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初めてのお酒



「よーエース!飲んでるか!?」
「おう。」



グランドラインの海の上。白ひげ海賊団の船上では盛大な宴がひらかれていた。
理由なんてもう誰も覚えちゃいない。とにかく騒げればそれでいいのだ。
なんせ本船だけでもクルーの数は千人以上は容易いため、一口に宴と言ってもその規模はとんでもないものになる。
いい加減このどんちゃん騒ぎにも慣れたエースは適当にサッチの話を聞き流しながら自分のペースで酒を飲んでいた。
冷静に周りを見てみれば、飲み比べ大会でマルコとナースの一人が勝負しているのが目に入った。その隣ではジョズがつぶれている。
おそらく決勝戦くらいだろう。毎回勝つのはあの2人のどちらかだ。



「……」



3杯目を飲み干したとき、エースはふと、ナマエのことが気にかかった。
そういえば宴のときにナマエの姿を見たことがない。参加はしているはずだ。
ナースたちとでも一緒に飲んでるのかと思ったが、その中にナマエの姿はない。



「いやああああ!!」
「!?」



そんなとき、クルーたちの騒ぐ声に混じってナマエの悲鳴が聞こえてきた。
エースは気持ちよさそうに話すサッチを残して、声が聞こえた方に急いだ。



「ぎゃはははは!!」
「ほら飲め飲め!」
「いーやーでーすー!」



一方ナマエはというと、最初はナースたちとおしゃべりしていたのだが、トイレに行った帰りにすっかりできあがったクルーたちに捕まっていた。
実はナマエは今までの宴で、一滴たりとも酒は飲んだことはない。
なんでもナマエの故郷では20歳になるまで酒を飲んではいけないことになっていて、ナマエは19年間、頑なにそれを守っていたのだ。



「おい、しっかりおさえてろよ。」
「おうよ!」
「ななな何をーー!?」
「宴でシラフなんて許さねーぞヒヨ!」
「ぎゃーやめてくだっ…!!」



しかし酔っ払いにとってシラフほどつまらないものはない。
ナマエが飲んでないことを知ると、クルーたちは無理矢理にでも飲ませたくなったらしい。
一人がナマエを後ろから羽交い絞めし、もう一人がナマエの口にグラスを押し付けた。



「んっ…ぅん…ッふぁ…」



少し開いた口の隙間から、どんどん酒が流れ込んでくる。吐き出すわけにもいかず、ナマエは仕方なくそれを喉に通していった。
飲みきれなかった酒が吐息と一緒に零れ、ナマエの口の端を伝って服を濡らしていく。



「な、なんかおれ今ナマエ相手にドキドキした…。」
「おれも…」
「ううう…」



涙で潤んだ瞳に、赤く染まった頬。
息苦しそうに肩を上下させるナマエの姿に、男心が煽られたのは気のせいではない。
さっきまでノリノリだったクルーたちがいつもは見せないナマエの色っぽさに動揺した。



「おい…おめーら何してんだ?」
「「!?」」



そんなところにエースが登場。
いつもより低い声に、クルーたちがびくっと肩を揺らす。
恐る恐る振り返ってみると、そこにはやはり鬼のような形相をしたエース隊長がいた。
エースがナマエのことを気にかけているのはもはや周知の事実だ。クルーたちは一気に顔を青くした。



「い、いや、ナマエがどうしても酒飲まねェっつーから…」
「ちょっとからかうつもりでよォ…」
「…おいナマエ、大丈夫か?」
「……」



精一杯言い訳をする2人は睨むだけで、エースはまず俯いて動かないナマエに声をかけた。
よく見れば肩が震えている。泣いているのだと思って、エースは再びクルー2人を睨んだ。



