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もえもえ事件



ガシャンッ


「ぎゃーー!おい孃ちゃん、あんたの連れが…!」
「あ、大丈夫ですいつものことなので!」


とある秋島のレストランで食事中、いつもの如くエースが皿の中に顔を突っ込んだ。












カシャッカシャッ


「うーん…」


眩しい光とシャッター音に、ナマエは眉間に皺を寄せて目を覚ました。


「…ほっ!?」
「も、もえ…」
「もえー」


段々と冴えていく視界に映ったのはカメラを手に頬を赤らめハァハァ言ってる男達。
ナマエはフリーズした。
さっきまで自分はエースと一緒に昼食を食べていたのに、何故こんなハァハァした男達に囲まれているのだろうか。
そこまで考えて、トイレに行った時急に襲われたことを思い出した。


「!?」
「あー落ち着いてくれ。手荒なことはしないからさ。」


段々と青ざめていくナマエに声をかけたのは、一人派手な椅子に座った仮面をつけた男だった。
もしかしなくてもこの男がリーダーだろう。その優しい声色に少し安心しそうになったが……


「おとなしく言うことを聞いてくれれば怖いことはしないからね…ハァハァ…」


仮面の下に隠れていた顔があまりにもハァハァしていたため、ナマエは更に身の危険を感じた。
あの無防備なナマエがここまで危険を感じるんだから相当だ。


「!?え、これ…」
「よく似合ってるよ。」
「ああ…期待以上だ…」


ここでナマエはいつもより何か動きにくいことに気が付いた。
それは何故か…服が違うからだ。いつものTシャツと短パンというラフな格好ではなく、ひらひらふわふわのスカート。
いわゆるメイド服という奴だ。なけなしの胸を強調するようにしめられた紐が窮屈でしょうがない。
つまりそれは、ナマエが寝ている間に誰かによって着替えさせられたという事。見たところ女性の姿はない。いるのは息を荒げたおっさんばかり。
ナマエはそこまで考えて首を振った。知らない方がいいこともある。
その間も男達はハァハァしながら一人葛藤するナマエを写真に収めていた。


「じゃあまず立ってくれるかな?」
「……」


リーダーの男が言った。相変わらず声色は優しいが、そこには拒絶を許さない圧力も含まれていた。
恐怖を感じてナマエが言うとおりに腰をあげると、短めのスカートから紺色のニーハイをはいたナマエの足が露になった。
横に広がりなおかつ短いスカートのため下着が見えてしまうんじゃないかと、ナマエは羞恥心に顔を染めた。


「もえ!」
「もえ!」


下着が見えないようにふわふわのスカートを押さえるのも、この男達の心をくすぐる行為に他ならない。
急に興奮しだして、男達は連写し始める。
とりあえず命の危険は無さそうだが、それと同じくらい大切なものを失っている気がする。
一体自分はどうなってしまうんだろうか……ナマエは溢れてくる涙を必死に我慢して、スカートの裾を握った。









一方、こちらはナマエがさっきまでいた飯屋。


「んがっ…」


ずっと更に顔を埋めて寝ていたエースがその上で目を覚ました。
顔を拭いて、ふと隣を見ると一緒にご飯を食べていたはずのナマエがいない。
ナマエがエースに黙って勝手に帰るとは考えにくい。それに、ナマエの分の食事はまだ半分くらい残っている。


「おいおっさん、ナマエは!?」
「孃ちゃんならトイレに…ってそーいや長いな…」
「!!」
「お、おい兄ちゃん!」


エースは嫌な予感が頭を過ぎり、なりふり構わず女子トイレへ駆け込んだ。


「きゃー!?」
「…!」


中で化粧を直していた女性が悲鳴をあげた。
そりゃあ、女子トイレに上半身裸の男が乗り込んできたのだから当然の反応だ。
しかし今のエースにそんなことを気にしている暇はなくて、トイレの床に落ちていたものを見つけて目を見開いた。


