銀魂 | ナノ
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23:幽霊なんか怖くない


「う…あ…あ、赤い着物の女が…う…う、来る…こっちに来るよ…うぐっ!」


あの後、土方と沖田で近藤を便所から引き抜き、屯所の一室に布団を敷いてそこに寝かせた。
寝ている間も近藤はひっきりなしに赤い着物の女と呟く。


「近藤さ〜ん、しっかりしてくだせェ。」
「まったくいい年こいて寝言なんて……。」
「…これはアレだ。昔泣かした女の幻覚でも見たんだろ。」
「近藤さんは女に泣かされても泣かしたことはねェ。」
「じゃあアレだ。オメーが昔泣かした女が嫌がらせしにきてんだ。」
「そんなタチの悪い女を相手にした覚えはねェ。」
「…じゃあ名前だ。着物赤いし。」
「こんなことして私に何の利益があんの?」
「………じゃあ何?」
「しるか。ただこの屋敷に得体の知れねーもんがいるのは確かだ。」


日はすっかり沈んでいつの間にか夜。
あたりを照らすものはもう光源以外に何も無く、蚊の羽音がやけに大きく聞こえる。


「…やっぱり幽霊ですか。」
「あ〜?俺ァなァ、幽霊なんて非科学的なモンは断固信じねェ。ムー大陸はあると信じてるがな。」


幽霊を肯定する気持ちになってきた新八に、銀時は小指で鼻をほじってその手を神楽の頭に擦り付けて面倒臭そうに言った。


「アホらし。つき合いきれねーや。オイ、てめーら帰るぞ。」
「銀さん…なんですかコレ?」


おもむろに腰を上げた銀時の手には、しっかりと新八と神楽の手が握られていた。


「なんだコラ。てめーらが恐いだろーと思って気ィつかってやってんだろーが。」
「銀ちゃん手ェ汗ばんでて気持ち悪いアル。」


恐がる2人をリードするつもりの男が手に汗をかくであろうか。
銀時の魂胆がわかってきた名前は、沖田と目を合わせてアイコンタクトをとる。


「あっ、赤い着物の女!!」


名前のアイコンタクトを理解した沖田は襖の方を指差して居もしない赤い着物の女の名を叫んだ。
それと同時にガシャンという音。布団の入っている押入れの扉が外れて、中に銀時が飛び込んでいた。


「何やってんスか銀さん?」
「いや、あの。ムー大陸の入り口が…」
「旦那、アンタもしかして幽霊が…」
「なんだよ。」
「土方さんコイツは…アレ?」
「……」


いきなり消えた土方の姿を捜す沖田に、名前が静かにかけじくの方を指差した。
そこには、置物のツボに顔を突っ込んでガタガタしている土方の姿が。


「土方さん何をやってるんですかィ。」
「いや、あの、マヨネーズ王国の入り口が…」
「……」
「……」
「……」
「……」


明らかに幽霊を恐がっているようにしか見えない2人は、4人から思いっきり白い目で見られた。


「待て待て待て!違う!コイツはそうかもしれんが俺は違うぞ。」
「びびってんのはオメーだろ!俺はお前、ただ胎内回帰願望があるだけだ!!」
「わかったわかった。ムー大陸でもマヨネーズ王国でもどこでもいけよクソが。」
「「なんだそのさげすんだ目はァァ!!」」


神楽達はすっかり呆れて2人を残してこの部屋を後にしようとした。
…が。


「ん?」
「なんだオイ。」
「驚かそうったってムダだぜ。同じ手は食うかよ。」


神楽が土方と銀時の背後の襖の隙間から何かを見つけたようで、続いて沖田と新八もそれを見て目を見開く。
土方と銀時は今度は騙されまいと、断固として後ろは振り向かなかった。


「……うわ…」
「「「ぎゃああああああ!!」」」


名前が小さく呟いた瞬間、糸が切れたかのように3人は一目散に外へ走っていった。


「…ったく、手のこんだ嫌がらせを。」
「これだからガキは…」
「いいから後ろ、見てみな。」


それでもまだイタズラだと思ってる2人に、名前が冷静に言った。
その言葉にしょうがなく銀時と土方は後ろを振り向くと……


「こっ、こんばんは〜。」
「「ギャァァアァァア!!!」」


襖の隙間から赤い着物の女が逆さづり状態でこちらを見ているではないか。あまつ挨拶までされてしまった。
土方と銀時は少し固まってから、物凄い勢いで部屋から出て行った。その後を何故か女も追っていく。


