OP | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



19:誤解を生む

事件はある嵐の日に起きた。









さっきまでの快晴がウソのように、いきなり訪れた嵐にハートの海賊団は奔走していた。
荒れ狂う波によって船は遊園地のアトラクションのように激しく動き、振り落とされないようにしがみつくのがやっとだ。
それでも強風を受けて航路が大幅にずれないように、マストを折りたたむべく甲板ではクルー達が嵐と戦っていた。


ザパァン


「船長!!?」
「っ…!」


一際高い波が船を襲ったかと思うと、涼しい顔でクルー達に指示をしていたローがその波に攫われてしまった。
他のクルー達はてすりやマストに捕まることで難を逃れたが、ローは能力者。海水に触れて力が抜けてしまったのだろう。
シャチが手を伸ばすも手遅れで、ローは荒れ狂う波の中へと沈んでいってしまった。


「くそっ…」
「私が行く!!」
「なっ…ナマエ!?」


困憊するクルーの中でいち早く動いたのはナマエだった。
ナマエは邪魔になるつなぎを脱ぎ捨て、躊躇なく嵐の中へ飛び込んで行ってしまった。


「シャチ、浮き輪を用意しろ!」
「おう!」


もしここで誰かがナマエを追ったとしても余計な犠牲者が増えるだけだ。
ローの救出は泳ぎの得意なアニに任せて、シャチとペンギンは2人を引き上げること、残りのクルーは船を守ることに専念した。


「ナマエ!!船長!!」
「つかまれ!!」


目をこらして見渡していると、波に浮かぶ2つの影を見つけてすぐにそれがナマエとローだということがわかった。
ナマエはなんとかローを見つけることができたようだが、荒れ狂う波に襲われ浮いているのもつらそうだ。
シャチが投げた浮き輪は見事にアニの傍に落ち、ナマエがそれに掴まったのを確認してから、くくりつけた縄で船に引き上げた。


「げほっ、げほっ…!」
「ナマエ大丈夫か!?」
「船長は!?」


甲板に上がったローは気を失ったまま動かず、ナマエもかなり海水を飲み込んでしまったようで苦しそうにその場にしゃがみこんだ。


「がはっ」
「船長!」
「はや、く…!服脱がして、あっためて…っ」
「ナマエ!!」


ローの処置を言い渡してから、ナマエはそのまま気を失ってしまった。
遠のく意識の中で感じたのは雨に濡れた毛むくじゃらの手。それがベポのものであることを認識すると、安心して意識を飛ばした。








「………」
「キャプテン!!」


ローが目を覚ました時にはすっかり嵐はやみ、雲ひとつ無い快晴が広がり、穏やかな波が船を運んでくれていた。
少し気だるさの残る体を起こせば素肌に感じるもふもふ。すぐにベポが抱きついているんだと理解した。
そして何故こんな状況になっているのか、考えを巡らせれば嵐の海に放り出されたことを思い出した。


「ナマエが助けてくれたんだよ!」
「…ナマエが?」
「うん!あの嵐の中飛び込んで、キャプテンを見つけてくれたんだ!」


ふと隣のベッドに目をやればすやすやと眠るナマエの姿。
ベッドからはみ出した白い腕が重力に従って垂れている。ローは薄れる意識の中でこの腕を見た気がした。
嵐で荒れる海に飛び込んで、更に人を見つけて生還するなんて……確率にしたら10%にも満たないんじゃないだろうか。


「……そうか。」
「あっ、みんなにも知らせなきゃ!キャプテンが起きたって!」


大好きな船長が無事に目を覚ましたことが嬉しいらしく、ベポはドスンドスンと足音を立てて部屋を出ていった。


「………」


ベッドから抜け出したローは真っ裸だった。
そりゃあ海水でびしょ濡れになった服を身につけたまま寝かされていたらたまったもんじゃない。
今ローの体が人としての常温を取り戻しているのは正しい処置がされたからだ。
そしてその処置を示したのはおそらくアニ。ローは用意されていたいつものパーカーとジーンズに着替えながら眠るナマエを横目で見た。


