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キスとデコピン

「…これでよし!」


キュッと包帯の端と端を結べば完成!
ここは船の簡易医務室。ちょっとした擦り傷とかの時のための医療品が揃っている部屋です。
これだけ人がいればナースさんも大忙しになっちゃうわけで。
ここだけの話、綺麗なナースさん目当てでわざとケガを作ってくる人もいるんだとか!
でもその気持ちもわかるなあ。ナースさんってばみんな可愛いし綺麗だしセクシーなんだもん!
だから軽傷だったら勝手にやってってことで、この部屋があるみたいです。


「…ありがと。」


私が巻いた包帯をさすりながら、リックが言った。
…最近思うんだけど、リック、なんだか柔らかくなった。
前だったらお礼とか言わなかっただろうな。「余計なことすんな」って怒りそう。
リックが少しだけど変わったのは、多分動物の島に行ってから。
相変わらずエース隊長を邪険に扱うけど、前みたいな刺々しさは無くなったし……なんかむしろ、仲が良さそうに見える。
なんだかんだでリックもこの船に慣れてきたのかと思うとすごく嬉しい。
……でも、リックの変化はそれだけじゃない。


「…最近リック、ケガばっかり。」
「べ、別に…ナマエには関係ないだろ!」
「うん…でも、心配だよ。」
「!」


そう……船の上だっていうのに、毎日リックは新しい傷を作ってくる。
腕に足に胸に顔に……もうその数は数え切れないくらい。


「知ってるよ、リックが毎朝稽古つけてもらってること。」
「……」


毎朝、みんながまだ眠っているような時間に起きて、ビスタ隊長と手合わせをしてるの、この前見た。
そりゃあ修行するのはいいことだけど……こんなにケガをつくられたら心配になってくるよ。


「男の子だから、しょうがないのかな…。」
「……」
「…そうだよね……エース隊長みたいに強かったら、かっこいいもんね!」
「…!」


この船の人はみんな強いし、やっぱりリックも男の子だから憧れるのかも。
私は強くなくてもみんなと一緒にいられるだけで嬉しいけど……やっぱり女の子と男の子って違うんだな。


「でも…無茶はしないでね。私にできることがあったら何でも………!!」
「………」


言葉の続きが言えなかったのは、リックが私の口を塞いだから。
唇に触れる柔らかい感触。目の前のリックの瞳がゆらゆらと揺れている。


「おれは別に、あいつみたいになりたいわけじゃない。」


私から離れたリックの目は、強い色を含んでいた。
はっきりと、どこか怒ってるように、リックは私に言った。


「おれは……おまえを守るために強くなるんだ!」
「へ…」
「…だ、だからナマエは、いつもみたいにへらへら笑ってればいいんだよ!」
「う、ん…?」


えっと……なんかリック、言ってることがよくわからないんだけど……
とりあえず最終的に私は笑ってればいいってこと…?……え、何で?


「……ばーか!」
「いたっ」


自分でもなんかよくわかんなくなってきて、うんうんと唸っていたら額に小さな衝撃。
リックにデコピンされた!地味な痛さだ。
私にデコピンをくらわしたリックはさっと立ち上がって、出て行ってしまった。


「……」


一人部屋に取り残された私は唇をなぞって、さっきの出来事を思い返してみる。
私の唇には、まだ温かくて柔らかい感触が残っている。


「……いま…」


キス、された……?


ガチャ


「!」
「ん?なんだナマエ、どっかで転んだのか?」


私が呆然としてると、扉が開かれてエース隊長が入ってきた。


「エースたいちょ…」


エース隊長が私に笑顔を向けてくれた瞬間、私の目から何かが零れ落ちた。
それが涙だってことには数秒で気づいたけど、何で出たのかがわからない。


「なっ!?どうしたナマエ、どっか痛いのか!?」
「い、いえ、あの、気にしないでください…」
「いや無理だろ!何かあったのか?」


エース隊長はびっくりして、ベッドに座る私の隣に腰を下ろした。
大丈夫だって伝えたいのに、胸がチクチクして言葉が出せない。
とにかく私は必死に首を横に振った。


「…おれには言えないことか?」
「!?」


エース隊長が俯く私の顔を覗き込んできた。
言えるとか言えない以前に、私自身が何で泣いてるのかがわからないわけで……
とりあえずエース隊長に心配をかけちゃいけない…!
それなのに、エース隊長の顔を見れば見るほど、胸が苦しくなって、涙が溢れてくる。


「ち、ちが…」
「ナマエ…」


私は耐えられなくてエース隊長から逃げるように顔をそらした。
けど、すぐに捕まえられて、またエース隊長と目が合う。
エース隊長に触れられた頬がとてつもなく熱い。エース隊長の目を、見てられない。


「何があった?」
「っ…」
「!」


真剣な表情で聞いてくるエース隊長。
私はもう限界で、エース隊長の胸に飛び込んだ。だってこれ以上見られたら、私どうにかなりそうだった。
何も言わずに背中を撫でてくれるエース隊長の優しさが、とてもあたたかい。


「エース隊長…」
「ん?」
「私、エース隊長が好きです。」
「!?」
「マルコ隊長も好きです。ジョズ隊長も、もちろんオヤジ様も……リックも。」
「……」


本当に…本当に、そう思ってる。
この船に乗ってる人はみんな好き。大好き。


「でも…」


ぎゅっ、と、エース隊長の背中にまわした手に力を入れた。


「何で…私、泣いてるんでしょうか…」
「…それをおれに聞くか?」


そしたら、それに応えるようにエース隊長も私をぎゅっと抱き返してくれる。
心がポカポカする。とても心地いい。だけど同時に、切ないのは何でだろう…。






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