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ライバル


数時間後、火拳がナマエをつれて船に戻って来た。
戻ってくるなりナマエはへらっと笑って「ただいま」なんて言うから、なんだかむかついて小突いてやった。
怪我とかしてないかとか、怖がってないかとか、心配したおれがバカみたいじゃねェか。


「よォナマエ、どこ行ってたんだい?」
「えっと、アルパカさんと森の中に…」
「はあ?」
「つまり迷子っすよ、迷子!」
「もーリック!」
「迷子か…違いねェ。」
「エース隊長まで…!」


本当はおれだってナマエを探しに行きたかった。けど、一番隊長が「ナマエのことならあいつに任せろ」って止められた。
その言葉が無性に気に入らなくて、そして本当にあいつを連れ帰ってきたのがまた気に入らなくて…
おれが、ナマエを助けたかったのに。


「まァ疲れただろ。一杯どうだい?」
「ダメですマルコ隊長私お酒は…」
「安心しな。オレンジジュースだ。」
「さすがマルコ隊長!ありがとうございます!」


オレンジジュースなんて、いつの間に取りに行ったんだか。
一番隊長も、なんだかんだでナマエのことを気にかけてる。でもおれと違って恋愛感情はない。…おっさんだしな。


「おい、おれらのは?」
「あの争奪戦でとってこい。」


一番隊長が指差した先には酒を奪い合う海賊達。ったく……何で海賊っつーのはこうも品が無いのかね。


「ちぇー。マルコはナマエに甘いよなー。」
「そりゃお互い様だろい。」
「私が取ってきましょうか!?」
「「是非やめてくれ。」」


火拳とかぶった。
ナマエになんて取りに行かせたら、絶対もみくちゃにされて手ぶらでヘロヘロになって帰ってくるに違いない。
…いや、帰ってこれないかもしれない。
火拳もおれと同じような事を推測したんだろう。


「行くぞリック。」
「おれは別に…」
「そんなこと言うなって。」
「おい放せ!」


別におれは酒なんて飲みたくないのに、火拳は無理矢理おれの腕をとって引っ張っていった。
火拳に引っ張られながら、笑顔で手を振るナマエと目があった。……ちくしょう、可愛い…。













酒をもらって(というか奪って)、おれと火拳は甲板の隅に移動した。
海賊達の騒ぐ声よりの波の音がよく聞こえる。


「どーだ、ここにはもう慣れたか?」


そして火拳はそんなことを聞いてきた。
慣れて、たまるか。そもそもおれは白ひげの命を狙ってるんだ。あいつを殺すつもりでこの船にいる。


「…慣れるつもりはない。って最初に言っただろ。」
「…おれには楽しそうに見えたけどな。」
「そんなわけ…」
「特に…ナマエの隣では。」
「!!」


ふと、白ひげのことを「オヤジ様」と呼んで楽しそうに話してくるナマエが脳裏に浮かんだ。
まるで自分のことのように、嬉しそうに「オヤジ様」について語るナマエを見て、本当にあいつが好きなんだなって思った。
あいつだけじゃない。一番隊長だって、三番隊長だって、ナース達だって……もちろん、今目の前にいる火拳だって。
みんな、あいつは大好きなんだ。そしてみんなも、あいつを大切に思ってる。


「あいつ面白いだろ!」
「…アンタは…」
「?」
「……あいつ…ナマエのことが、好きなのか?」


その中でも、火拳のあいつに対する想いも……あいつの、火拳に対するものも、おれには特別に見えた。


「…ああ、好きだぜ。」
「!」


火拳は何のためらいもなく答えた。
淀みのない瞳がまっすぐおれを見据えてきて、おれは思わず目をそらした。


「おまえはどーなんだ?」
「……最初は、変なやつだって思った。」


雑用なんてやってられるかなんて思ってたし、実際あいつにもキツい言い方をした。
それでもあいつはおれにうざいくらい話しかけてくるし、「オヤジ様は偉大なんだよ」とか言ってくるし……
「仲間」……って、言ってくれた。


「おれは敵だって言っても…馴々しく話し掛けてくるし……アホだし…ドジだし…」
「…おまけにお人好しだ。」
「……なんか、ほっとけない。気付いたら目で追ってて…アンタとかと楽しそうにしてると、むかついて…」
「……」
「今日だって…」


ナマエを助けるのは、火拳じゃなくて……おれでありたかった。


「…おれは、あいつを守りたい…!」
「……そうか。」


言い終わってから、おれは何てことを口走ってたんだと思った。しかも、火拳相手に。
きっと酒のせいだ。恥ずかしくなって俯いたら、おれの頭の上に火拳の掌が降ってきた。


「じゃ、おれたちはライバルってわけだ。」
「!」


顔を上げると、ニカッと歯を見せて火拳が笑っていた。
何だよ、それ……ずりィ。何であいつといい……この船の奴は、おれなんかと対等でいてくれるんだよ…!


「触ンな!!」


おれは照れ隠しにその手を振り払った。
火拳は笑っていた。






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