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05:責任とってよね

ぶっすー


そんな効果音が似合う程、ナマエの顔は膨れていた。
島が見えなくなって小一時間。ナマエはずっと甲板の隅で膝を抱えて不機嫌オーラを振りまいている。


ナマエっつーのは、ついさっきまでいたグランドラインの春島に住んでいたごく普通の、海賊とは全く無縁の女。
そいつがハートの海賊団の船に乗っている理由は一つ。船長がそうしたかったからだ。
今までどんな別嬪だろうと船には乗せなかった船長が女を連れて帰った時は、何も知らないクルー達はそりゃもう目をひん剥いて驚いていた。
けど、こいつには船長が興味を持つ正統な理由があるんだ。
実際、おれが今生きてるのはこいつのおかげらしい。よく覚えてないけど、変なキノコを食べて気絶した時に助けてくれたのがこいつなんだとか。
船長は海賊であると同時に医者だからな、こいつの技術に興味を持ったんだろう。


「おい新入り!いつまでそんなとこにいんだよ?」
「……シャーッ」
「うおっ」


つまりナマエはおれの命の恩人ってわけだ。
だから直接礼を言いたいんだけど……ナマエはさっきからずっとあんな調子だ。
あれから何人か、ナマエに話しかけても威嚇するばかり。コミュニケーションのコの字も見つからねェ。
つーかお前は野生の動物か。近づけば今にもパンチが飛んできそうだ。
しかし船長も船長だよなァ…。自分が勝手に連れて来たくせに、本人はもう自室にこもっている。
可哀想なことにナマエは放置だ。放置プレイだ。……言ってみたかっただけだ。
とりあえず歩み寄らないことには始まらねェ!これからこの船で一緒に生活するんだ。


「な、なあナマエ…」
「………」


声をかけただけなのに睨まれた。何だろうこのむなしい気持ち。
っていやいや、負けてどうするおれ!何一般人の睨みにショック受けてんだよおれ海賊だよ!


「おれ、シャチっていうんだ。よろしくな。」
「………」


自己紹介すると、ナマエは仏頂面のまま小さく頷いた。その姿が何だか面白くて笑ったら、ナマエにまた睨まれた。


「悪い悪い。お前にどうしても礼が言いたくてさ。」
「……礼?」
「そ。お前がおれを助けてくれたんだろ?」
「……ああ、キゼツ茸食べたアホな人…」
「お前失礼だな。」


なんか思ったより面白い奴だ。失礼だけど。


「まあ、ありがとな。助かった。」
「…だったら私を帰してよ。」
「そりゃ無理な相談だ。そんな事したらバラされちまう。」
「誰に?」
「船長に。」
「ふーん。船長って怖い人なんだ。私会いたくないな。」
「………は?」


何言ってんだこいつ。


「?」
「お前とっくに会ってんじゃねェか。」
「え?」
「トラファルガー・ロー。うちの船長だよ。」
「………はああああ!?」


まさかこいつ、知らなかったのか?
船長だと知らずにあんな暴言を……いや、知らなかったからこそ言えたのか。なんて恐ろしい奴だ。


「だってあの人は医者なんじゃ…」
「ああ。医者で船長だ。」
「何それ…サギだ…」
「ははは、まあそんな落ち込むなよ。」
「……落ち込んでない、怒ってんの!!」
「は?」


顔を伏せたからてっきり落ち込んでんのかと思ったら、どうやら違うらしい。
勢いよく上げられたアニの表情は眉間にシワがよせられて険しかった。
ははは、怒ってるって、何に対して?もしかして船長に対して?


「…シャチ、トラファルガーどこ?」
「え…船長室だけど……」


お前、船長を「トラファルガー」呼びなんて、なんて命知らずな…!
そしてその船長の居場所を聞いてどうする。何で立ち上がる。何でおれを引っ張る。


「案内して!」
「はあ!?何で!?」
「文句言わないと気が済まない!!」
「なッ、やめとけ!お前バラされるぞ!っつーかおれまで巻き添えくらうだろーが!!」
「命の恩人でしょ?それくらい付き合え!」
「命なくすじゃねーか!!」
「……何やってんだお前ら。」


ギャーギャー騒ぎながら船内を走り回っていたら…コーヒーカップを片手にわれらが船長ォオオオ!!
やばい、これ絶対やばいって!こいつ何しでかすかわかったもんじゃねェよ!


「あ、や、船内を案内してやって…」
「トラファルガー!!」
「……あ?」


終わったーーーー!!


「いくら弟の命の恩人だからって、こんなの聞いてない!」
「お前の家族は了承しただろ。」
「あ、いやそう言われると否定できないんだけど……とにかく!私を海賊船になんて乗せてくれた責任、とってくれるんでしょーね!!」
「ほォ……責任?何だ、聞いてやる。」


ああもうダメだこいつバラされるよ。きっとついでにおれもバラされるよ。
誰だよこんな爆弾娘船に乗せたのぶっ飛ばすぞ。……あ、船長だった。


「責任とって、私を立派な医者にしてよ!!」
「………クク、そりゃお前次第だ。」


……あ、れ…?なんか船長がいつもより穏やかだ…。
な、なーんだ、おれの杞憂か!流石の船長も一般の女をバラすなんてそんな非道なことするわけないか!


「それから……」
「?」
「今度さっきみたいに呼んだら……バラす。」


するわけあったーーー!!
そうですよね、船長はこういう人ですよね!


「はあ?やれるもんならやってみむぐっ」
「すいませんっしたー!じゃ、案内続けるんで!」
「むぐーー!」


こりゃとんだじゃじゃ馬娘が来たもんだ。





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