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19:ヘタレはヘタレなりに頑張れ




「ただいまー。」












「…早かったな。もう下着泥棒は捕まえたのか?」


フンドシ仮面狩りのため志村家に行った近藤を放っといて、再び屯所に戻った名前を最初に迎えてくれたのは土方だった。
というか、土方以外に人気が無い。


「いーや。今近藤さんが頑張ってる。」
「……捕まえなくていいのか?」
「近藤さんっていうかお妙さんか神楽ちゃんあたりが捕まえるでしょ。」
「…テメーの下着が取られたんだぜ?」
「皆もそうだけど…何でそこまで下着取られたことにこだわるの?別にどーでもよくない?」
「いや、どーでもよくはないだろ。」
「そう?まあいいや。それよりみんなは?」
「……全員フンドシ仮面を捜索して町に出てる。」
「…みんなのパンツも盗られたの?」
「お前のパンツを取り返すんだとさ。」
「そんなことしなくていいのに。」


どうやら他の隊士は名前のパンツを盗んだフンドシ仮面への憤りに絶えられず、皆して江戸中に出て行ってしまったらしい。
それで唯一残ったのが真選組の副長、土方ということだ。
土方はいつもと同じように適当にデスクワークをこなしている。
本来午後は非番なのだが、屯所を空にするわけにはいかないため、明日やる予定だった仕事をやっているようだ。


「どうせならあたしの分やってくれればいいのに…」
「テメーでやれ。」
「あたしが『報告書』って打つまでに何分かかると思う?」
「さあな。つーか分っていう単位からしてありえねーな。」
「3分よ3分。この前カップラーメン食べたから報告書だけで終わっちゃった。テヘ。」
「テヘじゃねーよ!!」


いつの間にか土方の隣に腰を降ろして土方の仕事っぷりをどーでもよさそうに眺める名前。
この時エロサイトを見てるのかを確認したのだが、名前の期待とは裏腹に土方は普通に報告書を書いてるだけだった。


「ち、つまんねェ。」
「あ?」
「何でもない。」


いつもは隊士達のおふざけの声で聞こえない呟きも、今名前と土方の2人きりしかいないこの状況では充分に空気を振動させる。
土方は報告書の文章をパソコンで打ちながら、名前はその手を目で追いながら、お互いに少しの間口を開かなかった。


「………何か喋りなよ。こういう時男がエスコートしなくてどーすんの?だから結婚できないのよ。」
「お前うるせーよ。どっか行けよ。」
「この万年独身ヤロー。あーーお腹空いた。」


やっと口を開いたかと思えば、お互いに悪態をついただけで名前は何か食べようと腰を上げて台所へ向かった。


「はァ…。」


襖の閉まる音で美空が出て行ったことを確認した土方は加えていたタバコを灰皿に押し付けて溜息をついた。
そして後ろに手をつき書き上げた報告書に誤字が無いかを適当に確認する。


(そういや何も食ってなかったな…)
「土方ーー。」
「あー?」


すっかり集中力をきらして土方が寝っころがったその時に、名前が襖を開けて戻ってきた。


「カップラーメン無いんだけど。」
「ばっ…おま、来んなッ!!」
「は?」


どうやらカップラーメンを食べようとしたところ、戸棚にその姿が見当たらなかったようだ。
名前の質問に答える余裕もなく土方は慌てて起き上がった。
何故かというと、名前が寝っころがっている土方に近づいてきたからだ。
この行動が意味することはただ1つ。パンツが見える。
名前本人は全然気にしてないが土方が気にしないはずがない。
普通の着物ならともかく、名前の着物は際どいのだ。長さが。


「何?名前菌とか言っていじめするタイプ?小学生?」
「そんなんじゃねェよ!テメーはもっと自分の格好を考えろ!!」
「………ああ、なるほど。」


赤くなった顔を名前に見えないようにして言う土方の態度で、名前はやっと土方の言いたい事がわかった。
土方が赤くなっている事も彼の耳を見れば一目瞭然だ。
これはもうからかうしかないじゃないか、と、名前は口の端を上げた。


「今日あたし、ピンクだよ。」
「ッ!!な…ッ、いちいち言わなくていい!!」
「しかもレース付き〜。」
「だから言わなくていい!!」
「まあそう興奮しなさんな、土方くん。」
「〜〜…ッ」


本当はピンクのレースなんて女の子らしい下着は持っていないのだが。
土方のヘタレ様を満足そうに見てから名前は本題に戻った。


「あ、そうそう。何かインスタント的な食べ物はありませんかね。」
「……カップラーメンがねェならそうだろ。」
「うわーー何か買ってこいよ土方。」
「お前何様?テメーが行けよ。」
「面倒臭いじゃん。」
「俺もだコノヤロー。」
「お腹空くじゃん。」
「俺もだコノヤロー。」
「あれ?酒入ってる?」
「インスタントねェなら自分で作りゃァいいじゃねーか。」
「………そうね。」
「ぇええ!?」


まさか面倒臭がり屋の名前から肯定の言葉が返ってくるとは思ってなかった土方は大いに驚いた。
そりゃあもう口からタバコを落とす程に。
土方としては『そんな面倒臭いことするわけないじゃない』という返事を予想していたのだが。


「何驚いてんの?冷蔵庫見たら明らかにマヨネーズの量が多かったけど少しはあるみたいだし。」
「え……まじで作んの?」
「文句あんの?」
「いや、そうじゃなくて…」
「?」


名前がきくと、土方は言いにくそうな顔をして少し俯いた。


「はっきり言いなよ。これだからヘタレとかムッツリとか言われんだよ。」
「うるせェェエッ!!」
「で、何。」


怒鳴る土方には一歩も譲らず、名前はもう1度聞いた。


「………俺の分も作れ。」
「は?」


土方の言いにくかった言葉は実に普通なもので。
その言葉をためらった理由が見当たらない。


「……いいけど…何赤くなってんの?キモい。」
「赤くなんかなってねェェ!!」
「なってるから言ってるんですよ土方はん。あ、もしかして夫婦みたいだとか思ってたり?」
「ッ!!」


いたずらに言った名前の言葉に、土方は過剰に反応する。
…どうやら図星だったようだ。


「もちろん手伝うよね。」
「……おう。」
「そして料理にマヨネーズ一切かけないこと。」
「はあ!?マヨネーズ無いとか上手さ半分以上失うじゃねーか!」
「マヨネーズをかけるなんてあたしの料理への冒涜だわ。とにかくやめろ。」
「……はい。」


マヨネーズ無しの食事ほど彼にとってつまらないものは無いのだが、名前の料理だったらまだ食べれる。
以前にも同じような事を言われて仕方なく従った結果、マヨネーズ無しでも充分に美味しかったのだ。



結局今回も名前の言う通りにして、滅多に食べられない名前の手料理を食べてるところでフンドシ仮面を捕まえた隊士達が帰ってきて存分に羨ましがられ、しばらく(沖田主格の)嫌がらせが続いた。








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