「…ックソ!!」


それは紛れもなく、エースがナマエにあげた髪飾りだった。
エースはその髪飾りをぎゅっと握って、店を出て行った。


「く、食い逃げ…」









そしてナマエの方に戻るが……撮影はまだ続いていた。


「もえー!」
「こいつァ10年に1人の逸材だ…!」


しかもメイド服から肌の露出が多い超短パンへそ出しスタイルに変わっている。
次はこれだと着替えを押し付けられて、着替えさせられそうになったナマエがなくなく自力で着替えたのだった。
そろそろこのフラッシュにも慣れてきたナマエは心の底からげんなりしていた。


「ハァハァ…このアイスを食べてごらん…」


一人の男が息を荒げながら一本の棒状ミルクアイスをナマエに差し出した。
その目は何かの期待に満ち溢れている。周りの男も「でかした!」と口々にカメラを構えた。


「え…ありがとう、ございます…」


そんな男心なんてナマエにわかるわけがなく、とりあえずがぶっとそれにかぶりついた。


「「「ぎゃーー!!」」」
「か、噛みやがった…!」
「?」


途端に絶叫する男達。
「信じられねェ…!」と、まるで絶望したかのようなオーバーリアクションで悶え始めた。
ナマエにはますます意味がわからない。


「棒状アイスは舐めるって決まってんだよ!」
「え、だって溶けちゃ…」
「とにかく舐めろ!」
「んっ!?」


何故か半ギレされて頭をつかまれた。
やっぱり意味がわからないが言う通りにしないと何をされるかわからない。
ナマエヒヨは目前に出された棒状のアイスに向かって、恐る恐る舌を出した。
男達によって腕が拘束されているため手を使うことはできない。首を一生懸命伸ばしてそこに辿り着いた。


「「「ーーーッ!!」」」


すると、今度はまた別の意味で悶え始める男達。
うっすら涙を浮かべながら棒状のミルクアイスを舐めるナマエはなんていうか…エロかった。


「よ、よーしいいぞぉ…次はしゃぶるんだ…」
「噛んじゃダメだぞ…」
「はむ…んっ…」


言われた通りにアイスの先端を小さい口に含む。
ナマエの意志とは関係無しにアイスを持っている男が前後に動かすため、ナマエの口の端からは溶けたアイスが零れていった。


ドゴォッ


「ナマエ!!」
「「「!?」」」


そんな時。閉められていたシャッターが大きな音を立てて壊れた。
埃の奥に見えたのは、肩を上下に揺らしたエースだった。


「う、エース隊長!!」


ナマエがエースの名を呼ぶと、ナマエの口に入っていたアイスが地面にべっとりと落ちた。
どうやらここにナマエが居る事に間違いないらしい。
段々と煙が晴れてナマエの姿がはっきりしてくるが、エースはその姿に目を見開いた。


「ッ!?」


まず格好が違う。足の付け根程しか隠せていない短パンからは、普段見れないナマエの太ももが惜しげもなく晒されているし、お腹もまた然り。
そしてナマエの周りにはハァハァした男が数人。両脇の2人がナマエの腕を拘束している。
当の本人は涙目で、口の端には白い液体。


「火銃!」
「ぎゃっ」
「ぐわっ」


とりあえずエースは考えるよりも早くナマエの両脇に居た男を攻撃した。


「エース隊長ー!」
「大丈夫かナマエ!?」
「こ、こわっ…怖かったー!」


拘束がなくなったナマエは震える足でエースの胸に飛び込んだ。
相当怖かったんだろう、わんわんと胸の中で泣くナマエの頭を、エースは優しく撫でてやった。


「泣き顔もえ!」
「…ああ?」


シャッターを切りだした男達をエースはこれでもかという程鋭く睨みつけた。
なんとなく、状況が理解できた。ナマエを探していた時に耳にしたのは、萌え系の女ばかりを狙った人攫いチームの事。


