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03:医者だった

「あのガキの足、神経がやられ始めてる。このままだと全身にまわって死ぬぞ。」


はっきりとした口調で告げられたのは、あまりにも残酷な現実。








「………」
「ナマエどうしたの?…あ、もしかして母さんまた砂糖と塩間違えちゃった!?」
「…ううん、何でもない。」


母さんと2人で食事をしていて、頭に浮かぶのは昼間、トラファルガー・ローと名乗った海賊が残した言葉。


「今足を切断して適切な処置をすればあのガキは助かる。」
「そんな…」
「…おれは医者だ。お前にはクルーを助けてもらった恩がある。」
「…おれ達はあと2日この島に滞在するつもりだ。船は北の海岸に泊めてある……覚悟ができたら来い。そしたらあのガキの命、救ってやる。」
「………」


たかが海賊の言葉……信憑性なんてどこにもない。
それでもたまらなく不安になるのは、彼の言った事が確かに的を得ていたからだ。私をあの場で殺さずに、わざわざあんなウソをつくメリットも思いつかない。
事実、私が薬を作って内側から痛みを緩和するのもそろそろ限界だっていうこともわかっていた。


「…お母さん……」
「なあにナマエ?」
「話が、あるの…。」









次の日。私はお母さんとルオをつれて、北の海岸に来ていた。
森を抜けると、昨日トラファルガーさんが言っていた通り大きな海賊船が一隻泊めてあった。きっとこれが彼らの船なんだろう。


「よォ……覚悟はできたみたいだな。」
「!」


インターホンが無い船にどうやってお邪魔しようかと考えていたら、トラファルガーさんが船の上から私たちを見つけてくれた。
昨日の夜、ルオの状態をお母さんに話して、それから…ルオ本人にも包み隠さず話した。
足を片方切断しなきゃいけないなんて辛いに決まってる。それでもルオは、「ありがとう」と言って笑ってくれた。


「お願い、します…。」
「ああ。」
「ルオ…」
「…大丈夫だよ、お姉ちゃん、お母さん。」
「ベポ。」
「アイアイ。」
「わっ、熊が喋った!!」
「喋ってすいません…。」
「打たれ弱ッ!!」


車椅子に乗っていたルオが喋る白熊にひょいと抱かれて、そのまま船の上に連れて行かれた。


「何してんだ、アンタらも乗れよ。」


……まさか海賊船に乗る日が来るなんて、一体誰が予想しただろう。
少しとまどったけど私は一歩踏み出した。やっぱり術中は傍にいたいし。


「おっきな船ね〜。」


…お母さんは既に梯子を上っていた。我が母親ながらなんというか……すごいと思う、その神経。










ガチャッ


4時間後、トラファルガーさんが中から出てきた。


「ルオ……ルオは…!!」
「……」


私が駆け寄ると、彼はニヤリと笑って後ろを指差した。


「お姉ちゃん…!」
「ルオ……!」


どうやら手術は成功したらしい。
松葉杖をついていつもの笑顔を浮かべたルオの姿に安心して、私はその体をぎゅっと抱きしめた。


「よかった……!大丈夫…?」
「…うん、まだちょっと痛いけど、おれ頑張ったよ。」
「うん…うん…!」


足を切断するなんて、12歳のルオにとっては厳しい現実。
それでもこの子は受け入れて、前に進んだんだ……本当に、よく頑張ったと思う。


「しばらくは痛み止めを飲ませてやれ。人並みに動かせるようになるかどうかはそいつの気合次第だ。」


切断したルオの右足には義足がついていた。
疑っていたわけじゃないけど…この人、本当に医者だったんだ……それもかなりの腕の。


「ありがとうございます…!!」
「気にするな、恩を返しただけだ。」
「そんな!それじゃあこちらの気が収まりませんわ!是非何かお礼をさせてくださいな!」


お母さん……よくもまあ初めて会う海賊相手にこうもハキハキと喋れるものだ。
でも確かにお母さんの言うとおり。弟の命を救ってくれたんだもん、何かお礼がしたい。


「わ、私もお礼したい!」
「………なら、この島で一番美味い酒を用意しろ。あとは………まあいい、夜に取りに行く。」


ニヤリと笑ったのが少し気になったけど、そんなものでいいのなら、と私は勢いよく返事をした。










そう……これがいけなかったんだ。お礼をしようなんて考えがいけなかった。後悔なんてしてももう遅いんだけど。




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