銀魂 | ナノ
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21:話のオチは静かに聞け



「あれは今日みたいに蚊がたくさん飛んでる暑い夜だったねェ…。」


丑の刻参りの時間。


「俺友達と一緒に花火やってるうちにいつの間にか当たりは真っ暗になっちゃって。」


いつもなら皆寝ている時間なのだが、今日はほとんどの隊士が一室に集まっていた。


「いけね、母ちゃんにブッ飛ばされるってんでかえることになったわけ。それでは、ちらかった花火片付けてふっと寺子屋の方見たの。」


その部屋の明かりは全て消されており、懐中電灯だけが不気味に話し手の顔を照らしている。


「そしたらさァ、もう真夜中だよ。そんな時間にさァ、寺子屋の窓から赤い着物の女がこっち見てんの。」


話がメインに近づいてきて、隊士達は身動きするのを忘れて聞き入った。


「俺もうギョッとしちゃって、でも気になったんで恐る恐る聞いてみたの。何やってんのこんな時間にって。」


そして次に来るであろうオチに対して、万全の準備を整える。周りの音はもう蚊の羽音しか聞こえなくなっていた。


「そしたらその女、ニヤッと笑ってさ…」
「マヨネーズが足りないんだけどォォ!」
「「「「「ぎゃふァァァァァァ!!」」」」」


話し手がオチを言おうとしたその瞬間、いきなり襖が開いて黄色いものがたくさんかかったやきそばを片手に土方が入ってきた。
…見事なオチだった。
近藤はこの見事なマヨネーズオチでなんと失神。ちなみに名前は休暇中で屯所にはいなかった。













「……何、この状況。」


名前がベッドに横たわる隊士達を見て呟いた。
3日の休暇を終えて屯所に来てみると、明らかに隊士の数が少ない。
ということで捜してみたら、皆一室に集まって寝込んでいるではないか。しかもほとんどの隊士が息苦しそうにうなされている。


「あッ、名前テメー休みやるなんて言ってねーぞ!」


そこに様子を見に土方がやって来た。
どうやら今回の3日間の休暇は名前の勝手な行動らしい。


「なんか仕事やる気分じゃなかったの。」
「お前何様ァァ!?」


それでも名前は何の悪びれもなくそう言う。


「それよりコレどういうことなの?」
「……名前…お前幽霊とか信じるか?」
「……土方…アンタ絆創膏いる?」
「ちゃんと答えろ。」
「…信じてないね。」
「そうか。こいつらはどうやら幽霊にやられたらしいぞ。」
「……えーと…人一人包めそうな包帯は…」
「誰を包む気だァ?」


土方によると、この寝込んでいる18人もの隊士達は皆幽霊にやられたという。


「冗談じゃねーぞ。天下の真選組が幽霊にやられてみんな寝こんじまっただなんて、恥ずかしくてどこにも口外できんよ。情けねェ。」
「トシ…俺は違うぞ。マヨネーズにやられた!」
「余計言えるか。」
「しかしどうしたものか……このままじゃあ一人でトイレにも行けん。」
「それはアンタだけだよ。」
「なんか拝み屋的なもの雇えば?」
「それだ!」


…ということで、拝み屋捜しにはこんな時にミントンを堪能していた山崎が抜擢された。














山崎が江戸の町に出て、暇になったので名前達4人は庭のよく見える部屋で一服をとることにした。
土方と沖田でテーブルを囲み、近藤と名前は縁側に座っている。


「みんなうわ言のように赤い着物を着た女と言ってるんですが、稲山さんが話してた怪談のアレかな?」
「バカヤロー。幽霊なんざいてたまるか。」
「霊を甘く見たらとんでもない事になるぞ、トシ。このやし身は呪われてるんだ。きっととんでもない霊にとり憑かれてるんだよ。」
「…なにをバカな…」


霊を信じる近藤を否定しようとする土方だが、そこで昨夜女の人影を見た事を思い出す。土方はそんなことはありえないと、一瞬よぎった考えをもみ消すようにタバコを口に入れた。


「……そーいや名前も赤い着物だよな…」
「私がそんな意味無いことするとでも?」
「……確かに。」


そういえば名前もいつも赤い着物を着用している。
しかし名前は事件が起き始めた時は勝手に休暇をもらって家でくつろいでいたし、第一性格からしてこんな事やりそうもない。


「局長!連れて来ました。」
「オウ、山崎ご苦労!」


そこへ、街まで拝み屋的なものを捜しに行った山崎がかなり怪しい3人組を連れてきた。
山崎が言うには拝み屋らしいが…、一人は中国風のグラサン。もう一人は顔面包帯。もう一人は鼻眼鏡という見るからに胡散臭い連中だった。


