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たったの一度だけでいいから

名字名前、18歳。
若くして、それに女であって、真選組に入隊し真選組一番隊の副隊長という地位にまでのぼりつめた彼女は今日の夕刊を持ってわなわなと震えていた。


「隊長ォォォオオーーーー!!」










「沖田隊長!!」
「……」


バンッと名前が障子を開けたその部屋に沖田は寝転がっていた。
こちらを振り向きもしない沖田に構わず、名前はズンズンと中に入り沖田の前まで回りこんだ。
沖田は面倒くさそうにため息をつき、ふざけたアイマスクを額に上げる。


「またやらかしましたね!!」


沖田の目の前に広げたのはさっきまで名前が見ていた今日の夕刊。
その一面にはデカデカと「またやった!チンピラ警察真選組!」という見出しと、バズーカを肩に担いでピースしている沖田がはっきりと写っている。
沖田の背後には一般人の家と思われるものが2,3軒、全壊している。
これを見た名前が事を理解するのに1秒もいらなかった。


「おー、早いねィ。いい仕事してらァ。」
「そーじゃなくて!!」


憤慨する名前とは対照的に、沖田は冷静にマスコミの仕事の速さを褒めた。


「あれだけ勝手に出歩かないようにと言ったのに…!!」


沖田が一人でフラリと出歩くとろくなことがない。
長年部下を務めて、それを肌で感じてきた名前は決して沖田が一人で出歩かないようにいつも目を光らせている。
今日の巡回だってちゃんとついてきたのに、気付けば沖田の姿はなく、気付けば戻ってきていた。


「名字は俺の母ちゃんかィ?」
「違いますよ。」
「真面目に答えんな。これだから名字は彼氏ができねーんでィ。」
「なッ……それとこれとは関係ないでしょう!!」


顔を真っ赤にさせて怒る名前。それを見て沖田がニヤリと笑った。
誰もが認める頭脳と剣の腕で真選組隊士として認められた名前だが、少しばかり生真面目すぎるところがある。
そんな名前が何事もテキトーな沖田の下につくのだから、いろいろと衝突が起きるのは当たり前だ。
沖田としては真面目な名前をからかうことがこの上なく楽しかったりするのだが。


「そもそも何で部下のテメーが隊長に命令するんでィ。」
「わ、私は隊長にもしものことがあったら…!」
「へェ。俺のこと心配してくれてんのかィ?」
「なッ……違います!私は副隊長として…!」
「…ヘィヘィ、わかってますよ。」


いつもの決まりきった返事を聞いて、沖田は軽く目を伏せた。
そのまま寝返りを打って名前に背中を向ける。それはつまり、「もう話すことはない」ということ。
長い間部下を務めている名前はもちろんその意味を理解したが、そこを動こうとはしなかった。


「……私は、真選組一番隊副隊長……あなたの部下です。」
「……」


ぎゅっと、膝の上で掌を握って声を出した。
沖田は名前のこういうところが気に入らなかった。
本来ならば歳もそんなに変わらないのに、上司と部下という関係はどうしても厚い壁を作ってしまう。
そんなもの、名前との間に望んじゃいない。


「私の役目は、あなたをサポートすること。」
「……必要ねェ。」


「役目」という無機質な言葉を自分にあてる名前に、沖田はどうしようもなくイライラした。
その感情はいつもより低い声色に表れている。


「………隊長…」
「隊長って呼ぶな。」
「……」


自分を「隊長」と呼ぶ名前を冷たく突き放す。
名前は押し黙ったが、やはりそこから立ち去ろうとはしなかった。


「…私は…ッ…」
「……」


少しの沈黙の後に名前が口を開いたとき、そこから出た言葉はひどく震えていた。
沖田は驚いて閉じていた瞳を開ける。しかし、振り返りはしない。間違いなく名前は泣いているからだ。
真選組に来てから名前が泣いたことは一度もなかった。どんな厳しい状況にあっても、沖田にどんなイタズラをされても。


「…沖田さんに…、頼ってもらいたいんです……!」


震えながらもしっかりと搾り出された言葉は、ちゃんと沖田の耳に届いた。
チラリと顔だけ振り返ってみると、名前は両手で顔を覆っていた。
名前がやっとのことで吐き出した気持ちがまた彼女らしくて、沖田はため息をつく。


「………お、沖田さん…?」


溢れてくる涙を拭っていると膝の上にずっしりとした重みを感じて、名前は下を見た。
するとそこにはさっきまでそっぽを向いていた沖田の顔が名前の泣き顔を直視している。
無性に恥ずかしくて顔をそらしたくなったがそれは叶わなかった。
沖田の腕が伸びてきて、名前の涙を掬い取ったからだ。


「あの……」
「頼ってやってんでィ。これで満足かい?」


どうしていいかわからずオロオロする名前にニヤリと笑ってみせる沖田。
瞬間、名前の顔が真っ赤に染まった。


「なッ…私が言いたいのは…」
「うるせェ。眠れねーだろィ。」
「……」


一生懸命弁解をしようとする名前に有無を言わせず、沖田は目を閉じてしまった。
珍しくアイマスクはおでこの上のまま。初めて見る沖田の無防備な寝顔に、名前は何も言えなかった。


(私は……あなたを、守りたいんです。)







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