25:彼女の一日 中
えー……謎多き名字名前さんのことを皆さんに少しでもわかってもらえるように始めた調査ですが……
山崎退、もうこんなことやめたいです。
「(……はぁ…)」
何で俺こんなことしてるんだろう……。本来ならミントンに魂を注ぎ込んでいるのに…。
前のを読んだ人ならわかると思うが、俺は今名前さんを尾行している。
気合い入れて早朝の4時から天井裏に張るのはいいが、名前さんが起きたのはその4時間後。
2時間も寝坊したうえに朝風呂に入ったり朝食を食べたりで、結局名前さんが仕事する素振りを見せたのは10時になってからだった。
自室に戻り、クーラーを28度設定でつけながら机に向かった。環境に優しいんですね、名前さん…。
「………」
「ニャー」
……だけどさっきから紅とじゃれるばかりで仕事する気配が無いんですけど。
パソコンを扱えない名前さんのデスクワークは、隊士達の報告書に目を通して問題無ければペンでサインをする事。
「ニャー」
あーあ、とうとう寝っころがっちゃったよ……仕事やる気0だよ…。
「………ほんっとお前も仕事ナメてんなァ。」
「げ、ムッツリだ。」
「誰がムッツリだァァア!!」
あ、やっぱ名前さん環境に優しくなかった。障子開けっ放しだったよ。お陰で通りかかった土方さんに仕事してないの見つかっちゃったよ。
名前さんは仰向けで紅を抱いたまま、顔だけ動かして土方さんを見上げた。本当仕事する気無いですね…。
「オイ、その報告書の山はいつのもんだ?」
「………先月から今日までの。」
「溜めに溜めまくってんなァオイ!!」
「大丈夫、全部問題無しってことで。」
「お前それちゃんと見たのか?サインしたのか?」
「1枚1枚サインするの面倒だからさ、もういいじゃん。全部ひっくるめて。」
「いいわけあるかァァァ!!」
もう……何ですか、この仕事のナメっぷり。俺も人の事言えないかもだけどさァ……こうも堂々と…。
「お前それ巡回行く前に終わらせろよ。」
「はァ?この山を?」
「そうだ。その気になりゃァできるだろーが。」
「その気になってないからできないの。」
「そんな堂々と言う事じゃねーな。」
……なんか夏休みの宿題を最終日に全て終わらせようとする学生みたいだ…。
確か名前さんの巡回の時間はお昼時…12時くらいかな。そんで今は10時をちょっと過ぎたくらい。
……果たして間に合うのだろうか。いや、でも名前さん本当その気になれば何でも手際よくやっちゃうからな。
「大体何で判子じゃないの?いつの時代よ。」
「判子でやったら隊士共がズルするだろ。」
「…ああ、中学生レベルだもんね。」
「そういうことだ。」
中学生レベルですか………まあ、否定はできないけど…。
「……ま、頑張れ。」
「土方代わりにやってよー。」
「お前いい加減常識的な考え方身につけろよ。そしてクーラーつけてんなら障子閉めろ。」
「このネチネチ姑め。」
「うるせーアホ嫁。」
「……」
「……別に今のはノってやっただけであって…」
「いや、わかってますけど?」
『嫁』って言った後少しの間を開けてから副長の顔が赤くなった。
確かに副長の言葉だけ聞いてみると誤解をうけるかも…。
『今土方が名前さんに対して“嫁”とか吐き捨てやがりました〜!嫁!嫁!』
「総悟ォォォォオ!!!」
ああ、運悪く沖田隊長に聞かれていたみたいですね…。ご愁傷様です。
スピーカー越しの沖田隊長の声を聞くと、副長はまさに鬼の形相で沖田隊長を追いかけた。
……障子はやっぱり開けっ放しだ。
「……閉めてけバーカ。」
最近名前さん、副長に対して口悪くない?
すると名前さんは紅を降ろして面倒臭そうに起き上がり、欠伸を1つ。
「…いい加減終わらそ。」
そう言うと、名前さんは投げ出されたペンを再び持ってすごい速さで報告書にサインをしていく。
やっぱりその気になればすごいや、名前さん。すごいんだけど……………絶対内容見てないって、コレ。
「言っとくけど奢んないから。むしろ奢って。」
その後、先月から溜めてた書類をわずか30分で終わらせた名前さんは、巡回の前にお昼をとるために街へ出た。
もちろんつけていますよ。忍装束ではなくて普段着に着替えて。
そんな時間あったのかって?そういうのは聞いちゃいけませんよ。
そしてある喫茶店の前でバッタリ万事屋の旦那と鉢合わせ。
名前さんは挨拶だけして別れようとしたんだけど旦那はさも当たり前のようにに名前さんに続いて喫茶店に入り、同じテーブルに座った。
俺はその後ろの席で2人の会話を傍聴する。
更に日替わりランチを頼む名前さんの目の前でパフェ頼んでるよ…。
「そんなケチ臭い事言わずにさァ〜。相当稼いでんだろ?なァ、毎月いくらよ?」
なんか旦那がしつこく名前さんの給料を聞いている。人の稼ぎ聞くとか…厭らしいなァ…。
「…それより借金返してくれない?」
「…あー、20円?それなら今ポケットに…」
旦那、4ケタも誤魔化してるよ…。
「20万。いつまで経っても払わなかったら心臓売ってもらいますから。」
「いやいや、心臓はいけないよ。心臓売るって…死ぬよ確実に。せめて肝臓とかね…」
「男だったら潔く売るべきだと思うの。」
「こればっかりは男も女も関係なくてね…」
「お待たせしました〜。」
心臓売ったら命終わるじゃないっすか!遠まわしに死ねって言ってるんだろうか。
旦那がブツブツ言ってると、注文した品がテーブルの上に置かれた。
ちなみに俺はコーヒー1杯をちみちみ飲んでいる。だって給料日前だし……。副長最近俺の給料減らしてくるし……。
「…よく昼間っからそんな甘ったるいの食べれるね。」
「それがよォ〜、聞いてくれる名前ちゃん?」
「嫌でも耳に入ってくる。」
「それがよォ〜、今日行きつけの店でね、宇治銀時丼食ってたの。そしたら大串くんがなんか隣にいて因縁つけてきてねェ。殴り合いの拍子に宇治銀時丼がお前……大串くんの頭に…コノヤロー死ねっていうことで甘いもん食いたかったんだよ。」
「ふーん。」
「俺の2文にもわたる台詞をたった3文字で片付けられちゃった。」
やっぱり…。副長の頭の小豆は旦那絡みだったのか。いやそれより宇治銀時丼って何なんだ…。
「………」
「………」
ってあれ、いきなり静かになったんですけど!一体何?なんとなく空気が重いよ…。
「……名前って色っぽいよなー…」
「………」
やっと口を開いたと思ったら……親父かァァ!!いきなりセクハラ発言だよ!何、いきなり!
「いや、食べ方とかさー、上品で……ねェ?それで棒状のもの舐められたら銀さん卒倒しちゃうね。」
「………」
下ネタ全開だなァオイィィ!!アンタもう真昼間に公衆の面前に出ちゃいけねーよ!教育によくないから!
「あれ?ノーリアクション?名前もしかして下ネタ駄目?いや、それはそれで俺ァ燃えるけどね。」
「それ以上言うと割り箸ケツの穴にブッ刺すよ。」
「あ、全然OKですね下の話。」
名前さァァァん!!
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