「ううん……」
「………」


ローと同じ処置がされたナマエはもちろん真っ裸。寝返りをうったせいで背中が丸見えだ。


「っくしゅ!」
「……ったく。」


これだけ背中をさらけ出せば寒いのは当たり前だ。
せっかく嵐の海から生還したのにこんなことで風邪を引くなんて馬鹿げている。
寒そうに身を縮めるナマエの頬に手を置いてみればローの手の方が温かいのがわかった。


「…おれまでお前の世話になるなんて、な…。」


ローは毛布をナマエの体に巻きつけて、それを抱きしめるようにして同じベッドに横になった。
すると人の温度が気持ちいいのか、ナマエは体を反転させて猫のようにすり寄ってくる。


「…風邪なんて引いたら許さねーぞ。」


そう呟いたときのローの表情はひどく穏やかで、おそらく誰にも見せたことがない表情だった。


バン!


「船長!大丈夫っすか!?」
「ナマエは!?」


そんなところにベポに呼ばれたシャチとペンギンがノックもなしに医務室に飛び込んできた。
そして固まる2人。何故なら裸にシーツを巻いただけのナマエがローに擦り寄っていたから。
ローはそんな2人に構わずその姿勢を保ったままだが、さっきまでの穏やかな表情が嘘のように苛立ちを浮かべていた。


「ロー…」
「「ししし失礼しましたァ!!」」


石のように固まってしまった2人を動かしたのはナマエの甘い声。


「……ル、ケーキ…」
「…お前は本当、おれの機嫌を損ねるのがうまいな。」
「いひゃい……」


呼んだのが自分の名前ではなくケーキの名前だとわかると、ローはナマエの頬を容赦なくつねった。
さすがにここまでされたら好きなだけデザートを食べられるという幸せな夢を見ていたナマエも目を覚ます。
すると目の前には今から食べようとしていたロールケーキ……ではなく、ローの顔。


「…船長!大丈夫!?」
「…おれの心配より自分の心配をするんだな。いろんな意味で。」
「は……」


ナマエは全てを思い出してがばっと起き上がった。
体に巻きつけられていたシーツは自然とずり落ち、真っ裸のナマエは隠すものを失った。
そう、つまり、ローの瞳には一糸纏わぬアニの上半身が映っている。
状況を理解したナマエの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。


「はあああああ!?」


今さらながら崩れたシーツを体に巻きつけて絶叫したナマエを見て、ローは楽しそうに笑った。


「ナマエの声が聞こえた!ナマエも目を覚ましたんだ!」
「ばっ、やめろベポ!今だけはやめろ!」
「そーだやめとけ!2人は今忙しいんだ!」


ナマエがうろたえていると、ドタバタと足音が聞こえてきた。
今の悲鳴をベポが聞きつけてこちらに向かっているようだ。
こんなところを見られてしまっては変な誤解が生まれてしまう。
ナマエがローをベッドから蹴り落とそうと考えたところで、医務室のドアがノックも無しに開かれた。


「ナマエ……!!」
「………」
「………」
「…すいませんでした……」
「すんません!」
「じゃ、ごゆっくり!」


同じベッドにいるナマエとロー。しかもナマエはシーツの下は真っ裸である。
さすがのベポもここまで見れば状況が理解できる。
自分が空気の読めない行動をしてしまったと気づいてしゅんとうな垂れるベポを、ソワソワしたシャチとペンギンがつれていった。
バタン、とドアが閉まって少しの間静寂が訪れる。


「クククッ…」
「何笑ってんの!?絶対勘違いされた!!」
「安心しろ、とっくにされてる。」








■■
書きたいの書いたら原作と合流します。





next≫≫
≪≪prev