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シャンクスさん




ある日の昼下がり。モビーディック号の甲板にはとてつもない緊張が走っていた。
その中心にいるのは白ひげと、赤髪の男。言わずも知れた四皇の一人、赤髪のシャンクスである。
クルー達は固唾を呑んで2人のやり取りを見つめていた。少しの動作もできない程の緊張感が充満している。



「グララララ!こいつァなかなかの酒だ!」
「だろ?手に入れるの苦労したんだ。」



シャンクス曰く、「ただ酒を飲みに来た」だけらしいが、その割には凄まじい覇気を撒き散らしてきた。
既にもう若いクルー達が何人もやられてしまっている。四皇2人の酒盛りなんて、並の神経じゃあ耐えられない。
覇気になんとか耐えたクルー達も、本心を言えば一刻も早くこの場から立ち去りたい。
しかしそうしようにも、足を動かせるような状況ではないのだ。
結果、冷や汗をかきながら見守ることしかできない。



ビュオッ



そんな中、一吹き強い風が甲板を突き抜けた。



「あああジョズ隊長のパンツが!」



バサッ



聞きなれた雑用の声がしたと思えば、次の瞬間、シャンクスの顔面を何かが覆った。
純白の布…そして雑用の言葉から、それがジョズのパンツであることは容易に理解できた。



「「「!!」」」
「グララララ!!」



一気に顔を青くするクルー達と、大笑いする白ひげ。
シャンクス本人に至っては微動たりとも動かない。



「まったくジョズ隊長のパンツはよく飛んで…ってぎゃあああああ!?」



パンツを追いかけてきた雑用……ナマエは甲板の光景を目の当たりにして、叫んだ。
なんてったってたった今飛んでいったパンツが人の顔面にへばりついていたのだ。
そして風になびく赤い髪を見て、それが誰なのか、嫌でもわかってしまった。



「ごっ、ごごごごめんなさいほんっとごめんなさいあの…ごめんなさい!!」



ナマエはクルー達に負けない程顔を青くして、更に半べそをかいて、とにかくバカみたいに謝った。
他にどうすればいいのかわからないのだ。ナマエはものすごい勢いで床に額を打ち付けた。



「わ、悪いな赤髪…。まァ…風のイタズラだ、許してやってくれい。」



まだ額を打ちつけようとするナマエの頭を、マルコがつかんで止めた。
さすがのマルコもこの事件には冷や汗をかいているようだ。



「マルコ隊長…!いいえ私が悪いんです!一発で死ぬ自信はありますがどうぞ思う存分殴ってください!!」
「おい…」
「だっはっはっは!!」
「へ…」



ナマエがマルコの手を振り払って、シャンクスを真っ直ぐ見据えると、シャンクスは顔面からパンツを剥がして大笑いし始めた。
顔を上に上げて、相当おかしそうに笑っている。ナマエはわけがわからなくて涙の溜まっている目を丸くした。



「白ひげ、アンタ面白いやつ乗せてんなァ!」
「グララララ!まァな。」
「ほっ!?」



ずしっ、と頭に重みを感じると、白ひげの大きな手がナマエの頭に乗せられていた。
シャンクスと白ひげ、2人を交互に見るが2人とも至極楽しそうだ。



「おいアンタ、おれの仲間にならねェか?」
「っ!?」
「馬鹿言うなガキが!こいつァおれの娘だ。」
「オヤジ様…!」



シャンクスは無邪気な笑顔でナマエを覗き込んでとんでもないことを言い放ったが、間髪いれずに白ひげがあしらう。
その言葉にナマエは感動して白ひげを見上げた。



「だっはっは!まァここ座れよ。」
「あ、う…」



それでもシャンクスはやっぱり楽しそうに笑って、自分の隣をバンバンと叩いた。
シャンクスの隣に座れということなのだが…たかが雑用なんかが四皇の隣になんて、座れるわけがない。



「ん?怒っちゃいねェから安心しな。」
「は、い…失礼します…!」
「だっはっは!ほんとおもしれー!」



かと言って四皇の言葉に逆らえるはずもなく、ナマエは冷や汗をたっぷりかきながらシャンクスの隣に腰を下ろした。
その動きはロボットさながらにぎこちなかくて、それを見てまたシャンクスが笑う。



