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「#エロ」のBL小説を読む
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08

「名前今日何食べるー?」
「えっ…とー、サラダうどん。」
「また?昨日もそれ食べてたじゃん。」
「そうだっけ?あはは…。」


名前が通っているのは新宿駅から歩いて10分の場所にある四年制の大学だ。理学部、教育学部、看護学部など理系と文系が入り交じっていて、学部によって偏りはあるものの全体の男女比は半々。名前は教育学部に所属し、初等教育を専攻している。


「ねえ……最近何かあった?」
「え…?」


同じ学部の友達、陽菜乃は名前とは反対にサバサバしていて名前の男性恐怖症に対しても理解がある数少ない人物だ。最初は「陽菜乃ちゃん」と呼んでいたのだが、「ちゃんづけされるとかゆい」ということで呼び捨てを強要している。
陽菜乃に指摘されて、名前はうつむいた。何かあったのかと言われて肯定するに十分な原因はいくつもあった。しかし日頃から気をつかってくれている陽菜乃に余計な心配はかけたくない。


「何があったの?私には言えない?」
「っ…!」


悲しそうな表情を浮かべた陽菜乃が名前の顔を覗き込んだ。
そういうわけではない。むしろ陽菜乃に言えないことが他の誰かに言えるわけがない。陽菜乃に相談してみよう…そう決意した時だった。


「お、陽菜乃だー。」
「丁度よかった!英語教えてくんね?」


二人の男子学生が名前と陽菜乃を囲んだ。
彼らは陽菜乃と同じ高等部専攻の学生で、陽菜乃と仲が良いため名前も知らないわけではない。2年でやっと話せるようにはなったが、積極的に目を合わせることはできない。
彼らも名前のことは陽菜乃から聞いていて恐がらせないようにと釘を刺されているので、割と理解がある方だ。


「それ私もわかんなかったんだよねー。ね、名前わかる?」
「え…と、」
「まず文の構成がわかんないんだよなー。動詞どれ?」
「動詞は、これ……だと思う。」
「じゃあこっちは?」
「こっちは関係節。関係詞が省略されてるんだと思う…。」
「「なるほど!」」
「ありがとなー名字。」
「っ…!」
「あ……ご、ごめんな?」


一人の男子生徒が爽やかな笑みを浮かべて名前の頭を撫でた。
もちろん名前はその瞬間固まる。男子生徒の方もつい、という感じで慌てて手を引っ込めた。


「えっと……き、きにしないで…ください。」
「!」
「なに名前、成長したねー!」
「え?え?」
「なー!俺今泣かれるかと思ったもん。」
「え……そう、かな。」


今までの名前だったら確実に泣いていた。が、少し震えてはいるもののそこまで恐怖は感じていないようだ。もしかしたら臨也のおかげで男性に耐性がついてきたのかもしれない。
陽菜乃は少し見ない間に名前の成長を垣間見て目を丸くした。


「名前アイス買いに行こ!」
「う、うん!」










「名字変わったよなー。」
「なー…。」
「へー。どういう風に変わったのかな?」
「「?」」


名前と陽菜乃が抜けた後、男子二人で喋っていると知らない青年が会話に入ってきた。全身黒ずくめのその青年に見覚えはなかったが、広い大学内のどこかにはいそうな顔立ちだった。


「え……誰?」
「俺は奈倉っていうんだけどさ、名前ちゃんについてもっと知りたいんだよねー。」
「名字とはどんな関係なんすか?」
「名前ちゃんの友達の友達ってとこかな?最近知り合ったんだけど、なんかうまくコミュニケーション取れなくてさあ。」


名倉と名乗った青年……折原臨也は名前の男性恐怖症について調べるためにここに来ていた。大学での友人ならば詳しいことを知っているかもしれないと思ったからだ。
まあ他のツテを使ってもいくらでも調べられるのだが、臨也は名前の交友関係にも純粋に興味があった。


「まあ……俺達もよく知らないけど、男が怖いみたいっすよ?」
「最初目も合わせてくれなかったもんな。」
「……へえ…。」


しかし今話をしている男子学生はそこまで名前と親しいわけでもないようだ。そもそも名前と親しい男子がいるのかが怪しい。


「多分時間が経てば慣れるんじゃないスかね。」
「相当かかると思うけど……でも、苦手ってだけで心から嫌われたり憎まれたりってことは絶対ないから気長に距離を縮めるしかないと思います。」
「なるほどねえ…。」


確かに言われてみればそうだった。
臨也も最初は目さえ合わせてもらえなかったが、ここ最近チラチラとこっちを見るようになったし言葉も交わしている。
名前の男性に対する感情は「恐怖」であって、「嫌悪」「憎悪」では決してないことは窺える。だとしたらこのまま気長に付き合っていけば、いつか自分を静雄以上に思ってくれる日が来るのかもしれない。
そうなった時の静雄の反応を想像すると、たまらなく面白かった。


「あ、戻ってきた。」
「何買った?」
「ピノ。あれ、一人増えてる。」
「……っ!?」
「あ、見つかっちゃった。」


そこで購買に行っていた名前と陽菜乃が戻ってきた。
陽菜乃は見慣れない人物に疑問符を浮かべ、名前は最近嫌という程絡んでくる見知った顔を見て血の気が引いた。


「? 名前、知り合い?」
「な、なっなな…っ…」
「いやー、大学っていいねえ。この自由な感じ。」
「なん、で…!?」
「あはは、名前ちゃんは本当に可愛いなあ。」
「ひっ…」
「…そろそろ仕事に戻らないと。じゃあねー。」


名前の期待通りの反応を見れて十分満足した臨也は、いつもの笑顔を貼り付けてその場をあとにした。追う者は誰もいなかった。


「え、大学生じゃねーの?」
「名前、今の人誰?」
「えっと……知り合い…?」
「何かされたらすぐに言ってね。なんかあの人うさんくさい。」
「あ、ありがとう。」




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