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「#エロ」のBL小説を読む
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07

「ん…うわあっ!」
「あははっ、夏目くん大丈夫?」


休日、おれは名字さんの畑仕事を手伝っていた。









「引っ張るのはもっと土を掘ってからの方がいいよ。」
「わ、わかった…」


草のすき間から小さな妖怪が視えて吃驚して尻餅ついたなんて、言えない…。
それにしてもこの畑……異様に妖怪が多いんだよなあ……。
どれも小さくて人に害を与えるヤツじゃないからほっといても平気だと思うけど…。
やっぱり名字さんは人より少し妖力が強いから寄ってきてしまうんだろうか。


「…お前ら、ここで何してるんだ?」


少し離れて作業している名字さんに聞こえないように、妖に聞いてみた。


『うわっ、お前、私たちが見えるのか!?』
『ぎゃーー喰われるーーー!!』
「喰わないから。質問に答えてくれ。」
『本当だろうな…?』
「ああ。」
『私たちはこの畑を守っているのさ!』
『害虫を追っ払ってやってるんだ!』
『このじゃがいもがこんなに大きく育ったのもおれたちのおかげなんだぜ!』
「へー。」


どうやら悪いヤツらじゃなさそうだ、よかった。むしろ良いヤツらだった。


「でも何で……何か義理でもあるのか?」
『自分のために決まってるだろ!』
『この畑を守れば、アイツはうまい飯を作ってくれるんだ!』
『人間の飯は美味いなあ。』
「うまい飯…?」


つまり名字さんがこの畑で取れた作物を使ってこいつらに食べ物を与えている…ってことか?
でも彼女は妖が見えないはずだ。いったいどうやって……


『うわ、アイツが来た!』
『逃げろ逃げろ!』
「え…?」


小さな妖たちは何かを見つけて身を隠してしまった。
アイツ……っ、まさか凶暴な妖か!?周りを見渡すと、黒い物体が名字さんに近づくのがわかった。


「名字さっ…!」
「あ、クロ〜。久しぶりだねぇ。」
『ニャー』
「……」
「夏目くん、ちょっと休憩しよっか。」
「…うん。」


……黒い物体は、黒ニャンコだった。
名字さんはそれを見つけると嬉しそうにそいつを抱き上げた。
久しぶり…っていうことは、知ってるニャンコなのか。そういえば前に黒いニャンコがよく来るって言ってたような…


「そのネコ、よく来るの?」
「うん。勝手にクロって名づけてるの。ニャー!」


クロの手を持って遊ぶ名字さん……可愛いなあ。黒ニャンコも可愛い。
ニャンコ先生は白だけど、正直おれは黒ニャンコの方が好きだ。
コイツの毛並み気持ち良さそうだ。それにスラッとしててかっこよくも見える。


「ちょっと触っても…」
『シャーッ!』
「うわっ」
「わ、こらクロ!おかしいなあ、大人しい子なのに…」
「はは…気にしないで。」


触ろうとしたら歯をむき出しにして威嚇された。う…地味にショックだ…。
クロはツンとおれから顔をそむけ、名字さんの膝の上で丸くなった。
……いいなあ、黒ニャンコ。先生もコイツくらい細ければ可愛げあるのに。


『見つけた……』
「ッ!?」


突然の低い声に後を振り返れば、先日狙ってきた鎌を持った妖が立っていた。


『お前…友人帳を持っているらしいな……』
「ちっ……」
「…夏目くん?」


どこで誰から聞いたのかは知らないが、友人帳をおれが持っていることを知ったらしい。
…つまり、こいつの狙いはおれだけ…ってことだな。それならいい。


「ごめん、急用思い出して…じゃあ!」
「あっ……行っちゃった…。」












「はあ……。」
『まったくお前は…次から次に妖怪にからまれおって!』


結局あの妖を追い払うのに、夜までかかってしまった…。
森の中を逃げ回っていたら丁度飲んでいたニャンコ先生に会って追い払ってもらった。
家の前まで来ると美味しそうな匂いがした。いつもより遅い時間になってしまったけど、心配させてしまっただろうか…。


「ただいま……ん?」


玄関を開けると、塔子さんのでも滋さんのでもない靴が一足並んでいた。お客さんだろうか?


「おかえりなさい、夏目くん!」
「え…伊倉さん!?」


居間からひょこっと顔を出したのは名字さんだった。
畑仕事を手伝うと言っておきながら急に投げ出したおれに対して、まだ微笑んでくれている。


「ふふ、名前ちゃんからじゃがいもを頂いたの。貴志くんも一緒にとったんでしょう?」
「塔子さんに肉じゃがのコツ教えてもらってるの。もうすぐできるよー。」
「あらあら泥だらけねえ。先に着替えてらっしゃい。」
「…はい。」


塔子さんと滋さん…そして名字さんと囲んだ食卓は今までで一番暖かくて、少し気恥ずかしかった。
その日食べた肉じゃがの味は、忘れないだろう。







■■
ナチュラルにネコをニャンコと呼ぶ夏目くんが可愛すぎると思ったのは私だけではないはず。




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