銀魂 | ナノ
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22:来る、きっと来る



ミーン ミーン


セミも本格的に活動し始めた夏、7月の半ば。
真選組屯所の木には珍しいものがぶらさがっていた。


「悪気は無かったんです…仕事もなかったんです。」
「夏だからオバケ退治なんて儲かるんじゃねーのって軽いノリで街ふれ回ってたら…ねェ銀さん?」


詐欺がバレた万事屋3人は沖田と土方によって屯所の庭で1番大きい木に逆さづりにされていた。
その様子を土方と近藤は縁側から、沖田と名前は正面の大きな岩に座って見ている。


「そーだよ、俺昔から霊とか見えるからさ〜。それを人の役に立てたくて。あっ、君の後ろにメチャメチャ怒ってるババアが見えるね。」
「マジですかィ?きっと駄菓子屋のババアだ。アイスの当たりくじ何回も偽造してだましたから怒ってんだ。どーしよう…」
「心配いらねーよ。俺達を解放し水を与えてやれば全部水に流すってよ。」
「そーか。わかりやした。じゃあコレ鼻から飲んでくだせェ。」
「いだだだだだだ!何コレ!なんか懐かしい感覚!昔プールで溺れた時の感覚!」


自分の良いようにでまかせを言う銀時に、沖田は自分が飲んでいた炭酸飲料を逆さづり状態の銀時の鼻の穴めがけてこぼした。
こんなんじゃ喉を潤すことなんてできるわけがない。むしろ荒む。


「名前!お前の後ろにもなんかいるぞ!無数の男どもだ!今までフッてきた男どもが後ろでハァハァしてる!!」
「マジで?病院送りにしても殺したのはいないと思うんだけど。」
「霊っつーのは複雑なもんなんだよ。でも大丈夫、銀さんに任しとけ。だからこれといてくれ。」
「しょうがない。沖田、刀貸して。」
「ヘィ。」
「え?え?名前さん?ハサミの方が良いんじゃない?っていうかハサミの方が安全じゃない?」
「大丈夫。剣の方も一応いけるから。」


沖田から刀をもらった名前は、一歩一歩銀時達に近づいていく。
名前が無表情なのに対して、銀時の顔色はどんどん青ざめていった。


「……」
「ギャァァァアッ!!」


そして銀時に向かって刀を縦に一振り。刀は銀時の身体ギリギリで縄だけをバラバラにした。
銀時が頭から地面と衝突してから、名前は神楽と新八の縄を普通に解いた。


「え、差別?」
「当然の仕打ちでしょ。はい、お水。」


寝そべってぜーぜー言っている銀時達に、さっきまで自分が飲んでいたペットボトルの天然水を手渡した。
さっきまで名前が飲んでいたということで………銀時がこのチャンスを逃すわけがなかった。


「おっしゃァァア!!」
「ちょ、待て待て!僕がもらいますよ銀さん!」
「っざけんな!地味眼鏡のくせにこういう時だけ食いつくんじゃねェェ!!」
「地味だからこそこういう時に食いつくんだァァ!!」
「キャホォォォウ!!」
「「あ゛ーーーッ!!」」


いち早く名前との間接キスを手に入れようとした銀時だが、新八に阻止され、揉めているうちに神楽に全部飲み干されてしまった。
プハーと言ってペットボトルから口を離す神楽を見て、落胆する2人。


