OP | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



01:くまに出会った

「…よし。」


今日はこのくらいでいいかな。この分なら一週間くらいもちそうだ。
弟とお母さんが待つ家に帰ろう、そう腰を上げた時だった。


パキ…


白熊に出会った。


「………」


死んだフリをした。
あれ?これ正しいんだっけ?迷信?あれ、じゃあ私食われる?いやでも今更起き上がる勇気とかないし、目も開けられない。いやほんとまじ怖い。
ていうか、この島には白熊なんて生息しないはずなのに……何で?温暖化のせい?いやいやそれでもこのグランドラインを渡ってくるとかどんだけ強いんだ、白熊。
私の見間違いでなければ二足歩行だった気がする。そして何故か服を着ていた気がする。ペット?ちょっと飼い主さん勘弁してよ、ペットの管理ぐらいちゃんとしてよね。
それにしてもさっきから静かだ。もしかして死んだフリ有効だった?


ガツ。


「!?」


…と思った矢先、体を担がれた。私は今白熊の肩の上。そしてのそのそと歩く白熊。
え……えええええ!?








「うわっ、ベポなんだそりゃ!」
「女の子。さっき会ったんだけど、いきなり倒れちゃって…」


てっきり巣に持ってかれて、家族みんなでおいしくいただかれると思っていたのに意外にも人の声が聞こえた。
よっしゃと思って助けを求めようとしたが、更に意外なことにすぐ耳元で別の声が聞こえた。
え、私の耳がおかしくなければ今の声、この白熊から発せられたと思うんですが、異論のある人はいますか?そろそろ頭がパーンってなりそうだ。


「キャプテン、この子診てあげてよ。」
「断る。元あった場所に戻して来い。」


なんだこの白熊、私が倒れたから心配してくれたのか。(もう白熊が喋っている現実には目を瞑る。)
白熊の優しさに心撃たれたのに、キャプテンとやらは鬼のような即答をした。何だこいつ、私は猫か何かか!


「でも……」
「……はァ。」
「!?」


低いため息が聞こえたかと思うと、垂れていた私の顔をぐいっと上げられた。
ああああやばい!死んだフリ!寝たフリ!私は…そう、銅像!!
さっきから怖くて目を開けられなかったけど、私の顎に触れた手は毛じゃなくてちゃんと肌の感触がして安心した。だって目を開けたら喋る白熊に囲まれていたとか、私ショック死できる自信ある。


「おいガキ、狸寝入りは…」
「キャプテン大変だ来てくれ!!」
「?」
「シャチが……!!」
「…何だ。」


心臓が飛び出るかと思った。
キャプテンとやらにはどうやら私が死んだフリしたのがバレてしまったらしい。けど、また別の誰かの声のおかげで追求されずに済んだ。キャプテンのものと思われる足音がどんどん遠ざかっていく。よし、この隙に私はとんずらを……


「シャチが!?」
「ぷ」


…こきたかったのに、私を担いでいる白熊までもが動いてしまったためにそれは不可能となってしまった。
一体私が何をしたっていうんだ、もうやだ。


「どうした?」
「シャチがキノコを食べて、そしたら急に気絶して…」
「いくら呼んでも起きないんです…!」
「…チッ」


キノコ?気絶…?それって、もしかして……


「しっかりしろ、シャチ!」
「シャチ!」


うっすら、恐る恐る、かろうじて景色が見えるように目を開けてみる。
よかった、みんなシャチとやらに夢中で私には気付いてない。そしてちゃんと周りの存在が人間であることに安心した。
って今はそんなこと言ってる場合じゃなくて……


「おい、図鑑は持ってきてるだろ?」
「は、はい!」


中心部に倒れているキャスケット帽子を被った人が十中八九シャチっていう人だ。
その人の手元に転がっていたのは茶色い、一見普通のキノコ。うー…ここからじゃよく見えない…


「下ろしてっ」
「わっ!?」
「あだっ」
「「「!?」」」


少し体を動かせば、いきなりのことで驚いたのか白熊は私をつかむ腕をパッと離した。
…何も落とさなくても……あいたたた…。
途端に周りの視線が私に突き刺さるけどそんなの気にするもんか。


