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ワタワタ

「ふぁ〜あ…」


昼食の最中にまた眠っていたらしい。気がついたときはもう2時だった。
甲板に出ると太陽の光と潮の風を肌に直接感じた。ここ最近天気が安定してるってことは島が近いな。今度は春島か。


「よォエース、こっち来てみろよい。」
「ん?」


そういえば、甲板にすごい人だかりだ。
おれはマルコに誘われてその円の中に入っていくと、中心ではクルー二人が武器を手に睨み合っていた。


「てめェおれのグラマン食っただろ!」
「いいじゃねェか一つくらい!」


…喧嘩だ。
まったくこいつらもそうだが周りのやつらもよく飽きないよな。
この船での喧嘩なんて、ただのお祭り騒ぎの材料にすぎない。
本人達はもちろん、野次馬達もどっちが勝つかに賭けをして熱くなっている。


「エース、お前も賭けろよ。」
「どっちでもいいよ。」


おそらく賭けの言い出しっぺであろうサッチがニヤニヤしておれに聞いてきたから適当に流した。
だって、どっちが勝とうがおれには関係ねェ。
そういえばこの時間…そろそろナマエが洗濯物を干し終わってる頃だな……と思って人だかりとは反対方向に歩いていくと、


ヒュッ


すごい勢いで何かがおれの横を通り過ぎた。背後で歓声があがるのが聞こえた。
…なるほど、喧嘩していた一人が吹っ飛ばされたのか。そいつはそのまま洗濯ゾーンに向かって飛んでいく。
洗濯ゾーンに向かって…って、そりゃやばくないか!?あそこにはナマエが……


「ほっ!?」
「うお!?避けろナマエ!」


いたーーー!!
そして思いっきり吹っ飛ばされた男の軌道にいる!
慌ててそいつが言ったがバカか!ナマエにそんな機敏な動きができるわけねェ!


ドンッ


「ひゃああああ!?」
「ナマエ!!」


予想通り、見事にナマエは巻き込まれて男と一緒に吹っ飛んでしまった。
後でこいつらシメる…!そう心に誓って、まずはとにかくナマエの安全確認だ!
死んじゃいないだろうがあの衝撃だ…ケガぐらいしてるかもしれない。


「ナマエ!」
「いててて…」


駆け寄ってみると、男だけでナマエの姿が見当たらない。
大柄な男じゃないから、押し潰されていたとしてもどこかしら見えるはずだ。
男の背後には壊れた船のてすり……嫌な予感がした。


「ナマエ!!」


おれは今までにないくらいに焦って、船から身を乗り出してナマエを探した。
さっきまではしゃいでいたクルー達も真剣な表情でおれのあとに続いてきた。


「な…っ!?」


しかしおれ達の心配は杞憂に終わった。
ナマエは無事だ。海に落ちてない。それは一目でわかった。でも、常識が追い付かない。


「へっ…?」


おれを始め、みんなの視線がだんだん上へとあがっていく。
おれ達の目が捉えているのは、宙にフワフワと浮かぶナマエの姿。


「「「えーーー!?」」」


みんなが声をそろえて驚いた。
そりゃそうだ、海に落ちたはずのヒヨが空を飛んでんだからな。
誰かが「ナマエにこんな力が…」なんてもらしたが、ナマエの表情を見るかぎり本人も予想だにしていなかったという感じだ。
半泣きで、助けを求めるようにこっちを見つめてくる。


「エース隊長…」
「と、とにかくナマエ、降りれるか?」


聞くと、ナマエは自信無さ気に頷いた。
足をバタバタと一生懸命動かしておれに向かってくる。


「もう少しだ…がんばれ…!」
「エース隊長ー!」


宙に浮くナマエに手を差し伸べてナマエがそれを掴んだ瞬間、糸が切れたかのようにナマエの体がおれに傾れ込んできた。
もちろん受けとめたが、いきなりのことだったから尻餅をついてしまった。
ナマエが衝撃を受けないように、咄嗟にナマエの背中に手を回して抱き締めた。


