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22:また出会ってしまった

「船長おおおおお!!」
「何だナマエ、バラされてェのか。」


キッドにタックルをかまして全速力で逃げてきたナマエは、向かう先にローの姿を確認するとそのまま彼に向かって突っ込んでいった。
…が、もちろん片手で止められることになる。









「あうう私ものすごく怖かったのに……ベポおおお」
「大丈夫?」


ローに振り払われたナマエはベポに抱きついていた。
ぐずぐずと鼻水をすするナマエの頭を、よしよしとベポの毛むくじゃらの手が撫でる。


「ほォ。お前が“怖い”なんて、そりゃどんな妖怪だ?」
「………やっぱ何でもない。」


以前あれだけ注意されて勉強会まで開かれた挙句、教え込まれた要注意人物本人に会ってきましたなんて言ったらまたグチグチ言われるに違いない。
ナマエは咄嗟にそう判断して、キッドと会ったことを無かったことにした。


「…まあいい。早く酒場に行くぞ。今日は宴だ。」
「え、まじで?」








ハートの海賊団は酒場をまるまる一つ貸しきって宴をひらいていた。
この前襲撃してきた海賊船を返り討ちにした時いろいろとふんだくっていたからその祝勝会といったところだろうか。


「もー一杯!」
「いい飲みっぷりだな、ナマエ!」
「どーした、今日はやけに飲むなァ!」
「飲まなきゃやってられないっつぅの!」


ローの前ではウソをついても億越えの賞金首、ユースタス・“キャプテン”キッドとキラーに会ったことは紛れも無い事実。
その記憶を自分の中からも抹消したくて、普段は節度あるお酒を心がけているナマエだが今日は一心不乱にグラスを空けていった。


「ナマエ、飲みすぎだ。」
「うるせー船長!だいたい船長がおつかいなんて頼んでなかったら私は…」
「そのことで話がある。こっちへ来い。」
「いだだだだ」


10杯前後飲んだ頃にはナマエの顔は真っ赤になっていた。
この調子でいけば間違いなく潰れる。一人で飲んでいたローはまだ飲もうとするナマエのポニーテールを掴んでカウンターに引っ張った。


「水だ。飲め。」
「私まだ大丈夫なのに!」
「うるせーんだよ。」
「失敬な!」


ナマエとしてはまだまだ飲み足りないというのに、ローから渡されたのはアルコールが入っていない水。
文句をたれつつも、何か飲んでいないと落ちつかないらしく、ナマエは渡された水を素直に飲んだ。


「おれは薬局で薬品と包帯、その他諸々を買ってこいと言ったよな?」
「うん。」
「何でお前は手ぶらなんだ?」
「………あはは…」


そういえばそうだった。
薬局で買い物を済ました後に怪我をしたキラーを見つけ、買ったばかりの薬品と包帯はその処置に使ったうえに残りはそのまま路地裏に置いてきてしまっていた。
なんせあの時は恐怖に支配されて逃げることしか考えられなかったのだ。


「答えろ。さもないとこの先外出禁止にする。」
「…路地裏に怪我してる人がいたからその処置に使った。」
「…ほー、あの量を全部か?」
「…路地裏に忘れてきました。」
「取りに行って来い。」
「やだやだやだ!もうあそこ行きたくない!トラウマ!」
「はあ?お前いったい何が…」
「うわあああん」


ナマエにとってあの路地裏の事件はトラウマになっていた。
悪名高いユースタス・“キャプテン”キッドは手配書で見るよりも遥かに恐ろしい顔をしていた。
そして逃げるためとはいえ、その男に思いっきりタックルをかましてしまったのだ。
もしあそこに戻ってまた彼らに会うと思うと、生きた心地がしなかった。
ナマエはついに机に伏して泣き喚いてしまった。


「おい……」
「………」
「……寝てやがる…ったく。」


いつもの生意気なナマエからは想像できない行動にローは戸惑ったが、すぐに寝息が聞こえて呆れることになる。
さっきまで泣いていたのに寝てしまえばその寝顔は一転して能天気なものに変わっていた。


ドカァッ


「おーおー、やけにうるせェと思ったら……悪名高い“死の外科医”の一味か。」
「……ユースタス屋か。悪名ならお前の方が酷いと思うが?」


ナマエが寝て、他のクルー達が盛り上がっている中、酒場の扉が荒々しく開けられた。
ただならぬ雰囲気に一瞬にして静けさを取り戻す店内。
扉の方に注目すると、ゾロゾロと入ってきたのはキッド海賊団の面々だった。


「な、ななな何しにきた!ユースタス・“キャプテン”キッド…!!」
「ククク……ここは酒場だぜェ?酒を飲みに来た。」
「残念だな、今日はうちの貸切だ。」
「そーか。じゃーテメーらぶっ飛ばしたらこっちの貸切でいいんだな?」
「………」


キッドとローが好戦的な笑みを浮かべた。
ピリピリと空気が揺れ、お互いにいつでも武器をとれる姿勢をとる。まさに一触即発の雰囲気だ。


「「「うおおおおお!!」」」


ローが立ち上がったのを合図にハートのクルーが発砲し、戦闘が開始された。
さっきまで陽気な声が飛び交っていた酒場に、銃声や剣と剣がぶつかり合う音などが響き渡る。
ローはそんな中で相変わらず能天気に寝ているナマエを横目で見てため息をついた。
そして立てかけてあった長刀を手に取り、その鞘でナマエの頬をつつく。


「おいナマエ。」
「ぐえっ何す……って何この状況!?」
「めんどくせーからお前勝手に逃げろ。」
「はあ!?」
「ん?アイツは……」


バキッ


「!」


いきなり起きたら何故か戦場で、まだ状況が飲み込めていないナマエに向かって、戦闘で弾かれた短剣が飛んできた。
ローが死角から出て来たそれに気づいた時には既に遅く、能力を発動する前に短剣はナマエに触れてしまう。


ガキィィン


「……え…?」


それを弾いたのはローではなくキラーだった。
ナマエはキラーが目の前に現れたところでようやく自分の危機に気がついた。


「な、ななな何でここに…!?」
「……偶然だ。」
「ハハハハ!何だお前、トラファルガーんとこのクルーだったのか!」
「おい…どういうことだ、説明しろ。」


目の前に刃物を装備したキラー、手前には二度と見たくないと思っていたユースタス・“キャプテン”キッド、そして隣には鋭い目つきで睨んでくるロー。
ナマエは3方向から恐怖を感じた。


「おいお前、名前は?」
「えっと……」
「ナマエ、答えることねェぞ!」
「そうかナマエか。」
「死ねシャチ!!」


キッドに名前を聞かれて偽名でも答えようと思っていたらシャチが口を滑らせてしまった。
本気でシャチに殺意が沸いた瞬間だった。


「ナマエにはキラーが世話になった。今日だけは譲ってやるよ。」
「ありがとう……。忘れ物だ。」
「あ、ありがとう、ございます……。」


ナマエの名前を聞いて何故か上機嫌になったキッドは笑みを浮かべながらあっさりと酒場を出て行った。
キラーは呆然と立ち尽くすナマエに薬品や包帯が入った紙袋を渡してからその後を追った。
キッド海賊団の面々がいなくなって、さっきまで喧騒に包まれていた酒場が嘘のように静けさを取り戻す。


「………おい。」
「!!」


その後、ローからこってり絞られることになったナマエ。
10杯分のアルコールはあっという間に抜けたそうだ。








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もう1こ書きたいのあるからそれ書いたらシャボンディ行きます。





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