「何てことするんですかー!!」
「「「!」」」



すると、ナマエが威勢よく顔をあげた。
確かに泣いてはいるが、何やらテンションがおかしい。



「20前にお酒飲むと、成長止まっちゃうんですよ!?」
「「は…?」」
「私、後一年にかけてたのに…」
「ナマエ…?」



わなわなと震えるナマエ。その震えは悲しいからというよりは、怒っているからだと思われる。
あのナマエがここまで怒るなんて、ただ事じゃない。



「Eカップ目指してたのに…!!」
「「「……」」」



身長の話かと思ったら違った。どうやらナマエは胸のことを言っていたらしい。
エースを含めた3人は唖然とし、どう反応していいのかわからなくなった。



「ばかばかばかーー!!」
「わ、悪かったって!」



怒ったナマエがクルーの1人をでたらめに殴る。
殴ると言ってもナマエのパンチは海賊からしたらへなちょこで、むしろ肩叩きでもされてるような状態だ。



「ナマエ、その辺にしとけ。」
「う…わああんエース隊長ー!」
「!」



さっきまで怒っていたエースも、ナマエの理由が理由なだけにすっかり落ち着いて暴れるナマエを宥めた。
ナマエはエースに振り返ると、そのままエースの胸板にダイブ。そこでわんわんと泣き出した。
まさか抱きつかれるとは思ってなくて、思いっきり不意をつかれたエースは赤面。
幸い最初から酒で顔は赤かったのでなんとか誤魔化すことはできるが、心臓がうるさく鳴り響く。
それがナマエに知られないように、エースはそっとナマエの肩を持って自分の体から離した。



「酔ってるな…部屋戻るか?」
「っく…ひっぐ…」



エースを見上げるナマエの瞳は涙でぐちゃぐちゃだが、とろんとしている。少なからずアルコールがまわっているようだ。
ナマエは涙を拭きながら頷いて、エースの手を握った。



「よォエース。…お持ち帰りかよい?」



エースがフラフラするヒヨを引っ張っていると、マルコに声をかけられた。
飲み比べ勝負には勝ったらしい。まだまだ余裕そうにグラスを持っている。
からかっているような口ぶりだが、その視線は変なことしたら許さないとエースに告げている。



「…ちげーよ。酔ったとこ襲うわけねーだろ。部屋に届けるだけだ。」
「…立派なこったい。」



エースの言葉を信用したのか、マルコは再び宴の輪の中へ戻っていった。



「行くぞナマエ。」
「ふぁい。」













「おいナマエ、ついたぞ。鍵は?」
「鍵ですか?」



女部屋の前までついたが、みんなまだ宴に参加して戻ってきていないらしく、部屋には鍵がかかっていた。
エースと手は繋いだまま、もう片方の手でポケットを探るナマエ。



「……」
「……」



ズボンの左ポケットに手を突っ込んで、次に右ポケット。しばらくがさごそ動かして、また左ポケットに戻った。
エースの頭に嫌な予感がよぎる。



「…おい、まさか…」
「ないです。あは!」
「んな…!?」



驚くエースに対してナマエは軽く笑った。いやいや、そんな笑って流せることじゃない。
鍵がないということは部屋に入れないということだ。



「ど、どーすんだよ!?」
「大丈夫です私廊下で寝ますねおやすみなさい。」
「いやいやいや待て待て待て!!」



部屋の前の壁によりかかって座り込もうとしたナマエを、エースは慌てて引っ張った。












そして最終的に2人が行き着いたのはエースの部屋だ。



「しょーがねェから…今日はおれの部屋を使え。」



状況的にすごくやばいことになっているが、マルコに言ったようにエースにナマエを襲う気はない。
ナマエを寝かしつけたあとはまた宴に戻り、甲板の上で一晩過ごそうと考えていた。



「ありがとーございますおやすみなさい。」
「まだ休むな!」
「えー」



一直線にベッドに行こうとしたナマエの襟をがしっと掴む。



「…服、濡れてるだろ。風邪引くぞ。おれの貸してやるから着替えろ。」



ナマエのTシャツはさっき零れた酒で結構濡れていた。そのまま寝たら風邪を引いてしまう恐れがある。
エースのシャツではナマエには大きすぎるだろうが、濡れているのよりはマシだろう。
ナマエは渡されたTシャツを広げて一言、感想をもらした。



「…エース隊長、服持ってたんですね。」
「そりゃまあ一応な。じゃあおれは一回出るから、着替え終わったら…ってちょっと待てェーー!!」



エースが何気なくナマエに振り返ると、ナマエは思いっきりTシャツを脱いでいた。何の恥じらいもなく、むしろ豪快に。
エースは反射的に後ろを向いたが、彼の優れた動体視力はしっかりと水玉模様を捉えてしまった。



