13:思い立ったが吉日
「ふぬををををを!!」
「おめっ、ダメだってこんなとこで用たしたら…!お前の排泄物はわんぱく坊主の夢よりでかいんだから!!チクショー、だから散歩なんざ嫌だったんだよ!面倒は必ず私がみるアルとか言ってたくせによォ!最終的にはぜってーお母さんが犬の世話することになるんだよ!!アレ?俺お母さん?」
「…何やってんの銀さん。」
名前が巡回(と書いて『さんぽ』と読む)をしていると、定春の散歩にてこずっている銀時に会った。
定春が人様の家の前で用を足そうとしているようだ。
「げッ!おい定春!警察の方来ちゃったよ!コレしたら罰金だよ!払うの俺なんだからよォオ!!」
「…情けないわね。たかが犬1匹の散歩もろくにできないなんて。」
「名前サン、これたかが犬じゃないんだよね。されど犬だよ。」
「この子の名前は?」
「定春だ。」
「定春、我慢。」
「………」
「我慢。」
「……ワン!」
名前が言うと、先程までそこを動こうとしなかった定春が抵抗をやめて返事をするかのようにほえた。
「えええ!?何だおま…っ、犬の分際で好み差別ですかコノヤロー!!」
「こういうのは頭ごなしに怒鳴っちゃダメ。静かな重みで脅すのよ。」
「…あ〜〜、何かすっげー説得力が…。」
「フン、ペットのしつけもできんとは情けない…。」
名前と銀時が話していると、後ろから桂が現れた。
隣には……何やら説明し難いものがいる。
「!!」
「大丈夫。非番の日まで働くなんてことはしないわ。あの時はどうもありがとうございました。」
「いや…」
桂は真選組の隊士である名前の姿を見て警戒するが、名前は軽く言った。
非番では無く、巡回という仕事の真っ最中なのだが…。
「何だヅラ……」
「動物一匹自由にできんようで天下国家をどうして動かせようか…。貴様それでも侍か!?」
「なんだソレ気持ちワル!!」
銀時は桂の隣に並んでいる白い物体を見て言った。
「気持ち悪くない!エリザベスだ。」
「単体で見るとそーでもねーがお前とセットになると気持ちワリーよ。っていうかお前が気持ち悪い!」
「わあ、可愛いペットね。触っていい?」
「どうぞ。坂本のバカがこのあいだ俺の所に来て勝手においていったんだ。大方どこぞの星で拾って来たんだろう。相変わらず宇宙公開などにうつつをぬかしているらしいからな。」
「オメー地球外生物は嫌いじゃなかったか?」
「こんな思想も何もない者をどう嫌いになれというんだ。それに…けっこうカワイイだろう?」
「ええ、とっても。」
「やはり美しい人はものを見る目がありますね。」
「桂さんもね。」
「よーしいくぞ、エリザベス。今日は河川敷までいこうか!」
すると、ノリノリで桂はエリザベスと歩いていってしまった。
河川敷までいって一体何をするのだろうか。そして指名手配犯があんなに目立つペットと一緒に歩いていて大丈夫なのか。
「…まじで可愛いって思ってんの?」
「ええ。可愛いじゃん。………じゃ、またね銀さん。」
「……おう。」
「ねえ沖田、ペット欲しくない?」
「ペット?」
それから数日後。休暇をあけて名前が沖田に何の前ぶりもなく、突然こんなことを言い出した。
「そう。欲しくない?」
「俺ぁどっちでもいいですが…屯所で飼うんですかィ?」
「もちろん。家じゃあ面倒見れないわ。」
「近藤さんはいいとしてムッツリ土方が何て言うかですねィ。」
「オイ誰だ今ムッツリ土方っつったのは!!」
沖田が普通に「ムッツリ土方」と言うと、室内でデスクワークをしていた土方がふすまを開けて出てきた。
一体どんな聴覚をしているのだろうか。
「土方、ペットを飼いましょう。」
「は?」
名前は出てきた土方で早速ペットの話を持ちかけた。
「ペットよペット。」
「いや、ペットはわかるが何でいきなり…」
「欲しいから。それ以外に理由は無いわ。」
「………じゃあ飼えばいいじゃねーかよ…。何でいちいち俺に言うんだ?」
「やった!沖田、何飼いたい?」
「やっぱ警察って言ったら犬でしょーかねィ。」
