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02


おれが初めて彼女と話したのは、彼女を畑で見た3日後だった。


「おい夏目知ってるか!?1組のドジっ子転校生!」
「え?」


西村の話によると1週間前1組に転校生が来たらしい。西村が騒ぐってことは女子だ。
そしてその子は『ドジっ子転校生』と呼ばれる程ドジだと言うのだ。
そんな会って話したこともない人のことをドジ呼ばわりするなんて失礼だし、本当にドジかもわからないだろう。
そう言ったら西村は彼女のドジ加減を証明する数々の出来事を教えてくれた。
転校初日には制服のリボンを忘れたり、教科書と間違えて漫画を持ってきてしまったり、つまづいたり転んだりは日常茶飯事だそうだ。
確かにそう聞くと人より鈍くさいように思うけど…どれも人から聞いた話だし、信憑性はあるのかと聞いてみた。


「じゃあ見に行こうぜー!」








「あれ、夏目。何か用か?」
「田沼…」
「噂のドジっ子転校生を見に来たんだよ!どこ?」
「…ああ、名字ならさっき花瓶の水を換えに行った。もうすぐ帰ってくるんじゃないか?」


そっか、1組ってことは田沼と同じクラスなんだ。
…それにしても田沼も『ドジっ子転校生』で通じるなんて……もしかして本当にドジなのか?


「あ、来た。」


田沼がおれ達の肩越しに何かを見ている。「来た」ということは、ドジっ子転校生なんだろう。
しかし振り返った瞬間におれが見たのは楽しそうに花瓶を抱えた女子と……彼女に足を引っ掛けさせようとしている子どもの妖怪。


「あ、あぶなっ…!」
「え?ッひゃあ!?」


叫んだ時にはもう既に遅く、彼女は少年の足につまづいて転んでしまっていた。


「うっわ、夏目大丈夫か!?」
「あっ…ご、ごごごごめんなさいいい!!」


そしてその拍子に花瓶の中の水が半分くらいおれにかかった。もう半分は彼女に。
彼女はそれに気付くと青い顔をして、おれと床に散らばった花瓶の破片と花を交互に見た。


「本当にごめんなさい!!大丈夫ですか!?えーとハンカチハンカチ…」
「わっ、ちょ…!ま…」
「名字、それティッシュだぞ。」
「…あああ!!」


ハンカチでおれの顔を拭いてるつもりだったんだろうけど、残念なことに彼女が手に持ったのはティッシュだった。
しかもビニール袋に入ったままの。少しチクチクした。
その様子を見て西村は爆笑。田沼も笑いを堪えてるように見える。まったく他人事だと思って…。


「ちょっと待ってくださいハンカチはちゃんと持ってるんです…えーと…」
「あ、待って。おれはいいから、先に花瓶を片付けよう。」
「おれ雑巾と箒持ってくる。」
「ご、ごめんなさい…」


見に来ただけで『ドジっ子転校生』のドジっぷりを見せ付けられてしまった。
……けど、最初に転んだのはあの妖のせいだ。周りを見渡しても、あの子どもの姿は見えなかった。
あいつ……3日前に畑で見た妖と同じだった。だとすると名字さんはあの時畑にいた人?
でも、だとすると何で…。3日前は彼女を助けていたはずなのに。


「何どうしたの?」
「ほら、また名字さんがやっちゃったそうだよー。」
「またぁ?」
「1日1回は何かやらかすよねー名字さん。」
「ね。ちょっといい加減にしてほしいかも。」


ふと、教室の中からそんな声が聞こえてきた。
―――花瓶の破片を片付ける名字さんは、俯いていた。






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