「何だコイツらは…。サーカスでもやるのか?」
「いや、霊をはらってもらおうと思ってな。」
「オイオイ冗談だろ。」
「あらっお兄さん背中に…」
「…なんだよ…背中になんだよ。」
「ププッ、ありゃもうダメだな。」
「なにコイツら、斬ってイイ?斬ってイイ?」


顔面包帯男は部屋から覗いてきた土方の背中を見つめて、そこまで小さくない声で中国風のグラサンとゴニョゴニョ言っている。
肝心なところは言わずに意味深な言葉を呟く相手に土方がキレないはずがない。


「先生、なんとかなりませんかね。このままじゃ恐くて一人で厠にも行けんのですよ。」
「任せるネゴリラ。」
「アレ、今ゴリラって言った?ゴリラって言ったよね。」


中国風のグラサンの声は高くて細いもので、こんな格好だが少女のようだ。
どこかで聞いたような口調だと気付いたのは名前だけだった。


「……じゃあ、屋敷を案内しますね。」


なんとなくこの3人が何者かという事がわかった名前は、少し口の端を上げて立ち上がった。












「ざっと屋敷を見させてもらいましたがね……こりゃ相当強力な霊の波動を感じますな、ゴリラ。」
「あ、今確実にゴリラって言ったよね。」
「まァ、とりあえず除霊してみますかね。こりゃ料金も相当高くなるゴリよ。」
「オイオイなんか口ぐせみたいになってるぞ。」


名前達は拝み屋に屋敷の中を一通り案内して、客室にて腰を下ろした。
拝み屋が言うには、かなり強力な霊がとりついているらしい。
除霊の料金が高くなる事をわざわざ強調したが、そこはあまり気にしないでおこう。


「して、霊はいかようなものゴリか?」
「うつった!!」
「強力っていうんだがらマウンテンゴリラとか?」
「動物!?」
「えーと……工場長…」


中国風のグラサンが適当に呟いたところ、隣の包帯男が素早く手刀をくらわせた。
グラサンが頭をおさえて唸っているうちに包帯男は先程の情報を訂正する。


「えー、ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長の霊です。」
「あの〜、みんなが見たって言ってるのは女の霊なんですが。」
「間違えました。ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長に似てるって言われて自殺した女の霊です。」
「なげーよ!工場長のくだりいるかァァ!?」


包帯男の訂正も更に鼻眼鏡に訂正されて、結局よくわかんない感じになってしまった。もうこの時点でこんな拝み屋信用できない。


「とりあえずお前、山崎と言ったか…」
「え?」
「お前の身体に霊を降ろして除霊するから。」


それでも拝み屋は工場長くだりで通すことにしたらしい。
警備も兼ねて入り口付近に座っている山崎を3人で取り囲んだ。


「え…ちょっ、除霊ってどーやるんですか?」
「お前ごとしばく。」
「なんだァそれ誰でもできるじゃねーか…ぐは!!」


抗議しようとした山崎に有無を言わせず、グラサンのボディブローが入った。すごい衝撃だったようで山崎は気を失ってしまった。


「ハイ!今コレ入りました。霊入りましたよ〜コレ。」
「霊っつーかボディブローが入ったように見えたんですけど。」
「違うよ。私入りました。えー、皆さん。今日でこの工場は潰れますが責任は全て私…」
「オイィィ!工場長じゃねーか!!」


グラサンが山崎の後ろにまわり、声色を変えて言うが最終的な設定を忘れて工場長として話してしまった。
そこから拝み屋の内輪揉めが始まり、そこから取っ組み合いに発展していく。


「もういいから普通の女やれや!」
「無理ヨ!普通に生きるっていうのが簡単そーで一番難しいの!」
「誰もそんなリアリティ求めてねーんだよ!」
「うるさいミイラ男!お前の格好にリアリティがなさすぎネ!」
「なんだァ!!こんなんしてた方がミステリアスだろーが!」
「ああもうやめろやァ!!仕事中ですよ!!ちょっときいてんの!二人とも!」


取っ組み合いはグラサンと包帯男の2人で始めて、鼻眼鏡はそれを必死に止めていた。
しかしそうやって暴れているうちにグラサンの帽子がとれて、包帯男の笠がとれて、鼻眼鏡の鼻眼鏡がぶっ飛んだ。


「「「あ。」」」


怪しい拝み屋3人の正体……それはもはや毎度お馴染みになってきた、万事屋メンバーだった。







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