03
「かーずさん!」
カシャ
「不意打ちはやめろって。」
「いいじゃないですかー。はい、ドリンクです。」
「ああ、ありがとう。」
「高瀬くんも、はい!」
「ん、サンキュー。」
名字がマネジの仕事をやってくれるようになって1週間。名字はもう部員みんなと仲が良くなっている。そういう天性の何かがあるんだと思う。
マネジとしても優秀だ。日々のドリンク配りや洗濯はもちろん、相手校のデータを調べてきてくれたり
50以上いる部員全員のフルネームを覚えていたり……本当に名字がマネジになってくれてよかった。
「準さァーーーん!」
「んー?」
丁度良い濃さのアクエリ●スを飲んでいるとプロテクターをつけて張り切った利央が走ってきた。その様子はまさに犬。ちょっと笑ってしまった。
「和さん面談らしーから俺が受けるっスよぉー!」
「えー利央かよー。」
「何それひどいぃーー!!」
反応を見ると更に笑える。何でこいつこんな面白いんだろ。利央は俺にいじめられるっていじけるけど、いじめたくなるような性格してる利央にも原因はあると俺は思う。
「それよりぃー、俺わかっちゃったンすけどぉ!」
「何が?」
「名前サン、絶対3年生に好きな人いるンすよぉ!!」
「……は!?」
どーせいつもみたいに「慎吾さん眉毛剃った」とか「山さんが目ェ開いた」とか言ってくるかと思って適当に聞き流そうとしたが……そうもいかなかった。
「だってぇー、3年生の写真ばっか撮ってるんですよぉー。」
利央の言葉を何度も頭の中でリピートしながら名字を見る。
「慎吾さんいただき!」
「あ、テメーまた盗撮しやがったな。」
「自然な表情の方がいいんですよー。」
「うっせー名前も写れよ。」
「わ!?」
カシャ
「それできたらよこせよ。」
「えー、絶対私今、変な顔でしたよ……」
「最高じゃん。」
「慎吾さんー!」
そんな会話も聞こえてきた。
確かに慎吾さんは3年だ。まがりなりとも3年だ。つーかあの人名字の肩抱きやがった……名字も嫌がってなかったし……もしかして慎吾さんが……?
「山さんいいですねー!」
「んー、そお?」
「はい!」
「じゃー撮影料はちゅーで。」
「もー山さんってば!」
次は山さんのとこ。山さんも間違いなく3年だ。誰が何と言おうと3年だ。山さんは普通にセクハラ言ってる。も、もしかしてそういう仲だったのか……?
「準さァーーーん、いい加減投げてくださいよぉー!和さん帰ってきちゃうゥ……。」
名字を目で追っていたらすっかり投げるのを忘れてた。
「あっ、わかったぁ!準さんってば名前サン気になって集中できないんだ!」
「……」
ズドォ
「な、何するンすかいきなりぃー!」
「ちゃんと捕れよー。」
確かに利央の言われた通りなんだけどこいつに言われるとむかつく。
これ以上名字見てても仕方ない。っていうか落ち着かない。ここは利央の相手してやろう。
「シンカー投げてくださいよぉ!」
「ばーか、利央にはまだはえーよ。」
「えぇ〜!絶対捕るもん!」
この後の投球は全部コントロールが荒れた。利央の顔面スレスレにいったりもしたけど、まあなんとか大丈夫だった。和さんが戻ってきてからも調子は戻んなくて、心配されて……どうした俺。
なんだか落ち着かなくて名字の姿を探してみる。今は本山先輩のとこだ。何話してんだろ。楽しそうだ。
「準太!」
「はっ、はい!?」
「お前本当に大丈夫か?」
「は、い……。」
「悩みがあるんだったらちゃんと言えよ?」
「いや、大丈夫っス。」
名字の行動が気になって練習に集中できないなんて和さんに言えるわけない。
「準さんってばぁー、名前サンが気になって全然集中できないンすよぉー!」
「なッ……あほ利央何言って……!」
俺が思ってたことすんなり言いやがってこのあほ……!そんなこと聞かれたら和さんに呆れられてしまう。
「まあ、恋するのは自由だからな。」
「こい……?」
「でも調子は戻せよ。この状態じゃやばいからな。」
「う、ス……。」
恋……してたのか、俺。そう言われてみればそうかもしれない。そーか、恋してたのか。
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