ある日の出来事
「よい、しょ…っと!」
ドスン、と持っていた木箱を床におろして、フーと息を吐く。うーん、なかなか重かった!
白ひげ海賊団の雑用として船に乗せてもらっている私は今日も今日とて雑用。
丁度今マルコ隊長に頼まれていた仕事を終えました!武器庫にあった砲弾を倉庫に移すこと。
砲弾っていうと海賊船には必需品ってイメージだけど、ここは最強白ひげ海賊団!
めったに戦いを挑んでくる人たちなんていないし、もしそんなことになっても隊長一人で相手ができてしまうのだ。
しばらく使われていなかった砲弾の木箱は埃だらけだった。さすが白ひげ海賊団!
こんなすごい船に私なんかが乗ってるなんて奇跡だよ!オヤジ様は偉大な人だ。
「ケホッ…」
やっぱりここの倉庫も滅多に人が入らないせいか、埃っぽい。
窓から射す太陽の光によって空中にどれだけ埃があるかがわかる。
……よし!ここはひとつお掃除でもしようかな!
滅多に使われないって言ってもこんな埃まみれじゃ気分悪いもんね。
どうせこの後は「適当に掃除でもしとけ」って言われるだろうし、今日はここの掃除をしよう!
「よーし!」
ガゴッ
気合を入れてお掃除道具を取りに出ようと扉を開けた私。
ガッガッ
気合を入れてお掃除道具を取りに出ようと扉を押した私。
「………」
ガッガッゴッ
あ、あれ、おかしいな、一向に扉が開かない。
聞こえるのは扉の木材がひしめく音だけ。
え、ちょっと、ま、もしかして……
「開かないーーーー!!」
ぎゃあああ閉じ込められた!閉じ込められてる私!
いや閉じ込められてるって言うと誰かのせいに聞こえるから違うか………勝手に閉じ込められてる!!
「いーやーーー!!だ、誰かいませんかー!?」
ドンドンと扉を叩いて助けを呼ぶ私。ああ、半泣きだ。
だって怖いんだもん。こんなところで誰にも見取られず孤独に死んでいくなんていやすぎる!
この場合、餓死になるのかな……
「いやいやいや!!」
だめだだめだそんなマイナス思考!死ぬことなんて考えちゃいけない!
クルーはいっぱいいるんだ!誰かしら近くを通るよ!
「……」
はい、あっという間に日もくれて夕方になってしまいました。ついさっき夕日の光さえもなくなって倉庫の中は本格的に真っ暗です。
もう泣きたくなってきた。あ、ごめんなさいもう泣いてます。5時間くらい経ったっていうのに誰一人近くには寄ってきませんでした。
…そろそろお腹が空いてきたなあ…。こんなことになるんだったらダイエットなんてせずにお昼いっぱい食べとくんだった…。
決めた、私もうダイエットやめる!ってその前にここから出ないとでしたー!
お腹空いたうえに肌寒くなってきた。次の島は秋島。昼間はあったかいけど夜になると結構冷えるのだ。
…いや、冬島じゃないだけまだマシだよね!凍死なんてやだし!て、ていうか私死なないし!
「うう…」
そろそろ頭の中で考えることもなくなって急に寂しくなってきた。体育座りをして膝の上に顔を埋める。
途端にシーンとなる倉庫…
ガー
「!?」
あ、あれ、シーンとなってない…?
ガーー
き、聞き間違いじゃない!確かに音がする!何の音だろう…
「ガー…オイコラてめっ…そりゃおれの肉だ…」
「!」
人の声…?どこから…
ドスンッ
「あだっ!」
「ぎゃーー!?」
そ、空から何が降ってきたーーー!!
かろうじて見える輪郭は人間だ。何でいきなり…穴らしきものもないし…つまりずっとここにいたってことになる…よね?
内心一人じゃなかったとものすごーく安心したけど、もしかしたら敵船のスパイかも!オヤジ様を狙ってずっとここに潜んでいたとか…
「あー…びっくりした。」
「きゃーー!!」
「ん?誰だ?」
目の前でむくりと起き上がる人影。音からして結構な高さから落ちただろうに、その人はピンピンしている。
ぎゃーどうしよう!出られないし敵(?)いるし、まさに絶体絶命!?
いや、ここはこの人にもこの状況を説明して協力して脱出するべきだ!こんな時に敵とか味方とか言ってる場合じゃないよ!
「あっ、あの…」
「ん?お前確か……ナマエ…だったか?」
「へっ!?」
な、何で私の名前……まさか調査済み!?ぐいっと顔を近付けてくる目の前の人。それもそうだ。こんな暗闇じゃあよっぽど近づかない限り顔は見えない。鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離になったところでやっと顔が見えてきた。私の目をとらえる真っすぐな瞳…両頬のそばかす…
「やっぱり!…ナマエだよな?名前合ってるか?」
それにこの声……
「えええエース隊長!?」
「おう!」
ニカッと笑うエース隊長の顔が一瞬眩しいくらいに視界に映った。おおお敵なんてとんでもない!白ひげ海賊団二番隊のエース隊長じゃないですか!
「こんなとこで何してんだ?」
はっ!そうだこの状況を説明しないと!!
