18:警察は常に冷静に
「ただいまー…」
「名前ーーー!!大変だ!大変だ!」
「名前さん変態です!変態です!」
「帰った早々うるさいなぁ。」
ハプニング盛り沢山の宇宙旅行も最終的には無事に終わり、坂本から屋根の弁償代をたんまりもらった名前が屯所に帰ってきた。
その時屯所はパニック状態で隊士達は「大変」と「変態」を連捷していた。
「名前……落ち着いて話を聞いてくれ。」
「近藤さんこそ落ち着いたら?」
あまりのパニックのために障子を頭で突き破って、そのまま話をしようとする近藤に名前が冷静にツッコミを入れた。
しかし近藤は「ああ、そうだな」と言って深呼吸をするだけで障子から頭を抜こうとはしない。
おそらく自分でもこの状態に気付いていないのだろうが、これ以上ツッコミを入れるのを面倒臭いと思った名前は何も言わなかった。
「………怒んない?」
「内容によっては。」
「………怒んない?」
「だから内容によっては。」
「…………怒んない?」
「早く言わないと障子に火をつけます。」
「名前さんのパンツが盗まれたんでさァ。」
怖気づいて中々言おうとしない近藤の変わりに沖田がさっぱりと答えた。
「……ふーん。」
「そんだけェェエ!?」
名前の反応が思っていたより薄くて、近藤は逆にツッコミを入れた。
そのツッコミの勢いのおかげで肩まで障子を突き破った。
「実は最近怪盗フンドシ仮面っていう下着ドロボーが出没していて……奴は綺麗な女の人の下着を盗んで、モテない男達に配っているらしいんです。」
その事件について詳しく説明したのは監察の山崎。
山崎の説明も、名前はいつもと変わらない表情で普通に聞いている。
「で、捕まったの?」
「いえ、まだ…」
「あ、そ。」
「あっそって名前ちゃァァアん!!パンツ盗まれたんだよ!?もっとこう…怒るとかしないのォ!?いや、怖いけど。」
「そんなパンツの1枚や2枚で……それより火サス録画しといてくれた?」
「自分のパンツより火曜サスペンスゥゥ!?」
「……何やってんだよ近藤さん…」
近藤が1人で興奮していると、巡回を終わらせてきた土方が近藤を見て呆れた声で言った。
そりゃまあ、呆れもするだろう。真選組の大将が障子に突き刺さっているのだから。
「……ってぇええ!?何で俺障子に刺さってんのォ!?」
近藤はそこでやっと自分が障子に刺さっていることに気付いたようだ。
「昨日の下着ドロボーの被害件数34件、モテない男達から下着ドロボーへの礼の言葉が32件だそうだ。」
「2人礼が足りませんねィ。」
「自分が集めてるかもだろ。」
「そんな事言ってェ〜。実は土方さん懐に隠してんじゃね?」
「そんなに死にたいか?」
懐にパンツを隠してるかどうか調べるという口実で沖田は土方の胸倉を掴み、土方は静かに剣を抜いた。
次の瞬間には、沖田も剣を抜いていつものパターンになっていた。
「そうだ、名前。次テメーの順番だからさっさと行け。」
「死ねェェエ土方ァァァ!!」
「テメーが死ねェェエ!!」
この隙に逃げようとした名前を見逃さず、土方は沖田と剣を交えながらも名前に巡回をしに行くように言った。
名前は小さく舌打ちをしてから護身用のはさみを取りに行こうとしたその時、
「名前、俺も行く。」
近藤が待てと言うように手を掴んできたので、とりあえず名前は「セクシャルハラスメント」と言ってその手を振り払った。
「フルで言われた……」
名前のことを本当の娘のように思っている近藤にとって、その一言はとても鋭いものであった。
「……近藤さん、ちょっと休憩しよう。あそこの喫茶店で。」
「しょうがないな〜。そんなに俺と同じパフェを食いたいか!」
「トイレ行きたい。」
「あ、すんません、待ってください、お願いだから。」
久々の名前との巡回のおかげで上機嫌な近藤のテンションを程よく下げつつ、名前は適当に江戸の町を歩いていた。
そこでふと、名前はとある喫茶店に入りパフェを頼む暇も無くトイレに向かった。
取り残された近藤は1人寂しくパフェを頼むことにして店員を呼ぼうとしたとき、見慣れた人がガラス越しに目に映った。
その見慣れた人というのは、スナックに行った以来猛烈アタックをしているお妙さん。そして万事屋の3人だ。
どうやら4人もこの喫茶店に入るようだ。
近藤は4人が店の中に入ると、やってくる席を予想してその下にもぐりこんだ。
「あ〜〜?下着泥棒だァ?」
「そーなんスよ。僕が旅行中に二回もやられたらしくて。なんとかならないスかね?」
(アイツお妙さんのパンツまで…!!許さん!!)
