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動物の島



「島が見えたぞー!」


見張り台の上から一人のクルーが叫ぶと、それを聞いたクルーたちが復唱する。
やがて船内にいた者たちも出てきて、島はどこだと甲板に集まった。


「え!エース隊長は行かないんですか!?」
「ああ…船番になっちまった。」


島が見えたというのにエースがやけに大人しいと思ったら、今回は2番隊が船番を任されてしまったらしい。
てっきり一緒に上陸できると思っていたナマエはしゅん、と残念そうに俯いた。


「そうですか…。」
「…ま、楽しんでこいよ。」


寂しそうなナマエの頭に、エースは励ますように手をぽんと乗せた。


「おい、いつまで待たせんだよ。」
「ああごめんねリック!」
「……」


エースの大きな手にドキドキしていたナマエを呼び戻したのはリックの声だった。
今回はリックの初上陸ということで、ナマエが一緒に行って上陸の極意を教えるのだと張り切っていたのは数分前のこと。


「エース隊長!おみやげ買ってきますね!船番お願いします!」
「おう。」


船が港につくと、一目散に船から飛び降りていくクルーたち。
ナマエもリックと一緒にそれに続いて船を後にした。


「……」
「いいのかよい?」


船の上でいつまでもナマエの背中を見送るエースに話しかけたのはマルコだった。


「…何が?」
「二人で行かせちまって。」
「……」


エースはナマエの背中を見つめたまま黙る。


「リックのやつ、今のところ自覚はしてるが認めたくねェみたいだない。」
「…ああ。」


リックがナマエのことを気にしているのは誰が見てもわかる。事実、そうなのだ。
その証拠に船に乗った当初の刺々しさはナマエと接していくうちにどんどん柔らかくなっていった。


「ああいうのはいつ本気になるかわかんねーぜ?」
「…そーだな。」










「ここは天国ですか…」
「……」
「あはは、好きなだけ見てきなよ。」
「はい!!」
(…帰りたい。)


島に上陸したナマエとリックは早速土産屋を覗いていた。ナマエに半ば強制的に入らされたようなものだ。
ぬいぐるみにキーホルダー、ペナントまである。それはどれも動物をモチーフにしたものだった。
ナマエは目を輝かせて商品に夢中になるが、リックは心底興味がなかった。


「これ可愛い!」
「そりゃアルパカだよ。」
「こっこここれが噂のアルパカさん…!?」


アルパカと聞いた途端に、ナマエの目が更に輝いた。
前から「アルパカさんアルパカさん」と言っていたナマエだが、実物を見たことは一回もなかった。
とりあえず「もふもふしてる」と聞いてずっと憧れていたのだった。


「お姉さん!これ3つください!」
「はいよ!」
(3つ…?)


ナマエは迷うことなくアルパカの小さな置物を3つ、手にとってレジに持っていった。
同じものを3つも……いったい何に使うんだろうかとリックが思っていると、商品を受け取ったナマエが笑顔で帰ってきた。


「はい、リック!」
「え…?」
「あげる!初めての冒険の記念に!」
「な…こんなもん…!」


そしてたった今包装してもらった袋を一つ、リックに差し出す。
リックにプレゼント、らしい。正直アルパカになんて興味はないし、置物なんてあっても困るだけ。
すぐに突っ返そうと思ったが、目の前のナマエは満面の笑みを浮かべている。完璧、リックが喜んでくれるのを期待している顔だ。


「……ありがと。」
「どういたしまして!」


そうなると、リックも無碍に「いらない」とは言えず、素直にそれを受け取った。
ナマエはリックが喜んでくれたのだと思って、一層笑みを深くした。


「お嬢ちゃん、アルパカが好きならサラダ牧場に行くといいよ。」
「牧場…ということはそこにアルパカさんが…!」
「もちろんさ。」


その様子を微笑ましく見ていた店の女性が、ナマエにとっては嬉しい情報を教えてくれた。
牧場…ということは、実物をおがめる。あわよくば触れ合えるかもしれない。
ナマエは「行きます!」と即答したかったが、なんとかその言葉を飲み込んだ。
今日はリックの初上陸なのだ。ナマエが勝手に行き先を決めるわけにはいかない。


「どっ、どどどうしようかリック…、私、は、別に…どっちでもいいけどさ、リックが行きたいなら…」
「……」
「その…あの…」


視線をあちこちに泳がせながら、チラチラとリックの表情を伺うナマエ。
それがなんだか面白くて、リックは小さく笑った。


「…あーわかったわかった…行きたい!」
「!! じゃ、じゃあ行こうか!うんそうしよう!」
「……」










「…ここは天国ですか…」
「……」


無事サラダ牧場につき、アルパカの長い首に抱きつくナマエ。頬をすりよせて夢にまで出たその感触を堪能する。


「もふもふ…想像よりもずっともふもふ…」
「500ベリーで乗れるよ。」
「乗ります!!」
「まいど。兄ちゃんは?」
「…おれはいい。」


管理人に言われるとやはり即答するナマエを、リックは呆れた表情で見つめた。
牧場についてからというもの、ナマエは興奮しきってリックなんてお構いなしだったが、不思議と不快には思わなかった。


「はあああ…幸せ…」
「!?」


あまりにも興奮していたせいか、ナマエが加減もせずに後ろからアルパカの首を抱きしめた。
さっきまで無視して草を食べ続けていたアルパカもこれには驚いたみたいで、ビクッと飛び跳ねた。


