銀魂 | ナノ
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17:現実と妄想の区別くらいしておけ


「……あ。」
「出たァァァ!!おめでとーございます!!一等です!!」
「オォォ!1等当てるっちゃー流石姐さんじゃのォ!!」
「1等は宇宙旅行券3名様分でございます!!」
「………姐さん…!!」
「よし。報酬はこれで2倍ね。」
「……うす。」










「いいなァ名前さん……今頃宇宙からこっち眺めてんだろうなァ……」
「………」
「いいなァ名前さん……今頃宇宙でディナー食べてんだろうなァ……」
「………」
「いいなァ名前……っていうか物凄く寂しい。」
「……テメーらいい加減仕事しろや!!」
「名前さんいないとやる気出ませんや。」
「名前さんいないと生きてる意味がわかんなくなるんです。」
「名前いないとオレぁ寂しすぎて死んじゃいそうだ。どうしたらいいと思う?」
「テメーらなんて警察やめちまえェエ!!」


江戸の屯所で近藤やら沖田やら山崎やらがそんな事を話している頃、彼らの予想とは裏腹に名前は宇宙旅行の飛行船の中で………


「………」


……寝ていた。
しかも目には普段沖田が愛用しているような、なんともまあ可愛らしい目の書かれたアイマスクをつけている。
一体彼女はこの宇宙旅行へ何のために来たのだろうか。
そして名前の屋根の上から落ちてきてなんだかんだで世話になっていた坂本はというと、乗船の時から頭にくっついて(噛み付いて)離れない定春をずるずると引きずって船内を歩き回っていた。
その間に攘夷派によるハイジャックが敢行されたりして、
丁度乗り合わせていた万事屋がちょっと活躍したけど結局はまあ墜落しちゃってるというこの状況の中でも、名前は寝ていた。
どんな神経をしているのだろうか。













「………何、コレ。」


名前が起きたのは飛行船がとある星に墜落してからだった。
ここがどこなのかは全く不明だが、太陽が何故か2つもあってかなり厳しい日差しになっている。
船内の冷房は墜落のショックで当然壊れており、嫌な蒸し暑さで目が覚めた名前は少し不機嫌だ。
まずは周りを見渡して、自分以外の客がいないことを知り、次に飛行船が傾いているのに気付いた。
しばらくぼーっとしたあと、特に慌てる様子もなく名前は飛行船の外へ向かった。


「……あれ、銀さん達じゃん。」


傾いた出口から外に出ると、すぐ側に銀時達が疲れ果てた様子で座っていた。
船内の外はどこまでも砂漠になっていて太陽が2つ。
ここで名前は自分が寝ている間に何が起こったのかを理解した。


「…オイ、俺今名前の幻覚見えてんだけど。ってアレ?むしろ妄想?」
「何を言って……あれ?僕も見えるんですけど。妄想?」
「私にも見えるからきっと妄想ネ。」
「本物よ。」
「いや、俺らの妄想だって。真選組のお偉いさんがこんなとこにいるわけねーよ。」
「いや、実際にいるから。」
「いや、俺らの妄想だって。名前こんなオイシイ格好してないから。」
「いや、暑かったから切っただけだって。」
「いや、俺らの妄想だって。なんかいつもより胸がでかく見えるから。」
「…もう駄目だコイツ。坂本さん、何、この状態は。」


断固として名前を自分達の妄想だと主張する銀時に呆れて、名前は質問の対象を坂本に変えた。


「あーー名前さん!今までどこに行っとったんじゃ?」
「中にいた。何、この状態。」
「あんだけの事があって寝とるとは、相当神経が図太いんじゃな!」
「アンタには言われたくないわ。何、この状態。」
「アッハッハ!そりゃないぜよ〜。」
「……コイツも駄目だ。」


…が、坂本も坂本で話にならない。
いや、一応会話は成立しているのだが肝心の質問内容が彼の耳に入っていなかったようだ。
結果的に近くにはまともに答えられる人がいないことがわかった名前は、とにかく墜落したということで自分を納得させた。
というか、原因にさほど興味は無かった。


「やった、長期休暇だ。」
「えええ!?」
「っていうか休暇の前に死んじゃいますよ!!」
「2人とも何妄想に突っ込んでるネ。」
「…いや、ちょっと待て。普通に考えてみたら妄想にしてはやけにリアルだ。俺こんなにリアルに妄想できたことねーもん。」
「妄想したことあるんですか。」
「まあこういうのはケツ触ってみればわか…ッ!!」
「いい加減うざい。」


