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12

『名前!名前!』
「……?」
『ここだ!下だ!』
「下……?」
『やっと気付いてくれた!ありがとう名前!』
「え……ええええ!?」


学校の帰り道で、喋る小熊と出会いました。










『それでねっ、僕は名前がくれるご飯が大好きで、何か名前の役に立ちたくて、畑を守ってたんだよ!』
「そうだったの?ありがとう。」


えーっと……この子の話によれば、私とこの子の出会いは今月の始め。まだ私がこっちに来たばかりの頃だ。
昔酪農をしていたおばあちゃんの広い庭にはたくさんの動物が住み着いていて、私はたまにご飯をあげている。この子は以前そのご飯を食べてくれていたらしい。
…確かに猫とか犬とか猪とか、いろんな動物がいるけどさすがに熊はいなかったと思うんだけど……。
というかそれ以前に、熊は喋らないし、着物とかも着ないと思うんだけど…。


「あら名前ちゃんお帰りなさい。」
「あっ、塔子さん……」
「今日は一人?貴志くんは一緒じゃないのね。」
「え……」


この熊をどう説明しようと考えているうちに塔子さんから耳を疑う言葉が出てきた。
「一人」……?まあ一人は一人だけど……隣に着物着た熊がいたらそれなりの反応があると思うんだけど……


『あの人に僕の姿は見えないんだよ。』
「え……」
『だって僕は妖怪だもん。』
「……ええ!?」
「…名前ちゃん?」
「あっ…いえ、何でもないです!塔子さんはお買い物ですか?」
「ええ、そうなの。」


そして熊さんから信じられない言葉が出てきた。
でも確かに、塔子さんの目は私しか映していない。まるで隣の熊さんは存在していないかのように……
これ以上喋っているとボロが出そうだったから塔子さんとは挨拶程度で別れた。


「………あの、妖怪って……」
『僕たちの姿は普通の人間には見えないんだ。名前も前までは見えてなかったよね?』
「う、うん…」


そうだよ、私今まで生きてきて妖怪なんて見たことなかったもん。それが何で急に………


『それでね、名前、夏目っていう人間を知ってるでしょ?』
「!」


ふと、この前の夏目くんを思い出した。
あの時の夏目くんはすごく綺麗で神秘的で………どこか浮世離れしてる気がした。
そして夏目くんの正面には見たことないものがいて……もしかして、あれは妖怪だったのかな…。


『僕、50年前、夏目に勝負で負けて名前を取られちゃったんだ。』
「え!?」
『僕たち妖怪にとって名前はすごく大切なものなんだ。だから名前、夏目に僕の名前を返すように頼んでくれる…?』
「え、ちょ……え!?」


うるうるとした目で懇願する熊さんはとても可愛らしいが、それはちょっと置いておこう。いろいろとつっこまなきゃいけない。
まず、50年前夏目くんと勝負したって……いやいやいや!夏目くんまだ15歳ですよ!50年前生きてませんよ!
それから勝負に勝ったら名前を奪うっていうシステムもよくわからない。


『名前を奪われるってことは、その相手に絶対服従しなきゃってことなんだ…。』


何そのヤクザみたいな理不尽なルール…。そんなこと夏目くんがするわけない!夏目くんはすごく優しいもん!


「えっと……人違いじゃないかな?」
『そんなことないよ!この前名前と一緒に歩いてるのを見たんだ!』
「……」
『お願いだよ名前!夏目のところに一緒に行って!』


うるうるとした目で懇願する熊さんはとても可愛らしくて、つい頷いてしまった。






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