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24:伝わらない

私が猫の姿で船に戻ってから2時間程が経った。


「ミルクうまいかー?」
「おかわりいっぱいあるからな!」


猫になってしまった私は………盛大に甘やかされていた。










「……何だその猫は。」
「「「船長!」」」


私がいい加減ミルクに飽きてきた頃、船長が戻ってきた。
ペンギンの言葉が本当ならかれこれ2時間くらい私を探してくれたんだろうか…。
だから、船長の機嫌は初対面の人が見てもわかるくらいに不機嫌だった。
私も含めてその場にいたクルー全員が固まった。


「あの、ナマエは……」
「チッ……見つからねェ…」
「まさか本当に何かあったんじゃ…!」
「にゃー!」
「…明日の朝また探しに行くぞ。」
「はい!」


ああもう、ここにいるのに!
船長たちの足元で精一杯主張してみてもやっぱり人の言葉として伝えられない。
探しに行ったところで絶対見つからないんだってば!船長の機嫌が悪化するばかりなんだってば!


「にゃー!なう!」
「それから……その猫黙らせられねェなら捨ててこい。」
「!!」


それでも健気に主張していた私だが、船長の一睨みで声が出なくなった。
だ、だって超怖いよこの人…!この船の人間は白くてもふもふした動物が好きじゃないのか!ベポが好きじゃないのか!
船長は禍々しいオーラを身に纏ったまま船内に入っていった。


「ご、ごめんなー。今うちのクルーが行方不明で……船長機嫌悪ィんだよ。」
「…にゃー……」


うん、その原因がまさしく私なんです。


「ま、大人しくしてりゃー害はねェからさ!そーだ、風呂でも入るか!お前泥だらけだしキレーにしてやるよ!」
「っ!?がうううう!!」
「あっちょ、待てッ!!」


性懲りも無くシャチが変態的なことを言い出すから、私は捕まる前に逃げ出した。
猫になったおかげで俊敏な動きができる。ちょっと走り回ったらシャチの影は見えなくなった。ははは、いい気分!
さて……このままじゃいけない。なんとかして船長に伝えなきゃ…!


「………!!」


いつも医学書を読みに来る船長の部屋の扉がやけにでかく見える。
私が猫になったってのが原因だけど、船長の機嫌の悪さが扉からにじみ出ているっていうのも関係あるんだと思う。
そして最大の問題は、ドアノブに届かないということだ。ノブを回さなきゃドアは開かない。
…よし、こうなったら必殺猫ジャンプだ。ジャンプしてノブにしがみついて、まわして、押す……これでいこう!


「にゃー…ッ!?」
「さっきからうるせェと思えば……お前か、猫。」


渾身の猫ジャンプを決めたところで扉が勝手に開いた。
そして目の前に現れた船長が、空中で両手両足を伸ばす私の首根っこを掴んだ。ブランブラン、と私の足が揺れる。
うーん……何はともあれ結果オーライ!扉を開けるというミッションはクリアしたのだ。


「にゃー!にゃーにゃあ!」
「………」


あとは言いたいことを伝えるだけ。しかしこれが一番難しい。
多分本当に親しい人ならテレパシー的な何かで伝わることもあるんだろうけど、私と船長の間にそんなものは皆無だ。
とにかく私は必死に吠えることしかできなかった。


「……チッ。」


相変わらず人相の悪い船長はあからさまに舌打ちをすると、私を部屋の中に投げ入れた。
なんて奴だと思ったけど今の私は猫。華麗に空中で身を翻し、着地成功!
といっても、投げられた先はベッドの上で怪我の心配はなかったんだけど。
そしてベッドを抜け出す間もなく、船長がベッドに入ってきて私は片手で抱えられた。


「大人しくしてろ。今度喚いたらバラす。」
「!」


もちろん暴れたら恐ろしく低い声でこんな脅し文句が聞こえてきた。なんて奴だ…!
しかし猫を抱きしめて寝るなんて、船長も意外と乙女チックなとこがあったんだなあ…。
やっぱりなんだかんだで白いもふもふは好きなんだろう。
鼻先に船長の胸板が当たるけど、今の私は猫なんだ。気にすることはない。
直に伝わってくる人の温度はすごく気持ちよくて、うとうとと瞼がおりてきた。


「ナマエの奴……見つけたらタダじゃおかねェ…」


船長の不穏な発言を最後に、私の意識は薄れていった。






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