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02:海賊だった

「はぁ……ただいまー。」
「どうしたのナマエ、遅かったじゃない…!」
「…ごめん、ちょっと夢中になっちゃって…」
「ナマエ…」
「お姉ちゃん!」
「ルオ、ただいま!」








原因は「牛乳買って来てもらえる?」というお母さんの一言。
だからってお母さんを恨むつもりはない。自分の運の無さに怒りを通り越して呆れてしまう。


「あ!昨日の女の子!」
「!! ひ、人違いですっ…!」
「待ってー!」


何で何で何で白熊が普通に街中歩いてんの!?買い物してんの!?みんな、疑問を持とうよ!!白熊以前に、奴らは海賊なのにっ!


「おい待てよー!」
「礼ぐらい言わせてくれ!」
「ひいいいい」


何か増えてるーーー!!
おそろいのツナギを着てるからにはあれ皆、同じ海賊の人達なんだ…
って何で私が追い掛け回されなきゃいけないわけ!?私何も悪いことしてないのに!むしろ助けてあげたのに!海賊って意味わかんない!
私も私で後ろめたいことは何もないんだけど……海賊に追われたらそりゃあ逃げるでしょうよ!!









「はぁ、はぁ……」


後ろを振り返って誰もいないのを確認。
街中じゃ流石にキツいと思って途中で森に入ったのは正解だったな。今ごろみんな森の中をさまよっていることだろう、ざまーみろ!
久しぶりにこんな必死に走った…。日ごろから運動してて良かった…。
さあ、もう家とは目と鼻の先だ。


「おい。」
「!?」


背後に聞きなれない低い声が聞こえて、肩がすくんだ。
聞きなれないけど、ごく最近聞いた事があるこの低音……


「随分と急いでるみたいじゃねェか。」
「………」


恐る恐る振り向くと、昨日のパーカーを着た人が恐ろしく長い刀を持って立っていた。この人はツナギ着てないけど、あの海賊達の仲間であることには間違いない。
それに、この形相……怖ッ!なんか目の下にすごい隈あるし……何それ、熊とかけてるの?
昨日はそんなまじまじ見れなかったけど、この人怖っ!眼力で赤ん坊くらい殺せそうだよ!


「…心配すんな。別にお前をどうこうするつもりはねェ。」


いや、そんな悪そうな顔の人に言われても信じられません。説得力皆無だもの。
一刻も早くこの場から抜け出したい。けど、なりふりかまわず家に逃げても追い詰められるだけだし、ルオとお母さんまでもを危険にさらしてしまう。かといってまた森に入っても、残りの人達と鉢合わせしてしまう可能性がある。
やだよ私こんなところで、海賊に殺されるのなんて…まだ、ルオの病気治せてないのに…!


「お前…」


ゴトッ


「ルオ…っ!!」
「!?」
「……」


家の方からお母さんの短い悲鳴が聞こえた。


「ルオ…ッ!」


気付いたら私はなりふりかまわず家に走っていた。


「お母さん!」
「ナマエ!ルオが…」
「ルオ!」
「…お姉…ちゃ…」
「痛いの?待ってて、今鎮痛剤持ってくるから!」


私の7つ下の弟、ルオは生まれた時から病気にかかっていた。当時12歳だった私がその病名を聞いてもよくわからなかったけど、今ならわかる。ちゃんとした施設があって、ちゃんとした実力のある医者でなければ治せない病気だった。
残念ながらこの島には条件に合う医者はいない。だから私が治してあげたいって、思ったんだ。
2年程前からルオの右足は動かなくなってしまった。もう時間がないって事は……嫌でもわかる。


「ルオ、大丈夫?」
「うん、もう痛くないよ。ありがとうお姉ちゃん。」
「…ううん。」


ルオはにっこり笑うと、疲れたのかそのまま寝てしまった。その笑顔を見る度に私はなんて無力なんだと思い知らされる。


「……」
「……」


…あれ、涙のせいかな?なんかここに居てはいけない人が見える。
しかもその人ってば、寝ているルオの足をまじまじと見てらっしゃる。


「おい、こいつ…」
「出てけえええ!!」


力の限り押してやった。
いつの間にか私の家にあがりこんでいたのはさっきの海賊。
確かに奴の見てる前で家に駆け込んじゃったけど、そこは空気読もうよ…!部外者立ち入り禁止的な空気だったじゃんか!


「うちには金品なんてないんで、帰ってください!」


なんとかお母さんに見つからず家の外まで押し返して叫んだ。
相変わらず目の下に隈を浮かべて私を見返す男に謝りそうになった自分を叱咤する。
だって怖ッ!目付き怖ッ!


「…聞け。あのガキ…もう手遅れだ。」
「!!」


昨日初めて会った人、それも海賊の言葉なのに、私は心臓が飛び出るんじゃないかっていうくらい動揺した。
それはきっと、頭のどこかではわかっていた現実を突き詰められたから。






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