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29:早く抜け出したい

「ん……」
「…あ、気づいた?」


男の人が目を覚ましたのはすっかり日も暮れた頃だった。
応急処置を済ませた後、調合に必要な薬草を見つけて、もう毒気は抜いてある。
船長にはすぐ帰ってこいって言われてたけどしょうがない。事情は子電伝虫で伝えたし、怒られることはないだろう。


「体動かせる?」
「……!」
「ん、大丈夫みたいね。」
「……ありがとうございます…!!」
「いいっていいって…」


どうやら体の痺れはなくなったみたい。
現状を理解したらしい男の人は額を地面につけてお礼を言ってきた。
な、なんかそこまでされると逆に困るんだけど……
ほら、私の周りにそこまで謙虚な人いないからさあ。


「お名前を聞いてもいいですか?僕はメロといいます。」
「…ナマエ。」


一瞬(一応)海賊である私が一般人相手に名乗っていいものかと迷ったけど、一般人を貫き通せばいいかということで名前を伝えた。


「ナマエさん……本当にありがとうございます。」
「だからいいって。歩ける?私そろそろ船に戻らないといけないんだけど…」
「ナマエさんは旅のお方なんですか?」
「あー……まあ、うん。」
「では是非僕の家にいらしてください!」
「え、でも……」
「お礼がしたいんです!」
「じゃ、じゃあちょっとだけ…。」


押しに弱い、私の馬鹿…!














「いやーお嬢さん本当にありがとう!息子の命の恩人だ!存分にもてなせ!」
「はい、旦那様。」
「あの、そんなおかまいなく…。」
「ナマエさん、夕食ができるまでお部屋に。」


流されるままにメロの家に行くとこれがとんでもなく大きくて、
いかにもお金持ちそうな丸っこいおじさんやらメイドさんやらがたくさん出迎えてくれた。
え、何このシンデレラストーリー。


「……メロは金持ちだったんだね…。」
「はは…まあ、比較的…そうですね。」
「…何で富豪の息子があんなところにいたの?」
「……僕には夢があるんです。」
「夢?」
「ええ。富豪と言ってもこんな辺鄙な町の富豪…。親は少しでも高い地位につきたいらしく…。おれは17年間、貴族の女性と結婚するために必要な知識や器量を教育されてきました。」
「………」
「…けど、おれがやりたいのはそんなことじゃない。おれはこの町の人たちが好きなんです。」


…なるほど。お金持ちはお金持ちで大変なんだな。
私だったら親の出世のために使われるなんて考えられない。


「人を救うのは金じゃない……力だ。おれは、自分の力でこの町の人たちを守りたい…!」
「…そっか。」


きっと、いや絶対メロの「この町の人たちが好き」という言葉に嘘偽りはない。
だって闘志を燃やした瞳をまっすぐに向ける表情は真剣そのものだ。


「…はは……ナマエさんは不思議な人ですね。こんなこと、人に言ったのは初めてだ。」
「まあ金持ちの事情はよくわかんないけどさ、メロならできるよ、きっと。」
「! 本当ですか!?おれでも……!海軍将校になれるでしょうか…!?」
「……!?」


思ってたよりずっとスケールのでかい夢だった!!
いやいいよ?夢はでっかく持っていけばいいよ。
ただ、そうなってくると話は違ってくる。
海軍将校を目指す彼と、海賊船に乗ってる私が一緒にいるなんて滑稽な話だ。


「あー…えっと……うん、なれるんじゃないかな。」
「ナマエさん……ありがとうございます!おれ頑張ります!!」
「あは、あははは…」


最後は適当に返事をして、どうやって一刻も早くここから抜け出そうかと思考を巡らせた。






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