机の下で話を聞いていると、どうやらお妙のパンツが何者かに盗まれたらしい。
犯人はたかが知れている。今巷を騒がせている怪盗フンドシ仮面だ。
「昔の人はよォ、着物の下はノーパンだったらしいぜ。お姫様も。お姫様なのに着物の下はもう暴れん坊将軍だよお前。そのギャップがいいんだよ。おしとやかな顔して暴れん坊将軍かい!みたいな…」
「てめーのノーパン談議はどーでもいいんだよ。こちとらお気に入りの勝負パンツ盗られてんだぞコラ。」
「勝負パンツってお姉サン誰かと決闘でもするのかイ?」
(しかも勝負パンツゥゥ!?これはなんとしても取り返せねば…!)
「大体何がしたいんだお前は。その勝負パンツが戻ってくれば気がすむのか?」
「パンツを取り戻したうえでパンツを盗んだ奴を血祭りにしたい。」
「もう発言がパンツをはく文明人の発言じゃねーよ。裸で槍をもって野を駆ける人の発言だよ。」
「下着ドロなんて女の敵アル。姉御、私も人肌脱ぎますぜ!」
「よしよく言った。ついて来い。杯を交わすぞ。」
「待て待て待て!死人が出るよ!君ら二人はヤバいって!!」
「あれ、銀さんと新……七くん。」
「名前さん!……って、ワザと間違えてるでしょ!?」
「どうしたの、こんなところで。」
最強にして最恐タッグ、お妙と神楽とすれ違い様に名前がトイレから帰ってきた。
自分の席に行こうとしたところ近藤の姿が見当たらなくて店内を探したところ、銀時達を見つけたのだ。
「実はお妙のパンツが盗まれたごときでわざわざこんなとこまで呼び出されてよ〜。」
「ごときってなんですかごときって!!しかもパフェ奢ってやったでしょーが!!」
「あー、パンツね。それより近藤さん知らない?一緒にここ来たんだけど…」
「下。下見てみろ。」
「下?」
わけがわからずも、銀時の言う通りテーブルの下を覗いてみると、なんと近藤が身を縮めて潜り込んでいるではないか。
「………」
「おうっ!そりゃないよ名前ちゃん!」
とりあえず名前はむかついたので近藤の脇腹を思い切り蹴ってみた。
「どーせコイツの仕業だろ。」
「なんだァァァァ!!まさか俺を疑っているのか貴様らァァ!!侍が下着泥棒なんて卑劣なマネするわけないだろーがァ!!な、名前!」
「………」
近藤は名前に同意を求めたが、名前の口から望んだ答えが出てくることはなかった。
「侍がストーカーなんてするわけねーだろーが。な、名前。」
「そうね。」
「ぇぇえそっちに同意しちゃうの!?ストーカーはしても下着ドロなんぞするか!訴えるぞ貴様!!」
「訴えられるのはテメーだァ!!」
あまつ名前は銀時の方に賛成している。
「これで真選組解体か〜。いや、めでてーな〜。」
「待て待て待てコレを見ろ、コレを!」
なんとも楽しそうに言う銀時に、近藤は慌てて懐から今日の朝刊を取り出してフンドシ仮面を記事を見せた。
「…なんスかコレ?またも出没怪盗ふんどし仮面。」
「最近巷を騒がしてるコソ泥だ。その名の通り風体も異様な奴でな。まかな褌を頭にかぶりブリーフ一丁で闇を駆け、キレーな娘の下着ばかりをかっさらい、それをモテない男達にバラまくという妙な奴さ。」
「なんですかソレ。鼠小僧の変態バージョン?」
「うちの名前も被害にあった。」
「まじで!?おい名前、お前のパンツこれ?ねえコレ?」
「アンタもらってんのかィィ!!」
「違うわ。」
「んだよ違うのかよ〜。ショック〜。」
「フハハハハハ!そりゃあお前モテない男と見なされた証拠だよ。哀れだな〜。それより名前、これじゃない?」
「お前ももらってんじゃねーかよォォォ!!」
銀時をモテない男と笑う近藤もまた、モテない男だったのだ。
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