「おま、いきなり脱ぐか普通!?」
「…すいませんそしておやすみなさい。」



ナマエの軽い謝罪の後に、ぼふっと音がした。まるでベッドに何かが沈む音。
「おやすみなさい」という言葉を最後に、途端に静かになるナマエ。
エースは凄まじく嫌な予感がしてゆっくり後ろを振り返った。



「……」



すると、案の定ベッドの上に寝転がるナマエ。その瞳は幸せそうに閉じられている。
更にまずいことに、今エースの部屋には布団というものがなかった。
つまりエースの視界にまた水玉模様が映った。今度は堂々と。しかしエースまで目をつぶるわけにはいかない。



「ちょ、寝るなナマエ!頼むから!」
「…ん。」



そうエースが呼びかけると、ナマエは目を閉じたままの生返事で体をもそもそと動かした。
そのおかげでベッドの右半分に人一人分のスペースができた。
どうやらエースの言葉の真意を「おれの寝る場所がねぇじゃねーか」と捉えてしまったようだ。



「いやそういう問題じゃなくてだな…」
「エース隊長…」



エースが対応に困っていると、ナマエは体を横にしてエースを見つめた。



「寒い…」
「!?」



「寒いなら服を着ろ!」そう思ったが、口に出すことができなかった。
エースの視線がめちゃくちゃに泳いでいる。横になったことによって胸に谷間ができ、更にナマエの熱っぽい瞳に耐えられなかったのだ。



「お、おまえなァ…」
「っくしゅん!」
「……」



仕舞いにはくしゃみをして体を丸めてしまった。
その姿はまるで寒空の下捨てられた子犬のようだ。
エースは観念したように溜息をついて、ナマエの体にTシャツをかぶせてから自分もベッドに入った。



「…あったかい、です。」
「!!」



エースが隣に来ると、ナマエは丸まっていた体をエースにすり寄せた。
心中交錯するエースをよそに、幸せそうに目を瞑るナマエ。このまま寝るつもりだ。



「ちょ、ナマエ、そりゃマズイ!」
「何でですか?」



エースはもうどこかに行きそうな理性をなんとか保って、ナマエの肩を掴んだ。



「いいかナマエ。…おまえは女で、おれは男だ。」
「はい、わかってます。」
「いやわかってねェ。男と女が同じベッドで寝て、何もないと思うか?」



こんな状態で寝られたらどうにかなりそうだ。
そう思って、エースは真剣な表情でナマエに諭した。脅しのつもりだ。
いくらナマエが普段へらへらしてるからと言って、この意味がわからないはずがない。



「それって、エース隊長が私にえっちなことするかもってことですか?」
「おまっ……間違っちゃいないがもうちょっとオブラートに包んだ言い方をだな…」
「エース隊長は、私なんかにそんなことしませんよ。」
「!」



エースの期待とは裏腹に、やっぱりナマエは離れようとしない。
むしろエースによって少し離された体をまたくっつけてきて、エースの胸元でクスリと笑った。
そこまで言い切られるなんて、信用されてると思えば嬉しいが、意識されてないと思うと素直に喜べない。
実際エースの理性はギリギリだったし、こうも純粋に信用されてはなんともいえない罪悪感を感じてしまう。



「私Cしかないし…」
(………Bかと思ってた…。)
「それに…」



ナマエの額がエースの胸板にくっついて、エースの心臓が一瞬高波をうった。



「エース隊長だったら、私、別に……」
「なッ…!?」



瞬間、エースの顔が真っ赤に染まる。
胸元にいるナマエに余裕で聞こえるくらい心臓がうるさく波打つが、今のエースにそんなことを気にする余裕なんてなかった。
そんなことを言われたら、期待してしまうじゃないか。
エースはドキドキしながら続きの言葉を待ったが、いつまで経ってもそれが発せられることはなかった。



