30:終わり良くなくてもまあいいや
「こんなもんじゃ、俺の魂は折れねーよ。」
真選組一同が煉獄関に到着し突入の機会をうかがっている中、名前は客席から一人の男を見つめていた。
その男は一般人のくせに一人で大きな組織を相手にしようとする大物、もしくは大馬鹿である。以前にも似たようなことがあったのを思い出した。
普段は死んだ魚のような目をした甲斐性の無い男だが、今己の魂を貫こうとする彼の目はひどく綺麗に見えた。
名前は不思議と、このちゃらんぽらんな男が嫌いではない。それどころか、どこか懐かしいと感じることが最近多いことに気付く。
その理由は名前自身よくわかっていた。しかしそれより深くは考えない。考えても無駄だからだ。
「……突入。」
銀時に続いて神楽と新八が乱入し始めたところで、名前は手に持ったトランシーバーに囁いた。
それと同時に隊士たちが闘技場になだれこんでいく。トランシーバーを懐にしまって、名前も客席から一直線に走り出した。
ドゴッ
「!?」
名前が降り立ったのは銀時の背後だった。後ろから剣を振りかざしていた天人を足蹴にして。
「名前…」
「ありがとう。」
銀時が振り返ると、名前はいつもより少し柔らかく、銀時に微笑んだ。
初めて見る名前の表情に銀時は戦闘中にも関わらず、軽く固まってしまった。
「あとは私たちに任せて。」
「勝手に巻き込んどいてそりゃないんじゃねーの?最後まで付き合うぜ、アネゴ。」
「……その呼ばれ方、嫌なんだけど。」
名前の言葉を最後に、2人はお互いの背中を離れて武器を握った。
それから数日後の朝。
『今日一番ツイてない方は………乙女座のアナタです。今日は何をやってもうまくいきません。』
「なんだよ〜朝からテンションさがるな〜。」
出張を終えて屯所に帰って来た近藤は歯を磨きながら天気予報の後の星座占いを見ていた。
『特に乙女座で顎鬚をたくわえ、今歯を磨いてる方、今日死にます。』
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
乙女座で顎鬚で今歯を磨いている……まさしく近藤だった。
『幸運を切り開くラッキーカラーは赤。何か赤いもので血にまみれた身体を隠しましょう。』
「どんなラッキー!?何にも切り開けてねーよ!!」
あまりにもブラックすぎる内容に呆れて近藤はテレビの電源を消した。
内心少しビクビクしているが、大体世界中の乙女座の人間が全ていなくなるわけがない。頭の中で冷静に考えて呼吸を整えた。
「ハイコレ。俺がガキの頃使ってた赤褌。大丈夫、洗いやしたから。」
「……」
それについて沖田に同意を求めたところ、沖田に渡されたのは赤い褌。乙女座のラッキーカラーだ。
沖田は褌を渡すとそれ以上何も言わずにその場を去った。そういえば目を合わせてくれなかった気もする。
「大丈夫って…何が大丈夫なんだよ。総悟の奴め、意外と心配性な奴だな。なァトシ?」
「…コレ、俺が昔使ってた赤マフラー。」
どこか余所余所しい沖田について今度は土方に同意を求めたが、土方に渡されたのも赤…乙女座のラッキーカラーのもの。
土方も沖田と同様にそのまま立ち去り、目も合わせてくれなかった。
「ちょっ…え?何これ?どうしたんだあの二人……なァ名前?」
「私からは特に無いけど……死なないでね。」
明らかに様子がいつもと違う2人について今度は名前に同意を求めたが、名前はただ一言、意味深な言葉を残して行ってしまった。やはり目を合わせてくれなかった。
「ちょっ…やめてよ〜何?俺が出張中に何かあったんじゃないだろうな…」
嫌な予感をひしひしと感じる近藤は引きつった顔で呟いた。
それから間もなく松平が襖を壊して登場し、最悪の一日が始まるのであった。
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