ネーミングセンス
「オヤジ!ちゃんと面倒みるから…!」
「散歩もするから…!」
「グララララ!好きにしろォ。」
クルー達が必死に説得にかかろうとしたわりにあっけなく白ひげの一言で犬の乗船が決まった。
ナマエは膝の上で気持ち良さそうに眠る犬を見つめてうんうんと悩んでいた。
「どーしたんだ?」
「…エース隊長…」
「この子の名前どうしようかなーって…」
これから一緒に旅をするからには、ちゃんとした名前をつけてやらないといけない。
そこで拾ってきたナマエが名付け親に抜擢されたのだが…なかなか決まらない。
かれこれ6時間程考え込んでいるらしい。
「何かいいのは思いついたのか?」
「はい!2つまで候補を絞ったんですが決められなくて…。あ、じゃあエース隊長、どっちがいいか決めてください!」
「…おれが決めていいのか?」
「はい!私じゃ決められないので!」
そんな、一緒に名前を考えるなんて…と、一瞬浮かんだ雑念をエースは頭を振って飛ばした。
犬の名前を決めるだけ、そして自分は選ぶだけ。そう言い聞かせて、軽い気持ちで選ぼうをしたエースだが、次の瞬間言葉を失う。
「ハラミとモツ、どっちがいいですか?」
「………」
どっちも選べない。
あまりものネーミングセンスの悪さに、エースはナマエの膝の上で眠る犬に同情の眼差しを送った。
「…どっちも変ですか…?じゃあ敗者復活でホルモン!」
「………」
だから何故そういう系しか出てこないのだろうか。
心底疑問だが、本人はいたって真面目なのだから言いにくい。
が、ここでエースが引き下がればオヤジとお揃いのひげを持つこの犬を、肉の名前で呼ばなければいけなくなってしまう。
それだけはなんとしても避けたい。犬のためにも、自分達のためにも。
「えーっと…なんだ、その……」
しかしうまく言葉が出てこない。
あまりはっきり言ってしまえばナマエを傷つけてしまうかもしれない。
犬の名前を一生懸命考えているナマエの気持ちは汲んであげたい。
「やっぱりしっくりきませんよね…。」
「え?いや…」
「いいんです気を遣わなくて!私もなんかしっくりこなくて……だから決められないんです。」
しっくりくるとかこないとか、そういう以前の問題なのだが……まあ結果オーライだ。
「エース隊長はどんな名前がいいと思いますか?」
「お、おれ?」
まさか自分にふられるとは思わなくてエースは驚いた。
が、この調子じゃあどうせナマエから出てくるのは肉の名前だ。
自分が考えなければこの犬に明るい未来はない……
そう思うと名前を決めるということは、人間だろうが犬だろうが重要な意味を持っているんだと実感した。
「………ステファン…」
なんとなく頭に浮かんだ名前を呟いてみた。
自分でも何でその名前にしたのかわからなかったが、何か直感的にこの名前で呼びたいと思ったのだ。
「や、悪ィ…」
「素敵です!!」
「……は?」
それでも言った後になんだか恥ずかしくて取り消そうとしたのだが、ナマエはキラキラした表情でエースを見つめていた。
「ステファン……この子にぴったりです!」
「え、おい嘘だろ?」
「素敵な名前……良かったね、ステファン!」
「ま…まじで…?」
ナマエは相当気に入ったらしく、もうステファン呼びである。
これからこの犬が自分の考えた名前で呼ばれると思うと、嬉しいというより気恥ずかしいという気持ちが勝る気がした。
「マルコ隊長マルコ隊長!ステファンです!エース隊長がつけてくれました!」
「そうかい。肉にならなくてよかったな、ステファン。」
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