「……ナマエ…?」
「くー…」



何故なら、ナマエは寝ていたからだ。
エースは岩で頭を殴られたような衝撃を受けた。



「このタイミングで寝るか…!?」
「アルパカさん…」



すりすり、とナマエがエースの胸板にすりよる。その顔は幸せそうだ。



「〜〜ッ…拷問だ…!!」



それに対してエースは、これから朝までなけなしの理性と悶絶することになる。













そして翌朝。



「んー…」



ナマエはゆっくり目を開けた。
5秒程ぼーっとしてから、自分の部屋でないことになんとなく気づく。
ふと視界に入ったのはオレンジ色のテンガロンハット。エースの頭の上に見慣れたものだ。
それが今、机の上に置かれているのが見える。



「…あれ?」



意識とともにだんだんと神経も起きてきて、後ろに温もりがあることに気がついた。
布団かと思ったがそれよりもかたくてゴツゴツしてるし、後ろから包み込まれている感じだ。
視線をおとすと、自分の腹部が人の腕によってがっちり固定されていた。
首を一生懸命後ろに向けると、大口を開けて眠るエースのドアップ。



「……へ!?え、ええ!?」



ナマエはここで初めて、自分はエースと一緒に寝ていたということと、ここはエースの部屋であることを理解した。
さらに上に身につけてるのが下着だけだということにも気づいて、頭が真っ白になる。
もちろん驚いて昨日のことを思い出そうとするが、酒を飲まされた後の記憶が曖昧だ。
ナマエは一気に顔を赤くし、とりあえず抜けようとエースの腕の中でもそもそともがいた。



「こら…」
「あひゃーー!!」



しかしエースの腕は外れないし、かえってより一層きつく体を引き寄せられてしまった。
密着する素肌にどんどん顔が赤くなっていく。



コンコン



「おいエース、ナマエが部屋にいないらしいんだが…」



2回のノックのあと、扉が開かれてマルコが部屋の中に入ってきた。
その背後には昨日ヒヨに無理矢理酒を飲ましたクルー2人が申し訳なさそうに立っている。どうやら謝りに来たらしい。
女部屋を訪ねたところ、ヒヨがいなかったのでとりあえずエースに聞きに来たというわけだ。
マルコは目の前の光景を見て固まった。



「あ、マルコ隊長たたたたすけっ、ひゃ…」
「ん…」



ベッドの上に、上だけ下着姿のナマエとそれを後ろから抱きしめるエース。
更にエースは何の夢を見てるのか知らないが、後ろからナマエの首筋に口付けをしているではないか。
ナマエがくすぐったそうに身じろぐが、エースはナマエを離そうとしないし、その行為もやめようとしない。
どう考えても、ナマエがエースに襲われているようにしか見えなかった。



「あッ…ん、エースたいちょ…!」
「……」



ドゴォォオッ



「うおお!?」



マルコは状況を理解するとともに、思いっきり寝ているエースの顔を蹴り飛ばした。
部屋の壁の木材がミシミシと音をたて、埃が宙に舞う。



「……」
「何すんだマルコ!!」



いきなりの衝撃に何だとエースが目を覚ました。
エースの視界に最初に映ったのは凄まじい形相で自分を見下ろすマルコの姿。
寝起きのエースには状況がまるで理解できなかった。



「おいエース…おまえ、酔ったナマエを襲うつもりねェとか言ってたよなァ…?」
「あ?ああ、当たり前だろ…」
「じゃあこりゃどういうこったい?」
「は…」



マルコが珍しく怒声をあげながら指さしたのはエースのベッドの上。
そこには顔を赤くしたナマエがシャツで胸元を隠しながら2人の様子をぽかんと眺めていた。
その姿を見て昨日の壮絶な出来事を全て思い出したエースは、途端に顔を青くした。



「いや待て!おれは何もしちゃいねェ!」
「ほォー…この期に及んでまだそんなことが言えんのかい…」
「本当だ!おまえおれがどんだけ我慢したか…」
「御託はいい…覚悟しろい。」
「だから…ッ!!」



朝10時。モビーディック号にエースの断末魔と青い炎が広がった。













おまけ



「お、おいナマエ…」
「?」
「その…悪かったな、昨日無理矢理酒飲ませちまって…」
「悪い…!」
「え?あ、いやそんな…」
「でも…望みあると思うぜ、Eカップ!」
「ああそうだ!豆乳飲むといいらしいぞ!」
「なーーーー!?」







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