04:拉致された
「ふんふーん♪ナマエ、そこのトマト切ってちょうだい。」
「はーい。」
夜、言われた通り美味しいお酒を用意して、更にお母さんはこれでもかっていう程の料理を作り出した。
どうやらお酒だけではお母さんの気は収まらなかったらしい。
コンコン
「あ、いらっしゃったわ!ナマエ出てくれる?」
「はいはー…」
「邪魔するぞ。」
私が扉を開けに行くまでもなく、勝手に開けて入ってきやがったよこいつ。本当ふてぶてしいなこいつ。
やって来たのはトラファルガーさんと、白熊と、キゼツ茸を食べた人と、ペンギンって帽子を被った人の4人。
ほら、お酒受け取りに来ただけなんだから、そんな大人数で来るわけないって言ったのに……この大量の料理どうすんだよ。
「まあいらっしゃい!これお酒ね!折角だからご飯も食べていって!」
まるで息子の友達を招きいれるかのようなノリで言うお母さんはきっとどこかがおかしい。
確かに恩人だけど、こいつら海賊ですよ?
「ああ、ありがたく受け取る。」
「わ〜、おいしそー!」
「んじゃいただきまーす。」
白熊とキゼツ茸を食べた人が遠慮なしにイスに座って料理にがっついた。
まあ……いいけど。トラファルガーさんを含めあとの二人は座ろうとしない。
どうしたんだろう?今更遠慮なんてするはずないだろうに。
「あともう一つ、貰いてェもんがある。」
「ええ!何でも言ってちょうだい!」
なるほどそういう方向できたか。本当海賊って図々しいな!
もう何でもかかってこいや!弟の命を救ってくれたんだもん。私が大事に育ててきたサボテンをあげてもいい!
「こいつが欲しい。」
こいつって……まさかの人ーーー!やっぱり海賊って怖い!人を貰って何をする気だ……
って、あれ?トラファルガーさん、私を指差してない?こらこら、人を指差すのは失礼ですよ。
「こいつの知識には興味がある。」
「……は?」
ニヤリ、と笑うトラファルガーさんと目が合った。きっと私は物凄くマヌケな顔をしていたと思う。
だって、意味がわかんない。それってつまり、私を海賊船につれていきたいってことでしょ?
え?私海賊にさせられる?いやむしろ奴隷?
え、何この展開聞いてない。恩人っつってもそりゃあんた、無理な願いだよ。
「ナマエ……」
涙目でお母さんが私を見つめる。
そうだそうだ、大事な娘をそう易々と海賊に誘拐されて平気な母親がいるわけない!
ここは大人がビシッと…
「よかったわね、ナマエ…!」
「………はい?」
と思ったら何を言いやがるこの天然女。
何をどうとったら私にとってプラス要素が出てくるって言うんだ。
「あなた、前から医者になりたいって言ってたじゃない。」
「それは…」
確かに、どうだけど……それはルオの病気を治すためであって、それが治った今私は別に……
「こんなすごいお医者様に推薦されるなんてすごいじゃない!」
「このアホーーーー!!」
これだからド天然は嫌なんだ!!
医者は医者でも海賊船の医者なんだよ!?か・い・ぞ・く!!
「交渉成立だな……ペンギン。」
「了解。」
ペンギンって書かれた帽子を被った人はペンギンと呼ばれた。そのまんまかーい!どんだけ安直な名前なんだこの海賊は!
って今は名前はどうでもよくて、ペンギンさんはなにやら大きい袋を持って2階へ上がっていった。
2階にあるのは私とルオの部屋。え、何これ嫌な予感しかしないんだけど。なんか上からゴソゴソ物音がするんだけど。
「な、何を…」
「船の上で生活するんだ。身支度が必要だろ。」
「ノォォオオーーー!!」
身支度ぐらい自分でするわ!ってその前にしねェわ!私海賊になるなんて絶対願い下げですからねッ!!
「頑張るのよ、ナマエ。」
「お姉ちゃん…立派なお医者さんになってね!」
おいそこの家族2人、何勝手にお別れモードに入ってんだ!ここ引き止めるとこ!海賊から私を守るとこー!
「ベポ。」
「アイアイ!」
「ひっ……ぎゃあああ!!」
「ごちそうさまっす。」
いつの間にかあんなにあった料理を全部たいらげて、口の周りに色々つけた白熊が私を肩に担いだ。あれ、デジャヴ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!私行かないからね!誰が海賊になんか…!」
「行くぞ。」
「聞けぇぇえええ!!」
さようなら、私の平穏な日々。
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