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顔が見たい

ゴール・D・ロジャー…
今の大海賊時代を引き起こした元凶。世間で"海賊王"と呼ばれる男。
そして……おれの、本当の…親父……。









小さい頃こそ荒れていたが、今は別にそんなこと気にしない。だって、する必要がねェからだ。
おれのオヤジは白ひげただ一人。そしておれを認めてくれる家族がいる。
あんな男とは関係ねェし、そいつがどこで何を言われようがおれの知ったこっちゃない。…実際、言われて当然なんだ。


「……ちっ…」


マルコに美味い酒があるって聞いて飲みに行ったのに、気分は最悪だ。
おれは大して酒も飲まずに船に戻ってきた。


「………」


……いやいや何やってんだおれ。ここは女部屋じゃねェか。おれの部屋はあっちだろ。


「……はァ…。」


無意識に女部屋に足を運んでしまった自分に、心の底から溜息が出る。
今の時間は11時。規則正しい生活を送ってるナマエはとっくに寝てる時間だ。
…それでも、おれは今どうしようもなくナマエの顔が見たいと思ってしまっている。
ナマエのことが好きなんだと気づいてからしばらく経つが、おれらの関係に何ら変化はない。
一緒にメシ食って、話して、笑って……それだけでいいと思ってた。
だけどナマエに愛されたいと思う欲張りな自分と、今の関係を壊したくないと思う臆病な自分が居て、嫌気がさす。


どんっ


「ふべっ」
「!」


廊下の曲がり角を曲がったところで人とぶつかった。ああ、全然前見てなかった。


「あれ、エース隊長?」


床に尻餅をついておれの名を呼んだそいつの声は、酷く耳に馴染んだ。
瞬時にナマエの声だと理解したが、おれの頭はついていけてない。
は、いや、何で、ナマエが、ここに?
おれは倒れたナマエを起こしてやることもできずに呆然を立ち尽くしていた。


「今帰ったんですか?」
「あ、ああ。」
「おかえりなさい!」
「!」


立ち上がって埃を払うと、ナマエはへらっといつものように笑った。
ああ、おれはこの笑顔が見たかったんだよなァ…。
ナマエの笑顔を見た途端、さっきまでおれの中にあった黒いものが綺麗さっぱり無くなった気がした。
それと入れ替わるように、ナマエが好きだというむず痒い気持ちがどんどん溢れてくる。


「…エース隊長…?」
「…ただいま。どうしたんだ?こんな時間に…」


ナマエが不思議そうにおれの顔を覗き込んできたから、慌てて言葉を紡いだ。


「…なんだか寝付けなくて。水を飲んできたんです。」
「そうか。」


食堂から戻ってきたところだったんだな。
この時、いつもなら「つまみ食いか?」とからかうだろうに、おれはそんな冗談言う余裕もなくて、また沈黙が訪れる。


「…エース隊長…」
「ん?」
「何か…あったんですか?」


今度は不安そうにゆらゆら揺れるナマエの瞳が、おれをとらえる。
いつもと同じように振る舞ったつもりだったのに、お前にはバレバレなんだな。
それだけ、おれを見てくれてるって思っていいのか…?


「あの…」


ナマエが喋るまで、自分がナマエの髪を撫でてる事に気付かなかった。
気付いても…ダメだ、止まらねェ。まだナマエに触れていたい。


「エース…隊長…」


ナマエの小さな手が髪を撫でるおれの手に重なった。
それはひどくあったかくて、おれの心を安心させてくれる。
好き、だ。どうしようもなく。


「…悪ィ、ちょっと酔っただけだ。」


喉から出そうになった言葉は飲み込んで、代わりにおやすみと呟いた。
急に寂しくなった右手をぎゅっと握って、ナマエの横を通り過ぎた。
ナマエが見ていた気がしたけど振り返らなかった。
また明日会える…それでいいんだ。






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