「ひ、怯むな!あの男だってもえてるぞ!」
「うううるせぇ!」


よく見るとエースの顔はいつもより赤く染まっていた。
そりゃあ、普段と違う格好のナマエが自分の胸の中にいるのだ。照れない方がおかしい。


「てめーら覚悟しろ…」


気を取り直してエースは戦闘体勢に入った。









数分後。村はずれの倉庫は焼け野原と化していた。


「エース隊長、何もここまで…」
「いや、まだ気がおさまらねぇくらいだ。」


ナマエはいつもと違った気迫を浮かべるエースに少し恐怖を感じた。
男達はみんな死んではいないが、黒焦げになって地面に伏せている。


「…あ!」


ナマエは何かを思い出したように、倒れている男に近づいた。


「どうした?」
「この人たち、すごい写真とってきて…えい!」


そして男が黒焦げにされても尚大事そうに抱えていたカメラを奪い取ると、それを思い切り地面にたたきつけた。
これでさっきの写真が世に出回ることはないだろう。
なるほどな、とエースもそれを手伝うことにして、カメラを探して歩き回った。


「…!!」


倒れているリーダーに近づくと、その手に写真の束が握られていることに気付いた。
その写真に写っているのは紛れもなく、ナマエだ。しかもメイド服。


「(……可愛い…!)」
「エース隊長、どうしたんですか?」
「ななな何でもねェっ!」


後ろにナマエの声を感じて、エースは慌てて左手に持っていた写真の束を燃やした。
右手に持って眺めていた一枚は、咄嗟にポケットの中に。


「そーいえばそろそろ出航時間じゃないですか!?」
「そーいや…」
「早く行きましょう!」
「だけどナマエ、服は…」


そろそろ日が暮れてきた。ログは8時間程で溜まると言っていたから、そろそろのはずだ。
早く船に戻ろうと促すが、今のナマエの格好は超短パンにへそ出しスタイル。
こんな格好のまま街中を歩くのはきっと抵抗があるだろう。
そんなエースの気遣いに、ナマエは言いにくそうに視線を泳がせた。


「えっと…あっちに…」


ナマエの視線を辿ると、小さな灰の山。
それがナマエの着ていた服だったことになんとなく気が付いたエースは勢いよく頭を下げた。


「…悪い!」
「い、いいんです!安物だったし!」


エースが暴れた際に巻き添えをくらって燃えてしまったらしい。
だからといって、やっぱり超短パンへそ出しには抵抗がある。ナマエもだが、エースにもだ。他の奴に見せたくない。
エースは赤い頬をポリポリと書いて、自分が羽織っていたシャツを脱いでナマエにかけた。


「!」
「何もないよりは…マシだろ。」
「…ありがとうございます!」


これでお腹を隠すことはできた。
だがやはり男物のシャツはナマエには大きすぎて、更に超短パンなため下に何もはいてないように見えてしまう。
…逆に悪化してしまった気がする。
しかしナマエはそんなことに気付かずに、エースの厚意に素直に感謝した。


「ぶかぶかのシャツとは…アンタもなかなかもえ心がわかってるな…」
「!!」
「がふっ」
「行くぞヒヨナマエ!」


まだ喋ることができた男に核心をつかれて焦ったエースはその男を足蹴にしてナマエの腕を引っ張った。









「お、帰ってきたぞ。」
「まったく何してたんだか…」


そろそろ出航の時間だというのに帰ってこない2人を心配していたマルコとサッチが、浜辺から近づいてくる2つの影に安堵の息をついた。
しかしその影が近づくにつれて……つまりナマエの格好を見て、2人は固まる。


「お、遅れてすいません!」
「い、いや…」
「エース隊長、これ洗濯して返しますね。」
「ん?ああ。」


エースのシャツを羽織るナマエ。下は…何もはいてないように見える。
ナマエは恥ずかしそうに頬を染めて船内へと走っていってしまった。


「おいエース、こりゃどういうこったい。」
「まさかお前ついに…!?」
「ばッ、ちげーよ!」
「ん?ポケットから何かはみ出てんぞ。」
「ぅわっと!みみみみ見んなッ!!」


メイド服を着て困ったような笑顔を浮かべたナマエの写真は、エースの部屋で大切に保管されることになる。






■■
ここでやっと「オタクに異様にモテる」というどうでもいい設定が活きました。




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