「………まったく…。」


どんどん小さくなっていく足音を聞きながら、名前は近藤の額の汗をタオルで拭った。
あれだけの騒動があったにも関わらず、近藤は寝言をうめきながら眠っている。


「う……う…赤い……赤い着物がァ……!」
「………はぁ。」


ふいてもふいても一向に治まらない寝汗に、名前は溜息をつく。


「「ギャァァアァァアア!!!」」
「ギャァァァア!!!」


すると、外から再び土方と銀時の叫び声が。今度こそやられたのだろうか。
その叫び声に便乗するように、近藤も勢いよく布団から起き上がって叫んだ。


「ハァ、ハァ、ハァ……」
「……気分はどう?近藤さん。」
「!! ギャァァア赤い着物ォォォ!!」
「いい加減にしろ。」


まだ寝ぼけた思考で赤い着物の名前を見て、再び叫ぶ近藤。
慌てて布団から出ようとする近藤を名前が捕まえた。


「………名前!」
「もう……局長のあんたがこんなことでどーすんのよ。」


自分を捕らえた手首の先を見て、近藤はやっと名前だという事を認識した。


「俺は一体何を……」
「トイレにダイビングしてた。」
「……そうだ!赤い着物の女は!?」
「今頃土方と銀さんを追い掛け回してんじゃない?」
「ってぇええ出たの!?出たのォ!?」
「うん。赤い着物だった。ちょうどこの襖の向こうに逆さまに…」
「いい!いい!詳しく言わなくていいから!」
「………」


とことん恐がりな近藤に、名前はもう溜息しか出なかった。


「何か欲しいものは?」
「名前の温もり。」
「もう1回しか言わないから耳の穴かっぽじってよーく聞け。何か欲しいものは?」
「……水が欲しいです。できれば名前が1回口つけ…」
「わかった。ちょっと待ってて…」
「待てェェェ!!おじさんを一人にしないでくれェェ!!」
「はぁ?水が欲しいんでしょ?」
「水は欲しいが名前行ったら俺1人じゃん!恐いじゃん!」
「いい歳した大人がそんな情けないこと言わないで。」
「だってェ〜…」
「可愛くないから。とにかく行ってきます。」
「アァア名前ちゃん…」


泣きじゃくる近藤を突き放して、名前は水をくみに台所へ行ってしまった。
一人取り残された近藤は恐る恐る部屋中を見渡して、何もいないことを確認してから布団の中に隠れた。











「………?」


名前が縁側を歩いていると、中庭がやけに騒がしい。
きっと土方と銀時が騒いでるんだろうと特に構わず台所へ向かおうとした名前だが、


「名前ーーー危ねェェエ!!」
「避けろォォ幽霊がァ!!」
「?」


土方と銀時の声が聞こえて、何だと思って振り返ってみたら赤い着物の女がこちらに向かってくるではないか。
女は背中の蚊の羽のようなもので宙を飛んでいる。


「!!」


名前は咄嗟に護身用のハサミを抜いて女の片方の羽を斬った。
片方の羽をなくしたことで女はバランスをくずし、障子を破って部屋の中に倒れこむ。
そこを狙って、土方と銀時がすごい勢いで走ってきて女にとどめのボディブローを同時にくらわせた。


「大丈夫か名前!!」
「安心しろ!幽霊はこの銀さんが退治してやったから!!」
「あァ?今のはどう見ても俺だろーが!!」
「いーや、俺のパンチの方が長かった。」
「いや、俺のパンチのがすごかった。」
「………どうでもいいけどコレ、幽霊じゃないと思うよ。」
「「……え?」」











次の日、木に逆さづりにされた女が目を覚まして今までの事を問い詰めたところ、上司との子供を産むためにエネルギーが必要で血を求めて彷徨っていたところ、屯所という絶好の餌場を見つけたそうで。幽霊はただの蚊の天人だったのだ。
ちなみに名前を襲った理由を聞くと、「あんな綺麗な人の血を吸えば私も綺麗になれるかと思って…」…とのこと。
そして、名前に斬られた羽は次の日には前と全く同じものが生えていた。







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