銀魂 | ナノ
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16:屋根の上を歩くな



「………」
「………」














「………」
「……ちゅーす…アッハッハ…」


一体何でこんなことになったのだろうか。


「………10秒あげる。遺言は?」
「ちょ、ちょォ待ちィ!!わしァ無実じゃきィ!ほんっと別に下心とかそーいうんは…」
「………」
「ヒィィイ近っ!血ィ出てなか?血ィ出てなか?」


今の状況を説明してみると、黒い天然パーマの男が名前の布団の上で首を大きめのハサミで挟まれている。
刃はギリギリというところで触れていないが、少し動けば切れてしまいそうだ。
そして名前はその男の上に馬乗りになってハサミを握っている。


「じゃあ何であなたはこんな所にいるんですか?5文字以内で簡潔に述べなさい。」
「わからなか。」
「残念。句読点は文字数に含みます。」
「わからん!わからん!」
「わからない?ふざけてんの?」
「ちょっ、今絶対切れた!絶対切れたコレェ!!」


男の首スレスレにある刃を更にスレスレにさせる名前。相当キてるようだ。
なんせ起きたら隣に見ず知らずの男が寝ていて、あまつ「おりょうちゃ〜ん」などと言って抱きついてきたのだから。
途端に名前は護身用のハサミを取り出して、この状況に至っている。


「…で?」
「…はい?」
「何であたしの隣で寝てたの。」
「確か昨日はいつもんようにおりょうちゃんトコ行って…………あ。」
「……」


思い出すように男が上を見た時、天井に穴が開いてるのが見えた。
そういえば、布団の周りには木屑がたくさん散らばっている。


「あーー!!そうや!昨日スナックから帰っちょったらいつの間にか屋根ん上居て、落っこちたんじゃ!!」
「………」


酔っ払っていたとしても何をどう間違えば屋根の上を歩くかはわからないが、真相はこの通り。
スナック帰りに屋根の上を歩いていたら名前の家の脆くなった部分で調度踏み外して、下で寝ていた名前の隣に降って来たというわけだ。


「あーあー、アッハッハ!やーっと思い出せたぜよ!!」
「別に笑えないんだけど。」


軽快に笑う男をよそに名前はまだイラつきが治まらないようで、男の首を挟むハサミに力を入れた。


「ぇええーーーわし無実じゃけん!!」
「そりゃわかったけどなんかむかつく。」
「理不尽ー!!」
「……はあ。じゃ、用が無いならさっさと出てってくれる?」
「アッハッハ、これ抜かんと動けなかきに。」
「………」


やけにハイテンションな男に名前の怒りボルテージが煽られる。
しかしここでキレる程名前は子供ではない。無言で男の首をハサミから開放して、鞘におさめた。


「にしてもちかっぱでかいハサミじゃの〜。」
「出てってくれる?」
「姉さんこげにでかいハサミ何に使うんじゃ?」
「首切られたいの?」
「アッハッハ!確かにこげにでかいと人の首ぐらい軽く切っ…」
「本当に切るけど。」
「ごめんなさい。」


……ここまで人の話を聞かない者を、名前が我慢できるわけがない。
鞘におさめたハサミを再び抜き、男の首を挟んだ。


「あ、そーじゃ!わしが屋根壊してしまったけんなァ、弁償しなきゃならん。」
「……ああ、そうですね。」


普通の人なら「そんな…いいですよ」と遠慮がちになるものだが、名前がそんなこと言うわけがない。
素直と言うべきか、がめついと言うべきか…。
男は懐から財布を取り出して、中を広げた。


「アッハッハ!そーいやァ昨日調子乗ってドンペリば頼みまくっとったなー!!」
「……」


どうやら、昨日スナックで相当使ったらしくて弁償できる金は無いらしい。
名前は男の財布を覗き込んでそのことを察知した。


「あたし真選組で働いてんだよね。」
「ちょ、ちょォ待ちィ!船に行きゃァ金なんぞたくさんあるき!」
「船?」
「わしの商いの船ぜよ。一回宇宙に飛んで金持って来……」


続いて、男は宇宙船の往復チケットの片割れを探す。


「………アッハッハ!どーしようお先真っ暗!アッハッハ!」
「…とてもそうは見えないけどね。」


どうやらチケットまで失くしたようだ。
もはや怒る気力もうせたというように、名前は大きく溜息をついた。


「あー…仕事…」


そういえば、今何時だろうか。
…朝の9時。屯所では既に皆が起きて活動している時間だ。もちろん名前も例外ではない。


「………」


遅刻してしまうと、もう行く気が失せてしまう。
名前は馬鹿笑いを続ける男を見て、何か思いついたように電話を手に取った。
もちろんかけ先は屯所。


「……」
『はい、こちら真選組屯所…』
「土方?」


電話に出たのは土方だった。


『名前…テメー今何時だと思ってんだ。』
「9時。お目覚めテレビの占い見忘れたわ。」
『んなことどーでもいいわ!!早く来い!!』
「それがさァ、ちょっと今日行けないのよね。」
『はあ?何でだ。』
「……ちょっと変なの拾っちゃって。」
『変なの?』
「雨にうたれて可哀相だったの。というわけでその世話しなきゃいけないから。」
『いやいやいやちょっと待て。昨日は雨なんか降ってねェ。』
「……とにかく拾ったの。」
『はあ?………ん?あー、名前だ名前。何か拾ったとか言って仕事に来れねェだか……ってオイ!』
『名前ーーー何を拾ったんだ!?まさか男じゃないだろうな!?許さんぞォォオ!!』
「まあ……男ね。」
『!?? な…なな…っ』
「…そういうわけだから、今日からしばらく仕事休ませてもらうね。」
『いや、そういうわけって…産休!?そこまで!?ちょっと待って名前ちゃん!せめてその輩を一目だけでも…』
「仕事休むけど文句ないね。」
『いや、文句そかそういうんじゃなくッ――』


電話の向こう側でパニクる近藤を無視して、名前は何の躊躇もなく受話器を置いた。


「いやー、悪いのォ!仕事まで休ませてしまって!」
「いいんですよ。その分のお金も頂きますから。」
「あれ?何か勝手に決められてるアッハッハ。」


もちろん名前が無条件で泊めてくれるわけがない。







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