「飲むか?」
「いえ、私お酒は…」
「この酒はうまいぞー。おれが知る限り最高の酒だ!」
「あの…」



聞いた割にはナマエの返答を聞かずにシャンクスは勝手にナマエの分の酒を注いでいった。
ナマエは酒が飲めないのだが……ナマエにはそれを強く主張する度胸がなかった。



「あ!エースさん!」
「…よォエース、早かったな。」



白ひげを囲んでいるクルーの一人が声をあげて、それに白ひげが続いた。
エースは今日の朝から次に到着する島の偵察に行っていた。どうやらそれから帰ってきたらしい。



「ああ。赤髪が来るって聞いてな…って何でナマエがそこに!?」
「エースたいちょぉおお…!」



子電伝虫で部下からシャンクスが来ることを聞いていたエースはシャンクスの姿に驚きはしなかった。
しかし、ナマエがその隣で半泣きで猪口を握っているなんて聞いてない。
ナマエはエースに向かって助けてオーラを全面に押し出した。



「…ナマエ…?」
「へ…」
「アンタ、ナマエっつーのか?」
「は、はい、私の名前はナマエですごめんなさい…」
「……」



ナマエの名前を聞くと、シャンクスは何を思ったのかナマエの顔を見つめ始めた。
そりゃあもう、じーーーっと、穴が開くほどにガン見だ。
こんなにも見られては居心地が悪くて、ナマエはその視線から逃れようと顔と目線を挙動不審に動かした。



「…ひゃっ」
「!」



するとシャンクスが動くなと言わんばかりにナマエの頬に手を当て、顔を固定する。
とうとう逃げ場がなくなりシャンクスしか見れなくなると、ナマエの体中にぶわっと嫌な汗が噴き出した。



「アンタ…」
「赤髪、その手を放せ。」
「おいエース…」



もちろんエースがそれを黙って見てられるわけがなくて、シャンクスに向かって少なからずの殺気を向けて言った。
マルコが落ち着けようと制止するが、言ったところで止まる様子じゃなかった。周りに再び緊張感が走る。



「ん?ああ悪い。アンタ、父親の名は?」
「え?…ハトリ、です…。」
「やっぱり!!」
「わっ!?」



ナマエの答えを聞くや否や、シャンクスは片手でナマエの肩をがしっと掴んだ。
片手でもナマエを驚かせるには十分の衝撃で、ナマエはわけがわからなくて目を丸くしている。



「そーいや娘がいるって聞いてたが…そうかアンタがナマエか!」
「! 父を知ってるんですか!?」
「知ってるもなにも、おれァ昔ハトリさんと同じ船に乗ってたんだ!アンタのことは耳に穴があく程聞いてたぜ!」
「…ほっ、本当ですか!?」



どうやらシャンクスはナマエの父親と面識があるらしい。それでナマエの顔をじっと見ていたのだ。
ナマエもナマエで、シャンクスが父親のことを知っているとなると嬉しさの方が勝って、満面の笑みを浮かべた。
周りの緊張感も一気にとけて、安堵の溜息をついた。










「あはははっシャンクスさん面白い!お父さんが言ってた通りです!」
「だっはっは!ナマエの親父には負けるぜ!」
「……」



そして数分後、気絶しそうな程の緊張感が走っていた酒盛りは、ナマエが加わったことで随分と和んでいた。
ナマエ自身、シャンクスに対する恐怖心はすっかり消えてとても楽しそうに談笑している。
あの四皇のシャンクスと、たかが雑用のナマエが、仲良くなってる…。
エースはナマエの隣からその様子を面白くなさそうに見ていた。



「さすがハトリさんが自慢するだけあるなー!」
「いやはやそんな…」
「なァナマエ、おまえほんとウチに来いよ。歓迎するぜ?」
「も、シャンクスさんってば…」
「ダメだ!!」



すっかりいい気分になったシャンクスはナマエの肩を抱き寄せて、更に頬を寄せてきた。
シャンクスの無精ヒゲが頬に当たって痛いやらくすぐったいやらで身をよじるナマエ。
それでも離れてくれないシャンクスを剥がしたのはエースだった。



「…だっはっは!そんな怒んなよエース!!」
「……」
「?」



相変わらず爆笑するシャンクスに、警戒心丸出しで睨むエース。
さっきからこの2人を見る限り、ただの顔見知りというわけでもなさそうだ。



「…シャンクスはおれの弟の命の恩人なんだ。」



ナマエの不思議そうな視線に気づいたエースが答えた。



「弟……ルフィさんの?」
「ルフィのこと知ってんのか!?」
「はい!エース隊長からお話だけ…」
「そーかそーか!じゃコレは知ってるか!?」



ルフィの話となると、兄のエースばりにテンションが上がるシャンクスを見て、ナマエはくすっと笑った。
その日、宴は夜まで続いた。






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