やけに真剣な顔つきで尻に伸ばされた銀時の手を、名前は容赦無く叩き落とした。


「……あれ、何でだろう。手も痛いけど心も痛い。」
「姐さァァン!私達の妄想じゃなかったネ!」


ここにいる名前が自分達の妄想が生んだものでは無いとわかった神楽は思いっきり名前に抱きついた。
少しタックルがきつかったが神楽相手にそこでキレる名前ではない。


「大丈夫?神楽ちゃん。目がどことなくすわってるけど。」
「大丈夫アル!それより早くあっちの川で一緒に水浴びしようヨ!!」
「あ、この子やばいね、銀さん。」
「水浴びか〜〜いいなァ〜〜〜足だけなんて邪道だぜ。マッパで入れ!」
「銀さんも相当やばいね。」


元々日の光に弱い神楽にこの猛暑はかなりキているようだ。川の幻覚まで見ちゃっている。
銀時はまあ……元々こんなんだ。


「アッ!!なんだアレ!?」


そんなごちゃごちゃした状況で、名も無き脇役が見事なきっかけ役を果たした。
彼が指をさした空を見てみると、大きな飛行船が3機ほどこちらに向かっているではないか。
それを見て乗客の皆は助かったと口々に叫んで喜びあっていた。












「アッハッハッハッ、すまんの〜陸奥!こんな所までむかえにきてもらって。」
「こんなこたァ今回限りにしてもらおう。わしらの船は救援隊じゃない。商いするためのもんじゃきー。頭のあんたがこんなこっちゃ困るぜよ。」


その船から出てきた人はどうやら坂本の知り合いらしくて、更にこの大きな飛行船3機は坂本の商い用の船だという。
人々はぞろぞろと船の中へ入って、中に蓄えられていた水分を口に流し込んだ。
神楽にいたってはタル飲みだ。
そんな感じに人々がすっかり安心しきった矢先に。


「ギャァァァ!!」
「助けてェェ!!」


何か細長い物体に巻きつかれた男が2人。船に向かって叫んでいた。


「あれ?何?ウソ?何?あれ?」
「アッハッハッ、いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろー。」
「……現実だと思うんだけど。」
「ほっとけほっとけ。幻覚じゃアッハッハッ!」
「いや、ちょっと坂本さん、何か巻きついてますけど。」


目の前で助けを求めてる市民を幻覚だと主張する坂本の腕にも細長い物体が巻きつき、船の外へ引きずり出されてしまった。
それでも坂本は笑って幻覚だと主張している。
自分の上司が危険なときに冷静に説明してくれた陸奥によると、この細長い物体の正体は砂蟲というこの星の生き物の手らしい。


「アッハッハッハッ!わしがこんな所で死ぬかァァ!!」


こんな状態でも相変わらず坂本はポジティブシンキングに懐から出した銃で他の市民を助けた。
掴まっていた市民は助かったが、いきなりの発砲に驚いた砂蟲は砂の中から本体を現した。
その姿はとても大きく、この船なんて簡単に壊されそうだ。
砂蟲は自分の手を船に絡ませると、そのまま船を沈めようと下に力を入れた。


「大砲じゃあああ!!わしはかまわんで大砲ばお見舞いしてやれェェェ!!」
「でも坂本さん!!」
「大砲うてェェェ!!」


今日初めて会った新八が坂本の身を案じるのに対して、長年の付き合いだと思われる陸奥は躊躇するなく大砲の準備を始めた。


「ちょっ…あんた坂本さん殺すつもりですか!?」
「奴一人のために客全てを危機にさらせん。今やるべきことは乗客の命救うことじゃ。大儀を失うなとは奴の口癖…。撃てェェェ!!」


冗談抜きで放たれた大砲は砂蟲の顔面に直撃し、砂蟲は船を諦めて地中に戻ろうとした。
しかしその手にはまだ坂本が捕まっている。
部下達が慌ててもう1発打ち込もうとした時、それを銀時が阻止した。


「こんなモンぶちこむからビビって潜っちまったんだろーが。やっこさんが寝てたのを起こしたのは俺達だぜ。大儀を通す前にマナーを通せ、マナーを。」
「銀さん!」
「銀さんには絶対言われたくない言葉ね。」


大砲を止めた後、銀時は砂の中へ飛び込んだ。


「!!」


この行動には名前までもが驚いた。あんな砂の中に飛び込むなんて、自ら死ににいくようなものだ。
しかし人々の思いとは裏腹に、砂蟲が潜って砂埃が晴れた時、そこには銀時と坂本が笑いあって座っていいる姿があった。


「………なんか、いいな。」


そんな2人を見て、珍しく名前は優しく微笑んでそう呟いた。







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