「ほっ!?」


ドドドド


「なっ…」
「えええーー!?」
「ぎゃー!何てこったー!」


そしてアルパカはナマエを乗せたまま柵を越えて森の中へ。
あっという間に取り残されたリックと管理人は顔を青くする。


「ちっ…」
「おい兄ちゃん!…行っちまった…。」


リックは軽く舌打ちをして、森の方へ走っていった。









それから数時間後。日はすっかり暮れて、もうほとんどのクルーが船に戻ってきていた。
明朝の出航に向けて、船上では宴が始まっていた。


「……」


そんな中、エースは一人、酒も飲まずに船の隅に立っていた。眺めているのは町の方。
    

「帰ってこねェな。」
「……」


その隣にマルコが並んだ。エースは返事をしなかった。
もうすっかり夜だっていうのに、ナマエとリックがまだ戻ってきていない。


「買い物に夢中になってるか…何か事件に巻き込まれたか…」
「……」
「はたまたリックが変な気でも起こしたか…」
「…リックはそんなことしねーよ。」
「…そうかい。」


そんな会話をしていると、港に繋がる一本の道に人影が見えた。
ナマエとリックが帰ってきたのだと思ったが、その影は一人分しかない。


「!」
「おいリック!ナマエはどうした!?」











「ううう…こ、ここどこ…?」


その頃、ナマエはアルパカと一緒に森の中を彷徨っていた。
すっかり暗くなった森には何ともわからない生き物の鳴き声が木霊していて不気味だ。
いくらナマエが冒険好きだと言っても、さすがにこの状況では楽しめない。


「ねえアルパカさん、来た道わからないの?」


アルパカに縋ってみるも、完全無視。ナマエには全く興味がないようでやっぱり草をムシャムシャと食べている。


「…寒くなってきたな。」


この島は秋島。昼間は過ごしやすいが夜となるとなかなか冷える。
上着を持って来なかったナマエはアルパカの首に抱きついた。今度は驚かせないように優しく。


「あったかい…」


アルパカのふわふわとした毛並みがナマエの頬を暖める。ナマエは気持ちよさそうに目を瞑った。


「でも……エース隊長の方があったかいなぁ…」


ぎゅっ、と、少しだけ腕に力を入れる。
思い出したのは以前感じたエースの体温。


「…って私は変態かッ!」
「!?」
「ぎゃーごめん驚かせてごめんだから一人にしないでー!!」


自分で自分に突っ込んだナマエに、再びアルパカが驚いて暴れだす。
ナマエは必死でその首にしがみついた。ここでアルパカに見捨てられて一人になったら怖すぎる。


「はぁ…。みんな…心配してるかなあ…。」


アルパカが落ち着いて、ナマエも落ち着きを取り戻す。
考えるのはやっぱり船のことで、出航が明日の朝になっていることを思い出した。


「どうしよう、置いていかれたら…」


急にものすごい不安がナマエを襲った。
見知らぬ土地で、しかも森の中。どこをどう走ってここに来たのかもわからない。
明日の朝までに船に帰れる保証なんてどこにもなかった。


「やだよ…みんなと一緒にいれないなんて…私…」


置いていかれる、という恐怖がナマエの胸を支配して、涙が次々と溢れてきた。


「ナマエ!!」
「!?」


その時、すごい勢いで草木が掻き分けられ、そこから現れたのは息を切らしたエースだった。


「はぁ、はぁ…無事か?」
「……う゛…エース隊長〜…!!」


エースの顔を見るなり、どわっと泣き出すナマエ。
今までの不安が一気に消し飛び、胸の中に安心感が広まると同時に、とめどなく涙が溢れてくる。


「ぷっ…すげー顔だぞ。」
「だ、だって、みんなにおいていかれたら、どうしようって…」
「仲間を置いてくわけねェだろ!」
「エースたいちょぉおお!」


エースの暖かい言葉に、またナマエの涙腺が刺激される。
もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだがナマエにとってそんなことはどうでもよかった。
これからも白ひげ海賊団の船に乗せてもらえる……それだけで幸せだった。


「ほら、これで鼻水拭け。」
「…涙を優先させてください。」
「いや、鼻水の方がすごいからよ。」
「乙女になんてことを!」
「事実だろ?」
「……はいそうです。ありがとうございます…。」
「プハハ!」


エースに渡されたハンカチを素直に受け取り、容赦なくそれで鼻をかんだ。


「…無事で何よりだ。」
「!」


目尻の涙はエースの指にすくわれて、その逆の手がナマエの頭を包み込んだ。
ナマエが視線をそっとあげると、エースがあまりにも優しい笑顔を向けていたので、なんだか恥ずかしくなってナマエはまた俯いた。


「…あ!エース隊長!おみやげがあるんです!」
「?」


しかしそれも束の間。ナマエは大事なことを思い出して顔を上げた。
ごそごそと自分のバッグの中をあさり、小さな袋をエースに差し出す。


「はいどうぞ!」
「悪ィな。開けていいか?」
「もちろん!」


開けてみると、袋から出てきたのはアルパカの小さな置物。
エースは反応に困った。


「……」
「えへへ、是非お部屋に飾ってください!」
「あ、ああ…ありがとな。」
「どういたしまして!」


正直、アルパカの置物なんていらない。
しかしナマエからのプレゼントならば話は別だ。
自分でも似合わないと理解しつつも、部屋に飾ろうとエースは心に決めた。


「さ、帰るか!」
「はい!」





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