10:外科医だった
「おおおお見ろよこれ!!」
「え?」
「船長の懸賞金が上がった〜〜〜!!」
「うおおおお!!」
「え?」
私がハートの海賊団の船に乗って3日目の朝。
食堂で新聞を眺めていたシャチが急に雄叫びを上げた。
玉子スープの美味しさを堪能していた私は吃驚して少しこぼしてしまった。私のスープを返せシャチこのやろー。
そんな文句を言う前に他のクルー達も集まってきて、なんか興奮してる。えええ何この温度差。
「船長に報告だ!」
「おれ呼んでくる!」
懸賞金が上がったって言ってたから……そういうことなんだろう。
つまり悪名が上がったってことでしょ?海賊って喜ぶところがおかしい。
「おいナマエテンション低いなあ!見ろよこれ!」
「うるさい私の玉子スープを返せ。」
「玉子スープ?おれのやるから、これ見ろよ!」
「………」
普通なら玉子スープ一つでグチグチ言うなとか言ってくるはずなのに、テンションが高いせいで気前が2割増しで良い。
お言葉に甘えてシャチのスープをもらい、シャチが持つ紙切れを見てみる。
それはいわゆる手配書というやつで、船長の写真がドンと写っていた。
うわあ、船長ってこんな悪そうな笑みを全国に晒してんのか…。
「………二億…!?」
「きっとこの前の島で海軍基地潰したからだな!」
「ああ、ほとんど船長一人でやっちゃうんだもんよォ。」
「かっこよかったな〜。」
わいわいと話すクルー達の輪の中心にいるにも関わらず置いてけぼりな私。そりゃそーだよ!
海軍基地潰したとか、わいわい話す内容じゃないからね!しかもほぼ一人で?何てことしてんだ!
二億の賞金首って……そこら辺の海賊につける額じゃない…!
もしかして私、とんでもない人についてきてしまったんじゃ……
「うちの船長はすげェんだぜ、アニ!」
「ああ、“死の外科医”っつってな、今注目の大物ルーキーなんだ!」
「おーい船長連れてきたぞー!」
「おおお船長!見てくださいこれ!!」
「何してんだお前ら。」
「船長の懸賞金が上がったんすよォ!!」
「二億っすよ、二億!」
「……こんくらいで騒ぐんじゃねェよ。これからもっと上に行くんだからな。」
「「「船長〜〜!!」」」
何こいつら、どんだけ船長のこと好きなんだよ気持ち悪い…。
それにしても「死の外科医」とか、医者としては不名誉極まりない二つ名だなあ。
………ん?
「……外科医!?」
「ん?何驚いてんだ、アニ。」
「だって……え、船長外科医なの?」
「あ?テメーの弟の足治しただろーが。」
「………」
そういえば……!!
私は医者見習いということでこの船に乗っているわけだけど……
「わ、私内科志望なんだけど!」
外科医を目指してるわけじゃない。血が苦手で手術なんてできないし、薬剤の知識を活かして人の命を救いたいんだって!
え、ってことは何?私ただ単に海賊船に乗っただけ?
「クク……安心しろ、知識はある。」
「………」
そんな悪そうな笑み浮かべて言われても信用できない…。
どうしよう、今からでも帰れないかな…。
医者として一人前になれないんだったらここに乗ってる意味ないし…百害あって一利なしってやつだし…。
「ああ、あと……ベポ。」
「アイアイ!」
「お前の分だ。」
ベポから渡されたのは白いつなぎ。みんなが着てるのと同じものだ。
お前の分だってことは、これ私のなんだ…。広げてみれば、ちゃんと私の背丈に合っていた。
「い、一応もらっとく……」
「(素直じゃねェなァ…)」
ちょっと嬉しかったのは秘密だ。
■■
それ着たらもう言い訳できないけど。
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