「…名前さん、もう1本もらえませんかね…」
「できれば最初に名前が口つけて。」
「面倒臭い。」
「即答されちゃった。」


間接キスもしたかったが、水分も欲しかった2人は名前に頼むが、呆気無く一蹴されてしまった。まあ所詮、こんなもんだ。


「本来ならてめーらみんな叩き斬ってやるとこだが、生憎てめーらみてーのに構ってる程今ァ俺達も暇じゃねーんだ。消えろや。」


一旦収集がついたところで縁側から立ち上がって土方が言う。


「あー、幽霊恐くてもう何も手につかねーってか。」
「かわいそーアルな。トイレ一緒についてってあげようか?」


銀時と神楽はもう助けてくれた恩を忘れ土方に嫌味を飛ばしていた。


「武士を愚弄するかァァ!!トイレの前までお願いしますチャイナさん!」
「お願いすんのかいィィ!」


その嫌味に近藤は真剣に答える。彼は本気で幽霊が恐いみたいだ。


「だって名前はついてきてくれないし…」
「当たり前。」
「ホラ、行くヨ。」
「おす。」
「オイぃ!アンタそれでいいのか!?アンタの人生それでいいのか!?オイ!!」


まるで土方のツッコミは聞こえていないかのように、近藤は神楽と仲良く並んで厠に向かって行った。
少女にトイレまで一緒に行ってもらうおっさんというのは如何なものか。


「…てめーら頼むからこの事は他言しねーでくれ。頭下げっから。」
「沖田、土方が頭下げるって。」
「そりゃいい眺めだ。早く土下座しろィ。」
「誰がするかァァァ!!」
「何でィ、つまんねー。」
「…なんか相当大変みたいですね。大丈夫なんですか?」


頭を下げるとは言ったものの、本気で下げようとは思っていなかったようだ。
かなり切羽詰まっている警察に、新八は少し同情という感情を覚える。


「情けねーよ。まさか幽霊騒ぎ如きで隊がここまで乱れちまうたァ。相手に実体があるなら刀で何ともするが、無しときちゃあこっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねェ。」
「はァ?何言っちゃってんの土方…」
「え?何?おたく幽霊なんて信じてるの。痛い痛い痛い痛い痛いよ〜お母さ〜ん。ここに頭怪我した人がいるよ〜!」
「お前いつか殺してやるからな。」


遠まわしに幽霊を肯定する土方の言葉を聞いて、名前には呆れられ銀時にはむかつく程にからかわれた。


「まさか土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女。」
「わからねェ…だが、妙なモンの気配は感じた。ありゃ多分人間じゃねエ。」
「「痛い痛い痛い痛い痛いよ〜お父さ〜ん!絆創膏もってきてェェ!!できるだけ大きな人一人包み込めるくらいの!」」
「おめーら打ち合わせでもしたのか!!」


今度は沖田までもが銀時と同じように右腕を押さえて一字一句間違い無しに土方をからかう。


「包帯ならあるけど…」
「よっしゃ!ナイスですぜ名前さん。」
「何であんだよ!!」
「こういう事もあるかと思って。」
「あるかと思わねェだろ普通!!」


そして名前の手にはいつの間にか尋常の大きさではない包帯が。本当にこの3人、打ち合わせでもしていたのだろうか。


「赤い着物の女か…。確かそんな怪談ありましたね。」
「「!」」


ここにきてやっと影薄の新八が口をはさんだ。
新八の通っていた寺子屋でも、一時期そんな怪談が流行ったという。


「えーと、なんだっけな。夕暮れ刻にね、授業終わった生徒が寺子屋で遊んでるとね、もう誰もいない校舎に…」
「赤い着物の女?」
「はい。それで何してんだって聞くとね…」
「ぎゃあああああああああああああ!!」


これからオチだというところで、厠の方から近藤の叫び声が聞こえてきた。
何かがあったに違いない近藤の身を案じて土方に続いて名前、沖田と、厠の方へ急いで走っていく。


「神楽どーした!?」
「チャックに皮がはさまったアル。」


厠に着くと、神楽が近藤の入っている便所をドンドン叩いていた。流石に中には入ろうとしない。
しかしチャックに皮が挟まってあそこまでの叫び声をあげるだろうか。


「どけ!!」


もっと別の事が起きたんだとふんだ土方は神楽をどかして便所の扉を蹴破った。
そして中を見てみると、近藤の安否は確認できた。確かに近藤はここにいるのだが……


「なんでそーなるの?」


洋式トイレに顔と尻、逆さまに座っていた。








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