04
「はー……」
この日の俺はいまいちテンションが上がらなかった。いや、この日だけじゃなく名字のこと好きだって思ってからずっとこうだ。
せっかく好きって気づいたのに名字は3年の誰かが好きなんだよなあ。告白してもないのにフられてるなんて情けない。
「準太!準太!」
「んあー?」
力なく机に伏している俺を起こしたのはクラスで仲がいいサッカー部の友人だった。どうせまた昨日のサッカーの話でもすんだろ。俺は見ねーっつってんのに。大体昨日は利央にマック付き合わされて帰ったの11時くらいだったんだぞ。少しは寝かせてほしい。
「お前いつ名字さんと知り合ったんだよ!?てか付き合ってんの!?」
「……は?」
「名字さん、呼んでるぞ!」
「……は?」
一気に目が醒めた。
「ごめんね、疲れてるのに……」
「いや全然。」
さっき友達に思ったこととは全く反対のことを口にする俺はゲンキンな奴だ。でも本当にそう思ったんだからしょうがない。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと昼休みいいかな?」
「!」
よく見たら名字の手には弁当……つまり一緒に食おうってこと!?え、や、そりゃ嬉しいけど何でいきなりそんな……緊張する。
「どこ行く?」
「あまり人には聞かれたくないから人が来ないとこがいいな。」
「!?」
そ、それって……!?いやいや落ち着け。平然を装え。
「れ、礼拝堂の裏、とか……」
思いっきりどもってしまった。
「涼しい!」
「だろ?」
いつも通り、いつも通り。頭の中で何度も呟きながら名字の隣に腰を下ろした。
「で、さ……どーしたの?」
「実は高瀬くんに聞きたいことがあって……」
名字は左右を見て周りに誰もいないことを確認してるみたいだ。そこまで人に聞かれちゃまずい話っていったい何なんだ。
「和さんって甘いもの大丈夫かな?」
俺の方に近づいて(やばい)、ちょっと上目遣いで(やばい)、小声で言った。
その瞬間、俺の中で何かが決定的に崩れ去った。例えるならジェンガが崩れるような、そんな感じだ。名字のこの一言は俺にいろいろわからせるのには十分だった。
きっと名字は和さんのことが好き。それで、手作りお菓子をプレゼントしようとしてる。だからバッテリー組んでる俺なら詳しいと思って聞いたってわけか。自覚してわずか3日にして俺の失恋が確定した。
「高瀬くん?やっぱ疲れてる?」
「い、いや!ごめん!」
一人でいろいろ考えてたら返事するのをすっかり忘れてた。
心配そうに顔を覗き込んでくる名字を見てるとなんだか申し訳なくなってくる。たった今失恋したといってすぐに気持ちを切り替えるなんてこと出来るわけがない。名字を見て「可愛い」と思ってしまう自分がいる。
「別に甘いものは苦手じゃない、と思う。」
「そっか、よかった!」
こうやって本当に幸せそうに笑う名字を見ても「可愛い」って思う。本当に俺、名字のこと好きなんだと実感した。ちくしょう悔しいな。もっと早く気づいていれば何か変わったんだろうか。
「慎吾さんとか山さんとかはわかる?」
「……え?」
「ていうか3年生の中に甘いもの嫌いな人いるか知ってたら教えてほしいんだ。最初からこう言えばよかったね。」
ちょっと待ってそれってつまり和さん限定じゃなかったってことか?だったら俺の勝手な勘違いで非常に嬉しいんだけど……
「何で3年?」
ただ、名字が3年生にこだわってるのは事実だ。もしかして今のは悟られまいと隠そうとしたのかもしれない。心臓バクバクで聞いてみると、また名字は周りを確認してから言った。
「実はね、3年生にアルバムプレゼントしようと思ってるの。」
「アルバム?」
「3年生って夏大で引退でしょ?どんなに勝ち進んだとしても引退しちゃえば本当にあっという間で……だから形に残るものを残してあげたいなって。」
じゃ、じゃあ、やけに3年生の写真ばっか撮ってたのも、俺に和さんのこと聞いてきたのも、そのためだったのか。
やっべ、俺今すっげー安心してる……口元緩むの止めらんねえ。
「……高瀬くん?」
「俺も!」
「?」
「俺も、手伝うから!」
多分俺は緩みまくった顔で叫んだと思う。
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