じゃあこのことは今日部活終わった時みんなに言おうから。明日からみんなでやろう。」
「……うん!」
キーンコーンカーンコーン
「え!もうそんな時間!?」
「やっべ次俺体育だ!」
「うそ、ごめん!片付けは放課後にしてとにかく戻ろ……」
ガチャ
「……あれ?」
「どうした?」
あ、あれ、おかしいなぁ、カギかけてないはずなのに。
ガチャガチャ
「……」
どんなに回しても、押しても、引いても、上げても……
「ど、どうしよう、高瀬くん……」
「え……まさか……」
ドアが開かないよー!
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