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10

最近、名字と夏目がおかしい。
名字っていうのはおれより1ヶ月くらい遅れてうちのクラスに転校してきた女子だ。
第一印象は、ちっさくて人懐っこい笑顔を浮かべるヤツだと思った。
そいつはおれの後ろの席になり、同じ転校生っていうこともあってよく話すようになった。
そして何日か過ごすうちに名字がどういうヤツなのか、だんだんとわかってきた。
一言で言うならば…ドジだ。『ドジっ子転校生』という異名がつくのも納得なドジっぷりだった。
つまづいたり転んだりは一日一回必ずする。他にも転校初日にリボンを忘れたり教科書と間違えて漫画を持ってきたり…。
そんなことをする度に名字は必死に謝って、その後で必ず悲しい顔をする。
多分名字のドジは昔からで、謝ることが条件反射になってるんだと思う。名字と話すとまず「ごめん」が出てくることが多い。


「…よお、夏目。」
「ああ…」


そんな名字と夏目が知り合ったのは1週間くらい前。
どうやら夏目の友人が噂の『ドジっ子転校生』を見に来たのに付き合わされたようだった。
そして花瓶の水を換えてきた名字に思いっきり水をかけられたんだ。…あの時は悪いと思いながらも笑ってしまった。
後日やけにご機嫌な名字に話を聞いてみると、夏目とは家が隣だったらしい。他にも一緒に登校したり、畑仕事を手伝ってもらったんだと嬉しそうに話してくれた。


「何か用か?」
「……いや…」


それなのに昨日、名字は一日中元気がなかった。
聞いてみると逆に「最近夏目くんとはどう?」と聞かれて、一瞬変な勘違いをされているのかと困ったけど、どうやら「最近夏目と普通に会話をするか」ということを聞きたかったらしい。
結局落ち込んでいる原因は教えてくれなかったけど…なんとなくわかる。


「……名字のことか?」
「!」
「…やっぱりな。」


二人の間に何かあったっていうことは見ていて明らかだ。
そして夏目と秘密を共有しているおれにとって、その何かはなんとなく予想できる。
以前夏目は名字のことをおれに聞いてきて、妖がからんでいると教えてくれた。夏目のことだ……大方、その妖がらみで名字を巻き込みたくない…って考えたんだろうな。


「田沼……最近、名字さんの様子は…?」
「落ち込んでる。お前が原因でな。」
「………」


おれも夏目に遠巻きされたことがあるから名字の気持ちはよくわかる。
少し棘がある言い方だと思ったけどありのままを素直に伝えることにした。それが名字にとっても夏目にとっても最善だと思ったからだ。


「ああ…でも、ドジする回数は減ったかな。」
「……そう、か…。」
「…何があったんだ?聞かない方がいいのか?」
「いや……聞いてくれるか?田沼…」
「もちろん。」
「実は……」











学校が終わった帰り道。私は途中で見つけたクロを抱えてトボトボと帰路を歩いていた。
この前まで隣を歩いていてくれた夏目くんは、いない。一緒に登下校しようって言ってくれたのにな…。


「はあ……」


夏目くんは優しい人だ。
初対面で花瓶の水をぶっ掛けてしまったというのに、笑って「気にしなくていいよ」と言ってくれた。
それから一緒に登下校してるときは鈍くさい私に歩幅を合わせてくれるし、塔子さんと一緒に作った肉じゃがを美味しいと食べてくれた。
夏目くんの言葉が、笑顔が、私の力になっている気がした。
……そんな夏目くんに避けられるなんて……私はいったい何をしでかしてしまったんだろう…。


「うわあっ!?」
「!」


夏目くんの悲鳴…!森の方からだ!
私は反射的に走り出した。途中で私なんかが夏目くんの力になれるのか、なんて考えてしまって頭を振った。
私は夏目くんの力になりたい!拒否されても…理由を教えてくれるまで諦めないんだから!


「あっ……!!」
「―――君に返そう…受け取ってくれ。」


夏目くんの姿を見た瞬間、私は咄嗟に茂みに身を隠した。
なんとなく、直感で見てはいけないものを見てしまっているようで。
夏目くんが紙を口にくわえてパンと両手を合わすと、まるで夏目くんの息のように紙から黒い線が出てきた。
その黒い線の先には……私が今まで見たことがない「もの」がいた。


「………」


ど、どうしよう、心臓がバクバクいってる…!
私はしばらくクロをぎゅっと抱きしめていた。






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