エースの嫉妬
「ナマエー！こっちにも注いでくれ！」
「はーい！」
「ナマエ！こっちもだ！」
「はいはーい！」
ある日の宴の夜。
雑用であるナマエはクルー達に酒を注ぐために酒ビンを持って甲板の上を忙しなく走り回っていた。
あの事件以来、ナマエに無理矢理酒を飲まそうとする者はいなくなったし（エースの権力）、ナマエも（胸の）成長のために自ら酒を飲もうとはしない。
ナマエにとっては別に酒がなくても、宴は楽しいと思っている。酔っ払ったクルーの相手をするのも嫌じゃない。
「ナマエーーー膝枕してくれー！」
「はー…っていやですよ！！」
「ちぇー」
「オイオイ、エースさんに燃やされるぞ！」
「そりゃ勘弁だ！てめェらチクるなよ！」
「………聞こえてるっつーの。」
が、折角の宴を楽しんでない人物が一人。…エースだ。
エースはナマエが動き回る様子を一人、壁に寄りかかりながら面白くなさそうに眺めていた。その足元には何本もの空瓶が転がっている。相当飲んだらしい。
「よォエース。ご機嫌斜めだねェ。」
ナマエを見つめるエースの視界を何かが遮って、エースはそれを不機嫌そうに見上げた。そこにはマルコとサッチがジョッキを片手に立っていた。
２人はほろ酔い程度で、サッチはエースをからかうようにニヤニヤ笑っていて、マルコの方はエースの足元の空瓶を呆れたように見ている。
「……そんなことねェよ。」
「ウソつけ。いつもよりペースが早ェじゃねーか。」
「潰れんなよい。後が面倒だ。」
「…つぶれねェ。」
「エース……そういうのをヤケ酒って言うんだぞ？」
エースは否定するが、そんな眉間に皺を寄せた表情では説得力が無い。
実際、宴の席でエースがここまで酒を飲むなんてことはしない。ジョッキの中に残っていた酒も一気に飲み干したエースが、２人は少しだけ心配になった。
エースがここまで不機嫌に酒を飲む理由は一目瞭然でわかる。
「……気に入らねェ。」
「「？」」
相変わらず眉間に深く皺を刻んだエースが呟いた。その目はクルー達と楽しそうに談笑しているナマエをとらえている。
「あいつは…ナマエはおれの女なのに……」
「……おいエース、お前飲みすぎてるよい…」
「まァ、そりゃお前の女だけどよ、おれ達にとっては妹じゃねーか。あの程度の絡みくらい許してやれよ。」
「ナマエもナマエだ。あいつ、自分がどんだけ可愛いかわかってねェんだ。」
マルコとサッチが宥めるも、エースに彼らの言葉は届いていないようだ。不貞腐れたように唇を尖らせて、その目は嫉妬の念に燃えていた。
「いや…確かにヒヨは可愛いけどな？あいつに欲情すんのはお前くらい…」
「チッ……もう我慢できねェ…！」
「ってエース！？」
ナマエがあるクルーに肩を組まれたのを見た途端、エースは壁から背中を離してナマエの方へズカズカと歩いていった。
「………ありゃヤバくねェかよい…」
「ああ……そして面白そうだ……」
「お前なァ…」
今にも炎を出しそうなエースの背中を不安そうに見つめるマルコに対して、サッチはニヤニヤしていた。完全に楽しんでいる。
「おっ！ナマエ、旦那が来たぞ！」
「ほ？」
「……」
エースが近づいてくると、それに気付いた一人のクルーがナマエを呼んだ。
エースとナマエの仲は公認だ。誰もが２人のやり取りを微笑ましく見つめようとしたのだが、エースの様子がおかしい。
「あ、エース隊長！お注ぎしますか？」
「……」
「……エース隊長…？」
ナマエをじっと、無表情で見つめている。ナマエが話しかけても反応を示さない。アルコールで火照った顔でただひたすらにナマエを見つめるだけだ。
「……」
「！！」
しかし次の瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。エースがナマエを抱きしめたのだ。
「えっ…ええ！？あの、エース隊長…！？」
「……」
いきなりのことにナマエは驚いてエースの腕の中でもそもそともがくが、エースの腕はナマエの腰をしっかりと抱いて放さない。
「ちょ、く、苦しい、です…！」
「ナマエ……」
「ど、どうしたんですか、エースたいちょ…！？」
「「「！！？」」」
精一杯の訴えが通じたのか、エースの腕の力が緩んでナマエがエースを見上げた瞬間――エースがナマエの唇にキスを落とした。一同、唖然。もちろんナマエも、茫然自失。
「ナマエ……」
「な、ななな……エー、ス、隊長…！？」
「好きだ。愛してる…」
「！？」
触れた唇はすぐに離されたが、ナマエの言葉を遮ってまた重なってくる。離れる時には下唇を軽く挟まれて、小さなリップ音。そして目の前にはエースの顔。それだけでナマエの顔はエースよりも赤くなった。
「な、は、え、エース隊長、よ、酔ってらっしゃるのです、ねっ！？」
「酔ってねェ…」
キスを阻止しようと手でガードするも、いとも簡単にエースの手に掴まれてまた唇を奪われた。
「っ、酔ってます！絶対酔ってます！普段のエース隊長なら人前でこんなこと、絶対…」
「見せつけてやってんだ…」
今度は顔を逸らすが、エースに後頭部を固定されて逃げられなくなる。目の前には熱っぽい視線で自分を見つめるエース。
「お前は、おれのもんだって。」
「！！」
後頭部にあった手が頬を優しく撫でた後、エースは噛み付くようにナマエに口づけた。
さっきまでの軽いキスとは違った深いキス。逃げようとするナマエの頭を再び固定して逃げられないようにすると、何度も角度を変えてその感触を貪る。
「んっ……ふ、ぁ……」
力が抜けてきた頃合を見計らって、エースの舌が隙間から侵入してきた。口内で逃げ回るナマエの舌を追い詰めて、絡めて、味わう。
ナマエの口からは色を含んだ吐息が溢れ、更にエースを欲情させた。
「「「「「………」」」」」
もちろん、その場にはクルー達もいるわけで…。
さっきまでの騒がしさが嘘のように、誰もが息を呑んで口づけを交わすエースとナマエに釘付けになっていた。普段見せないナマエの姿に赤面する者もいる。
「はァ、はァ……っ」
やっと唇が離されて、ナマエは足りなくなった酸素を懸命に取り込んだ。
しかしエースはまだまだ物足りないと言わんばかりにナマエの顎をすくった。
「……もーいっかい…」
「ッこなくそーーー！！！」
「ぶッ！！？」
もう一度近づいて来るエースの顔を、ナマエはありったけの力をこめて下から押し返した。
ガチン、と歯がぶつかる音が聞こえて、エースの体が仰け反った。
「エっ、エース隊長のエロ！スケベ！エッチ！スケコマシ！えーと……炎！」
「は……」
「うっ…ばかあああああ！！」
そしてナマエは思いつく限りの悪口（なんか一つ違う）を叫んで、その場から逃げ去った。
「……」
「……エース…」
ナマエが逃げ去った後、ぽつんと残されたエースにマルコが後ろから声をかけた。
「…マルコ…」
「…ん？」
「今のあいつ……めちゃくちゃ可愛くねェか？」
「……とりあえずお前は謝ってこい。」
ナマエに拒絶されてショックを受けてるのかと思いきや、エースの頬は緩みきっていた。
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