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29:腹を決めた者を止めるなんてヤボ



ザァァ…


その日は雨が降っていた。まるで、血を洗い流すかのような雨が。


「……」


名前は一人、万事屋の前で雨空を見つめていた。いつもの無表情だが、どこか切な気に見えるのは気のせいではないのだろう。
先日、煉獄関の常連の鬼道丸こと道信が何者かに殺害された。何者かなんて、わかっている。天導衆の手の者だ。
名前は道信のことも知っていた。
軽くどついて洗いざらい話してもらおうと思って後をつけたが、あんなに無邪気な子供たちから父親を奪うなんて、できるはずがなかった。
そして名前にいろいろわからせるのには十分だったのだ。


ガラ…


「……行くの?」
「……さーな。」


万事屋の玄関が開いて一人の男が出てきた。坂田銀時……ここの主である。
名前は「行くの」と聞いたが、答えなんて最初からわかっていた。
銀時は「さーな」と言ったが、名前が知りながら聞いてきたことなんてわかっていた。


「……」


銀時はそのまま振り返らずに階段を下りていった。
その背中を見て名前は呆れたように、でも少しだけ嬉しそうに笑った。


「新八、お前は足手まといだから来なくていいネ。」
「足手まといになんかならないよ。神楽ちゃんこそ、一生家に帰れなくなるかもだけどいいの?」


開けっ放しの玄関からもう2人出てきた。神楽と新八だ。
口やら頭やらに似つかわしくないものがついているが、彼らの気持ちも銀時と一つなのは確かだ。


「…行ってらっしゃい。」
「「行ってきます!」」


呟くと元気な返事が返ってきた。小さな2つの背中を見て、また名前の表情は柔らかくなった。


「……さて。」
「……」


名前が寄りかかっていた壁を離れたと同時に、今度は沖田が出てきた。
名前は沖田を見て、沖田は名前を見て、ニヤリと笑う。言葉は交わさずに2人はすれ違った。


「行きますか、副長?」


中に入った名前は玄関先ですぐに止まった。目の前には壁に寄りかかって土方がタバコをふかしている。
質問口調だがもちろん答えは知っていた。少しおどけたように「副長」なんて呼んでみたのもそのためである。


「……お前が敬語使うと気持ちワリーな。」


土方はふぅ、と煙を吐いた。













「名前、お前は残れ。」


一先ず子供たちを帰すために屯所に寄ったときに土方が言った。


「……」


名前は無言で土方を見つめた。
これから天導衆にたてつくような行為をすることになる。副長として部下にも指示を出した。
もし真選組が潰されるとなったとき、責任を取る覚悟はできている。


「女がいたら目立つ。」


「女がいたら足手まといだ」……そういう風に聞こえなくもないが、土方は名前が足手まといになんてならないことは知っている。
確かに男だらけの真選組の中で一人、名前が一緒に闘っていたら嫌でも目立つだろう。
それ故に目をつけられやすい……決して素直には言わないが、土方が気にかけているのはそこだった。


「……」
「…オ、オイ名前……」


名前は少しの間土方を見つめたあと足を動かした。
大人しく屯所に戻るのかと思いきや、名前は平然とした顔で車に乗り込んだ。


ブォオン


「ってちょっと待てェェエエ!!」


更にエンジンまでかけた。
土方はあとちょっとで置いていかれるというところで、なんとか車の中に飛び込む。


「おまッ、話聞いてたか!?お前は残れっつってんだ!」
「……」
「下手したらウチが潰されかねないんだぞ!?」
「そんなの、行こうが行かまいが関係ないじゃない。私の家はあそこなの。」
「……」


名前の言葉に土方は思わず押し黙ってしまった。


「それに……」


真っ直ぐ前を向いたまま名前は続けた。


「もうそんな口車、乗ってやるもんか。」
「!」


そう言った名前の顔が、数年前の名前とかぶった。
近藤や土方や沖田が江戸に出て行くとき、その背中をミツバと一緒に見送る名前は口をへの字に曲げていかにも不服そうだった。
もちろん最初は「一緒に行く」と言い張った。しかし近藤にうまく丸め込まれて、結局ミツバと残ることにしたのだ。
今は昔程表情に変化はないが、子供が駄々をこねたような雰囲気は昔の幼さを感じさせる。


「………勝手にしろ。」


こうなった名前に何を言っても無駄なことは昔からよく知っている。これをなんとかできるとしたら近藤一人だけだ。
土方は観念して新しいタバコに火をつけた。煙を吸って、心を落ち着かせる。
―――1つ重要なことに気がついた。


「お前免許持ってたっけ?」
「……」






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