「そのキノコ、私によく見せて!」
「……」


半ば無理矢理にパーカーを着た人からキノコを奪い取った。
斑点は小さくて、色はやっぱり普通のキノコと同じ。でも決定的に違うのが、傘の部分。


「これはキゼツ茸…」
「キゼツ茸?」
「食べたら気絶しちゃうの……永遠に。」
「「「!!」」」


傘の微妙な形が違うだけで、あとは普通のキノコと同じだからよく間違って食べちゃうことがあるそれは、やっかいなことに猛毒を持つキノコだった。


「……あった……間違いない…。」


図鑑を持った人がキノコと図鑑を見比べて、呟くように言った。
決して大きな声じゃなかったけど、誰もが言葉を失っている今、それは充分森の中に木霊したように聞こえた。


「治す方法はないの!?」


白熊に迫られて、思わず身を仰け反った。だって怖っ!キバ見えてる、怖ッ!!
治す方法はもちろんある。けど、それには材料が必要になる。丁度私が取ってきた薬草がその一部だけど、もう一つ別の薬草がいる。それがあるのはここから北に2キロほどいった地帯……そんなところまで行ってたら手遅れになってしまうかもしれない。
どうしようかと思ってたら、ふと、木カゴをしょった人が何人もいることに気付いた。
その中身は果物やら…葉っぱやら。


「その中見せて!」
「え?お、おう。」


私が言うと、その人は慌ててその木カゴを下ろした。
この人達探検家か何かかかな。そういえばみんなおそろいのツナギ着てるし…。


「……」
「…あった!」


数ある薬草の中からやっとお目当てのものを見つけた。
せっかく取った薬草が回りに散らばっちゃったけど、それくらい許してくれるよね。今はこの人の命を優先しなきゃ。


「おいガキ、何をする気だ?」
「薬を調合するの。」


リュックの中からいつも持ち歩いている調合道具を取り出す。
それにしてもさっきからこのパーカーを着た男は私のことを「ガキ」って、不躾な言い様だ。
でもそれからはみんなだんまりで、コリコリと葉を押しつぶす音と木々が揺れる音だけがこの空間を支配した。








「できた!誰か水持ってる?」
「おれ持ってる!」
「じゃあ、これと一緒にその人に飲ませて。」
「ちょっと待て!」
「…?」
「……信用、できるのか…?」


帽子にペンギンと書いてある人が、言った。
まあ、見ず知らずの人に友達(?)の命を預けるなんてできないのかもしれない。
それでもトゲのある言い方ではなくて、その言葉の裏に見えるのは不安。この人は優しい人なんだな、と思った。


「全ての責任は私がとります。」
「!」
「……飲ませろ。」
「は、はい!」


まだ不安そうにするその人を牽制したのは失礼なパーカーの人だった。
その人に言われて、また別の人がシャチと言う人に水と一緒に、たった今調合した薬を飲ませる。


「う……」
「シャチ!!」


少ししてから苦しそうに眉間にシワが寄せられて、シャチという人が目を覚ました。瞬間、安堵する息があちこちで聞こえる。


「おれ…」
「しばらくは体が思うように動かないと思うんで、無理しない方がいいですよ。」
「ありがとう!」
「わふっ」


いきなり巨体に抱きつかれたと思ったら、それは最初に会った白熊だった。
頭にまわった手がモフモフしてる。何こいつ、めちゃくちゃ毛並みいい…!
そういえば成り行きで助けちゃったけど……喋る熊といい、おそろいのツナギといい、この集団は一体何なんだろう。


「えーと……あなた達、探検家か何か?」
「……おれ達は海賊だ。」
「へ……」


探検家だったらおそろいのツナギにも、薬草や果物を集めていたことにも、……喋る熊がいることにも(?)納得がいく。そう思ったのに、パーカーの人の答えは私の予想の範疇を越えていた。そりゃあもう、トランポリンで軽々と飛び越えていった。
海賊………かいぞく……!?


「そっ…そそそそんじゃっ!!」
「あっ待って!」


逃げた。
…当たり前の反応だと思う。
しばらく追ってきたけど、この森で育ってきた私にとって初めて上陸した彼らをまくことは簡単だった。








■■
ヒロインは薬剤の知識があるだけの普通の女の子です。
恋愛要素は少ないです。




next≫≫
≪≪prev