「犬は駄目。銀さんちとかぶるから。あたし的には猫とか…疲れてるあたしら隊士に癒しを与えてくれるのがいいな。」
「ああ、癒し系ですね。」
「おいおいちょっと待て。もしかして屯所で飼うつもりなのか…?」
「そうよ。」
土方の問いに名前はさも当たり前のように即答した。
「はあ!?じゃあ駄目に決まってんだろ!そんな余裕ねーよ!」
「さっきいいって言ったくせに……自分の言葉には責任持ちなさいよムッツリ土方が。」
ここでムッツリ再び。
「なんか黒いの降りてきたー!!と、とにかく駄目だ!」
「言っとくけどあたしは途中で世話するのが面倒くさくなるような奴じゃないわよ。」
「そりゃ知ってるけど…」
「じゃあ問題無いじゃない。」
「でもなァ…」
「名前さん、ムッツリなんかに頼むより近藤さんに頼んだ方が早いでさァ。」
「それもそうね。」
「ちょっと待てェェエ!!」
「近藤さんは?」
「多分局長室だと思いやす。」
待てと言う土方はシカトして、名前と沖田は局長室に足を運んだ。
土方も後ろで何か叫びながらそれについていく。
ガラ
ふすまを開けると横になってせんべいを食べながらテレビを眺めている近藤がいた。
「アンタ何やってんのォオ!?仕事しろよ!!」
「丁度良いところに来たなトシ。ペット飼わない?」
「は?!」
土方は思いもよらない近藤の一言に吃驚。
「あたし達もさっきその話をしてたのよ。」
「まじで?何飼う?俺的には癒し系のトイプードルか猫がいいんだけど…」
「犬は駄目。猫にしましょう。」
「シャム猫とか良くないですかィ?社長気分を味わえますぜ。」
「あ、いいかも。」
「勝手に話進めんなァァア!!」
「あ、悪い悪い。トシは何を飼いたいんだ?」
「いや、別に話に参加したかったわけじゃないから!!つーか本気で言ってんのか!?」
「おう。これ見てたらなんか急に欲しくなっちゃってよー。」
近藤は相変わらずせんべいをバリバリ食べながら、テレビを指差した。
『……フン、なんだかんだ言っても御主人様が好きか?だがそれ以上かみつこうものなら君の御主人の首を斬るぞ!!さあどーする?』
『どーするじゃねーよ!!通じるわきゃねーだろ!!』
テレビに映っていたのは銀時と定春に、変装しているらしい桂とエリザベスだった。
エリザベス、銀時、桂、定春といった順に上に重なっていっている。
「銀さんじゃない。」
「なんでアイツがテレビなんかに出てんだよ。」
「あ、俺知ってまさァ。コレ変てこペットグランプリだ。この前宣伝やってた。何でも優勝したペットには豪華賞品が出るらしいでさァ。」
「あー、それで出てんのか。」
「つーかもう1人の黒髪…どっかで見たことあるような…」
「気のせいじゃない?」
一体何をやっているのかというと、この番組は『宇宙で1匹、変てこペットグランプリ』という新番組で、
変てこペット日本一を決めるという主旨らしい。今はその勝負の真っ最中のようだ。
『てめーらよォ!!競技変わってんじゃねーか!!頼むから普通にやってくれェ!!放送できねーよコレ!』
乱闘騒ぎの2人と2匹についに司会がキレた。
『放送など知ったことか!!』
『あーーもういいっスわ〜。なんかだるい。』
『『!!』』
すると、桂でも銀時でもない声が聞こえてきた。
『もう帰るんで。ちょっと上どけてもらえますぅ?』
それはどうやらエリザベスの声のようで、口の部分から人の手のようなものが出てきた。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、コレは…』
『…ウソだろ、エリザベ…』
プチン
桂のアップを最後に、テレビは真っ黒になり、「しばらくお待ちください」という文字が出てきた。
「………シャム猫決定ね。」
「よし、シャム猫な!」
「じゃあ早速買いにいきますかィ。」
「オイオイ誰かつっこめよォォオ!!」
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