「あのですねッエース隊長大変なんです!どれくらい大変かというとものすごく大変なんです!」
「そーか。で、何だ?」
「どうしよう私たち一生ここから出られないかもしれないんです!」
「…そりゃ大変だ。で、何だ?」
「ごめんなさい最後を共にするのが私なんかでぇぇ!」
「お前面白いなー。」
「…なるほど。閉じ込められちまったわけか。」
「はい…。ごめんなさい、私がもっとしっかりしていればこんなことには…」
「ナマエのせいじゃねェさ。ここ放置だからなー。」
状況を説明するとエース隊長はニカッと笑って私の頭の上にぽんと手を乗せた。まるで子供の不安を取り除くように。
私は子供じゃないけどエース隊長の大きな手に安心してしまった。根拠は無いけど大丈夫な気がしてきた。やっぱりエース隊長はすごい。
「そういえば、エース隊長はここで何をしていたんですか?」
「昼寝。」
「え…」
「ここ昼間は太陽の光であったけェんだ。あそこがベストポジション。」
斜め上を指差すエース隊長。その先には高く積まれた箱があって、その上には丁度窓があった。
確かに昼間はぽかぽかだろうな。昼寝のベストポジションと呼ぶに相応しい場所だ。
「人にも見つからねェしな。」
ん?それってつまり隊長おさぼり?
「他のやつには言うなよ?」
「はいっ。」
いたずらに笑うエース隊長。本当はおさぼりなんていけないのに、エース隊長だとつい許しちゃうんだろうな。
エース隊長はまだ20歳くらいなのに二番隊の隊長を任されてるくらい強くてすごい人なのだ。
それに優しいし、面白いし、かっこいいし……ってみんな言ってる。雑用の私にとっては憧れの存在なのです。
そんなエース隊長と二人きりでお話することができるなんて思わなかったなあ!なんだか嬉しい。
「まあそのうち出られるだろ!」
「は…はい!」
もうすっかりさっきまでの不安はなくなっていた。エース隊長のおかげだ!
それから2時間ほど、私はエース隊長との会話を楽しんだ。
空はもう真っ暗だけど、エース隊長のおかげで倉庫の中には微かな光が灯っている。
何故かというと、エース隊長はメラメラの実という悪魔の実を食べて、体を火に変えたり火を操ったりできるのだ。つまりすごく強いんです!
エース隊長がいてくれて本当によかった。一人ぼっちだったら私孤独死もありえたよ!
エース隊長のお話っていうと食べ物のことか弟さんのことくらいなんだけど、それでも私にとっては楽しかった。
「エース隊長の弟さん、会ってみたいです。」
「いつか会えるさ。あいつも海賊だからな。」
「…そうですね!」
ぐぅぅーー
ぐごーーー
会話に一段落ついたところでお腹が鳴ってしまった!
ものすごく恥ずかしかったけど、私のお腹の音の後にエース隊長の豪快な音が聞こえてまあいっかって思えた。
そりゃお腹空くもん!人間だもの。
「ぷっ…」
「あはは!」
二人で顔を見合わせるとなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
ああ、閉じ込められてるっていうのにこんなに楽しくていいのかな…。
「っくしゅん!」
「寒いのか?」
「はい少し…」
って!そういえばエース隊長ってば上半身裸!半裸!そんなエース隊長をさしおいて寒いなんて私なんてことを…!
「すすすすいません私贅沢ですよね!エース隊長どうぞこちらを…」
急いで上に来ていたカーディガンを脱ごうとする…けど、焦ってるせいかうまく脱げない。
「…ぷぁっはっは!お前ホントおもしろいなー!」
「…?」
豪快に笑いながらエース隊長は服を脱ぐ私の手をやんわり止めた。
「おれは大丈夫だから、着てろ。」
「で、でも…」
「おれは炎人間だぜ?」
「…なるほど!」
そういえばエース隊長、冬島でも簡単な羽織り一枚で過ごしてたような…。便利だなあ、悪魔の実って。
「そーだ!」
「?」
何か思いついたように呟いた後、エース隊長は立ち上がった。
どこに行くんだろうと思ったら私の背後にまわり、そこでストンと腰を下ろした。
「エースたいちょ…!?」
「どーだ?あったかいだろ。」
「ははははいっ」
そして後ろからエース隊長の手が伸びてきて私を包み込んだ。
つ、つまり後ろから抱き締められてる感じで確かにあったかいんですけど…ものすごく恥ずかしい…!
え、これはいいのか…!?私なんかがこんなドキドキしちゃうようなことされていいのか!?
「小さいなー。」
「す、すみません…」
「何で謝るんだよ。丁度いいってことだ。」
確かに私見事にすっぽり納まってる。エース隊長の腕の中に。
やったー丁度いいとか言われちゃったぜ!じゃなくていいのかこれ!?
「寝たかったら寝ていいぞ。」
「いやいやそんな!」
「そーか?おれはこのまま寝るぞ。」
えええこの体制で寝るんですか!?寝られるんですか?
…食べ物の夢とか見て噛み付かれたりしないかな…。いや、大丈夫!エース隊長を信じよう!
「がーー」
ってもう寝てるー!!すごいなエース隊長!寝る宣言してから1分もたたずに寝てしまわれた!きっと疲れてるんだろうな。
ここは誰か来たときのために私がちゃーんと起きてないと!
数時間後。
「……何してんだよい。」
「いや……」
「わー……これがアルパカさん……かわいー……」
エースの胸板に頬を寄せて眠るナマエと赤面するエースが、マルコによって無事見つけられた。
更に数時間後。
「マルコ隊長ありがとうございますぅぅ!!私もうダメかと思いました!命の恩人です!」
「…エース、扉蹴破るくらい造作もねェことだろい。」
「や、だってナマエが面白いから。」
「ええええーーー!?」
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