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05

名前は道の真ん中で立ち止まっていた。名前だけではない。他の通行人誰しもが立ち止まっていた。
何故ならば、目の前で「戦争」と呼んだ方がしっくりくるような凄まじい喧嘩が繰り広げられていたからだ。









今日は平日なのだが、午前だけで講義を終えた名前は家に帰ってのんびりしていた。食材は十分あるしレポートの課題がたくさん出ていたので今日は一日家に引きこもろうと考えていた。
しかし、そんな彼女を外に動かしたのは、池袋サンシャインの中で彼女のお気に入りのお店のタイムセールだった。
1時間程前、会員登録している彼女の携帯にそのお店からメールマガジンが届いた。春服が30%〜50%値引きされると聞いてはいてもたってもいられなくて、丁度化粧も落さずにいたのでパソコンの電源を切ってすぐに出かけることができた。


「いーーざーーやーー…死ねェ!!」
「うわっ、相変わらず危ないなあ、シズちゃんは。何で捕まらないんだろ。」
「テメェが捕まれ!そして死刑になれ!」
「あはは、こんな善良な市民を警察が捕まえたら警察が犯罪者だよ。」
「どの口がそんなことをほざくんだ、ああ゛!?」


……その道中で、池袋最強の男と新宿の情報屋の喧嘩に出くわしてしまった。
池袋サンシャインまでこの道を抜ければすぐなのだが……今あの中に身を投じるのは自殺するようなものである。


ドゴォッ


「ふわっ…」
「あれ、名前ちゃん?」


名前がどうやって池袋サンシャインまでたどり着こうか考えていると、静雄が投げた自販機の衝撃による風が塁の体をふらつかせた。
そんな名前に最初に気付いたのは臨也だった。後ろで鬼の形相をする静雄に背を向け、軽いステップで名前に近づいてくる。
「臨也には近づくな。会ったらすぐ逃げろ」と静雄に言われたばかりだが、名前の体は地面に根を張ってしまったかのように動かない。


「池袋に来る度に名前ちゃんに会えるなんてツイてるなあ!今日は何?買い物?」
「ひ、あ……」


怯える名前はおかまいなしに、臨也は名前の横に並んで静雄に見せ付けるようにその肩を抱いて引き寄せた。男の人と体が密着したことで、名前にかつてない緊張が訪れる。足からガクガクと震え、近づくのは嫌なのに臨也に支えてもらわないと立っていられなくなってしまった。


「テメェ……名前から離れやがれ!!」
「おっと、今それを投げたら名前ちゃんまで巻き込んじゃうけどいいのかな?」
「!!」


臨也は名前の背後に回りこみ、後ろから抱きしめるように腕を回した。
名前を盾にとられてしまっては手が出せない。静雄は舌打ちをして持っていた道路標識をその場に捨てた。


「あはは、本当に名前ちゃんのことが大事なんだねェ…。好きなの?」
「ちげェ。」
「俺は好きだよ?名前ちゃんのこと。」
「ひゃっ…!?」


臨也は楽しそうに笑いながら名前の耳に息を吹きかけた。名前の背中に悪寒とも呼べるゾクゾクとした衝撃が走り、顔を真っ赤にさせた。


「いいね、その反応。可愛いなあ名前ちゃん。」


その反応が臨也を楽しませることになってしまうのだが…。
気分をよくした臨也は名前に回した腕に力を入れて、更に体を密着させた。


「さ…っ触らないでください…!」
「う…」


静雄が臨也を殴り飛ばそうとするまであと5秒……というところで、名前が臨也の腹に渾身の肘鉄をくらわせた。
名前の渾身の力なんてたかがしれているが、不意打ちをくらった臨也から逃れるには十分だった。


「はは……ちょっと予想外だったな…」
「あ…!」


臨也から解放されたはいいものの、腹を押さえる彼を見るとどうしても罪悪感を感じて立ち止まってしまう。
臨也はその様子につけこんで更に痛がる演技をしたのだが、静雄のパンチによって中断。名前のとは違って、こんなのを真正面から受けたら骨の何本かは折れてしまう。


「じゃ、名前ちゃんにも会えたし今日はもう帰ろうかな。ばいばーい。」
「待ちやがれノミ蟲!」


飄々と逃げる臨也を追い掛ける静雄。
一人残された名前の目前には障害物がなくなったサンシャインへの道が広がっていた。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る中ふと時計に目をやると、タイムセールが丁度終わった時間だった。





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