「ナマエ…」
「こっ、こわかったあああ…!」


ナマエにどういうことだと聞く前に、ナマエはおれの胸板に額をおしつけて泣き始めてしまった。
まあ…わけもわからず海に落ちそうになって、わけもわからず空を飛んでたら、そりゃあ怖かっただろうな。
とりあえずナマエの頭を撫でて落ち着かせようとする。なんか、髪の毛の感触が前より柔らかくなったと思うのは気のせいか?
っていやいやこんなときに何を考えているんだおれは。今は髪質よりもっと重要な疑問があるんだ。


「……ナマエ。」
「はい…」


ナマエは落ち着くと、おれから離れて前にちょこんと座った。
今思ってみればなんか…すげェ恥ずかしい状況だったな…。マルコとかサッチがニヤニヤしてるのは気のせいだ、気のせい!
あー今更ドキドキしてきた。ちくしょう、離れたはいいが何でおれのズボンの裾握ってんだよ…!そーいうのまじでやばいんだって…!
っていやいやこんなときに何を考えているんだおれは。今は悶えてる場合じゃねえんだ。


「お前、なんか変な果物食べなかったか?」
「変な果物…?」


聞くと、ナマエは首をかしげて目を瞑った。どうやら記憶を思い出しているらしい。
目を瞑るのはいいがその、そろそろおれのズボンの裾を離してほしい。ほんとやばいから。


「あ…!」
「食べたのか!?」


ナマエははっとしたように目を開た。何か思い当たる節があるらしい。


「この前の無人島で…食糧探ししてるときに……」
「!」


あの時か……確かに、あの島じゃああってもおかしくはない…。


「…どんな果物だった?」
「えっと…形は桃みたいで、なんかグルグル模様があって……ものすごくまずくて……」
「………」


……どうやら、間違いないみたいだ。
空を飛ぶなんて普通の人間にできるわけがねェ。…となると、アレの能力としか考えられねェじゃねェか…


「ナマエ……そいつァ悪魔の実だ。」
「悪魔の実……………えええーーー!?」


おれのズボンの裾を握っていたナマエの手がここでやっと離れた。
目の前のナマエはまさに顔面蒼白。おれだって、そうだ。
平凡で、ただの雑用のナマエが悪魔の実を食っちまったんだ…。


「図鑑、持ってきたよい。」


マルコが一冊の分厚い本を持ってきた。
それは現在確認されている悪魔の実とその詳細を記した図鑑だ。
こいつ面白がってねェか?と思いつつも、おれはそれを受け取ってナマエに見せた。


「この中にお前が食った実はあるか?」
「えーっと…」


ペラペラとページをめくっていくと、ある1ページでヒヨの手が止まった。


「こ、これです!」


確かにそこにはナマエの証言通り、桃の形をした実が描かれていた。
えーっと、なになに…


「「「ワタワタの実?」」」


それが、ナマエが食べた悪魔の実の名前。
なんともナマエらしいっつーか…和やかな名前だ。


「で、どんなことができるんだ?」
「………体がワタになる。」
「…それだけか?」
「…それだけだ。」


甲板の上がしーんとなる。
そして数秒後、爆発したかのようにクルー達の笑い声が響き始めた。


「ぎゃははは!よかったなナマエ!変な実じゃなくて!」
「ああ!ナマエにはピッタリなんじゃねーか?」
「おいお前らそんな無神経に…」


そう言いつつも、おれもナマエに似合ってると思ってるわけだが、知らずに能力を手に入れてカナヅチになったナマエの気持ちも少しは…


「ま、まじですか!」


って喜んでるーーー!!


「私、オヤジ様に見せてきます!!」


キラキラした顔で走り去るナマエ。
この前、蛇を腕に巻いてるときも思ったけど……ナマエって大物だ。









■■
最初フワフワにしてましたが金獅子さん…!
とりあえず浮きたかったのでワタにしました。




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